部屋に戻って、“あの箱”を見つめた。
机の隅にひっそりと置かれたその箱の中には、あの時公平から手渡された、泥のついた野球ボールが眠っている。
――『久しぶりに見たよ。亜美が声出して笑ってるとこ』
梓に言われた言葉を思い出してみても、どうしても実感が湧いてこなかった。
だって、公平と再会して、私は心から笑えていなかったのだから。
ずっと会いたくて、忘れられなくて、胸を焦がし続けていた愛しい人とまた会う事が出来て、こんなにも長い時間を共に過ごせて――。
本当は物凄く嬉しいはずなのに、私は公平の事が好きすぎて、逆に嬉しいなんて思えなかった。
公平と目が合うたび、声を聞くたび、胸を刺すのは切なさと期待と、それと同じくらいの諦めだ。
公平のふとした仕草に一喜一憂し、勝手に傷ついて、胸の奥をかき乱される。
挙句の果てに、高校の頃の甘酸っぱくて息苦しい、辛い過去ばかりが蘇る。
あんな思いまでして、公平と一緒になって声を出して笑っていたなんて――。
『あまりにも楽しそうで、声かけらんなかった』
梓のその言葉が、嘘みたいに思えた。
――公平の事が好きすぎて。
物凄く好きすぎて、自分がどんな顔をして彼の隣に立っていたのかさえ、もう分からなくなっていた。
箱の蓋にそっと触れる。
指先から伝わる冷たさが、胸の奥に燻り続ける熱い痛みを、静かに引き際立たせていた。


