「そういう、自分で考えられないところ、亜美らしいよね」
「……ハハハ」
苦笑いで返すしかなかった。
「そんなことよりさ、昨日、公園にいたでしょ。男の人と」
――ドクンっ
11歳の妹から突然言われた言葉に、私は動揺を隠せなかった。
先ほどよりも、目の泳ぎが激しくなるのが自分でも分かる。
「いた……ねー。そういえば……」
何故こんなに焦るのだろう。
別に、やましいことをしていたわけでもないし、隠すような事でもないのに――……。
「なんかさ、久しぶりに見た気がする」
『なにを?』と問いかけるように、私は息を呑んで梓の顔を見つめた。
「亜美が、声出して笑ってるとこ」
不意に投げかけられた言葉に、思考がピタリと止まった。
「水風船の投げ合いしててさ、笑ってたじゃん亜美。学校帰りに、思わず立ち止まって見ちゃったよ。声すらかけらんなかった。あまりにも、二人が楽しそうで」
梓は意地悪な顔をするでもなく、少しだけ安堵したような大人びた目で私を見つめていた。
「最近さ、亜美、家でもずっと難しそうな顔してんじゃん。スマホ見つめて溜め息ついたり、ボーッとしたりさ。……だからさ、昨日の公園で、楽しそうに笑ってて、良かったなって、ちょっと思った」
ノートをパタンと閉じた梓が、素っ気なくそう付け加える。
「……あの人、誰? 亜美の彼氏?」
「ち、違うよ! 久しぶりに会った、高校時代のただの友達!」
「ふーん。ただの友達ねぇ……」
からかうようにニヤリと笑う梓を見て、胸の奥がぎゅっと締め付けられた。
昨日、公園で公平と笑い合っていた私。
ボールを手渡して、心の中で『さようなら』を告げたあの瞬間。
あの笑顔の裏で、どれだけ胸を痛めていたか、11歳の妹は知る由もない。
「……そっか。私、笑えてたんだ」
「うん。すっごく嬉しそうだった」
梓の言葉が、自分でも気づかないフタをしていた感情を優しく突いてくる。
公平と一緒にいる時の私は、確かに一番私らしく笑えていたのかもしれない。
そしてそれと同時に、もう二度とあんな風には笑えないのだという現実が、静かに胸に押し寄せてきた。


