ホワイトボードの文字を完全に無視してドアを開けると、机に座って何かを書いていた梓が、咄嗟に“何か”を隠した。
そして、ギロリと私を睨みつける。
「マジ最低。亜美、字読めないわけ? なに勝手に入ってきてんの?」
発想は小学生でも、梓の口から出てきた言葉は女子高生のような口調だった。
それも無理はない。
一番言葉を覚える2、3歳の頃に、私がこんな言葉遣いをしていたのだから。
梓は、私を見て育っている。
これは、私が悪い。
「あ、ごめん。てか何してんの?」
「別に?」
梓は素っ気なく言って、咄嗟に隠した“何か”をまた引っ張り出していた。
それは、可愛らしいイラストがプリントされた、小さな日記帳のようなノートだった。
どうやら、誰にも見られたくない秘密をコソコソと書き留めていたらしい。
「別にってことないでしょ。隠すから余計気になるんだけど」
私の視線に気づいた梓は、ノートを胸元にぎゅっと抱え込むと、ぷいっと横を向いてしまった。
「亜美には関係ないし。……それより、お母さんの誕生日、何あげたの?」
「うっ……」
私は思わず言葉に詰まった。
「……これから考えるの」
「ふーん。綾姉ちゃんから香水届いてたでしょ。下からの声、丸聞こえだったよ」
「あーうん……そうみたいだね」
妹にまで一発食らわされて、私は梓のベッドの端っこに腰を下ろした。
綾のような完璧さもなければ、梓のような素直さもない。
自分の恋すら綺麗に諦めきれない私は、一体この家でどんな顔をして過ごせばいいんだろう。
「……ねぇ、あずぴー」
「なに?」
「お母さん、何あげたら喜ぶと思う?」
小さく溜め息をつきながら訊ねる私を、梓はあきれたような、けれど少しだけ憐れむような目で見つめていた。


