公平の手から、私の手にボールが渡り、私は、心の中でそっと囁いた。
『さようなら』
掌に伝わるボールの重みが、あまりにも重くて、あまりにも冷たい。
「池内?」
私の沈黙を不審に思ったのか、公平が覗き込むように覗いてくる気配がした。
けれど、私はもう二度と、その優しさに満ちた瞳を見返すことができなかった。
恋人になれないなら、せめて『特別な友達』でいたいと願っていた浅ましい自分に、さようなら。
「新郎」なんて甘い幻を見せてくれた彼への、届かぬ恋心に、さようなら。
「……うん、大事にするね」
目を固く閉じたまま、私は笑顔の仮面を張り直して、そのボールをぎゅっと両手で包み込んだ。
校舎の向こうからは、体育祭の閉会式を告げる放送がうっすらと響き始めている。
空はどこまでも青く澄み渡り、先刻までの雨が嘘のように、私たちの濡れた服を乾かしていく。
公平と手を繋いだ「新郎新婦」のゴールも、二人で泥だらけになって笑い合った水風船も、全部、全部。
もう、ここに置いていこう。


