全てがキミだった


「なんか、俺にもよくわかんねぇけど、これだけは、池内に持ってて欲しくて。うまく言えないけど、俺にとって、池内はなんつーか、特別な感じ、だから」

言葉に詰まりながら、照れくさそうに吐き出された公平の言葉。
私の心が、ぐらっと大きく揺れた。

『特別だから』

その一言が、鋭い刃のように胸の奥深くへと突き刺さる。
分かっている。
それが、男と女の間に生まれる恋愛対象としての『特別』とは違うことくらい。
友達という名の、都合のいい居場所。
何でも話せて、甘えられて、けれど決して一線を越えることのない、友達としての『特別』。

今の私達は、友達以上恋人未満なんて綺麗事じゃ片付けられない、残酷で曖昧な関係なのだろう。

あまりにも複雑な位置に置き去りにされて、感情が麻痺してしまったのか、流れるはずの涙さえ出てこなかった。

公平の大きな掌の上に鎮座する、傷だらけの野球ボール。
このボールを受け取ることは、何か恐ろしい儀式のように感じた。

ミサキを想う公平と、公平を想う私。
この引き裂かれそうなほど切なく微妙な関係に、自分自身で終止符を打つための――逃げ場を失くすための儀式なんだ、これは――。

私は、固く目を閉じた。

視界を真っ暗に閉ざしたまま、吸い寄せられるようにゆっくりと手を伸ばし、公平の手のひらに乗っている真っ黒なボールに指先を触れさせた。

冷たくて、重くて、ミサキの影がしみついたその固い皮の感触が、私の掌を満たしていく。

「……ありがと」

かすれた声でそう呟くのが、今の私にできる精一杯の抵抗だった。