全てがキミだった


私も一緒になって笑う。
公平と目を合わせながら何度も笑って、

「池内らしい」

なんて、公平から柔らかく言われて。

泥だらけで、服も髪もビショビショで、担任には怒られて進学のことだって何も決まっていない。
それでも、公平とこうして笑い合えているこの瞬間だけは、間違いなく幸せだった。

「あ、そだ。池内、これ」

公平は思い出したように声を上げると、体育服のズボンのポケットからあるものを取り出した。
公平のポケットからは、本当にいろんなものが出てくる。
借り物競争の紙に、水風船に、それから――。
まるで、あのアニメに出てくるポケットのように。

けれど、彼の大きな掌に乗せられたそれを見た瞬間に、さっきまでの温かい幸せは急速に冷やされ、私の胸がズキリと激しく傷んだ。

泥で汚れ、皮の縫い目が擦り切れた野球ボール。
それは、この前公園で私が公平に押し返した、あのボールだった。

「これさ、やっぱり、池内に持ってて欲しい」

そう言って、公平は何でもないことのようにそれを私に握らせてくる。

……だから、それを私にどうしろというの?

ミサキとの思い出が詰まったそれを、私はもう二度と見たくなくて、公平の元へ追い返したはずだったのに。

タキシードを着て「新郎」として私を連れ出してくれたのも、「おまえしかいない」と甘い言葉をくれたのも、ぜんぶ公平だった。

それなのに、手元に戻されたこの硬い感触が、私に現実を突きつける。
公平にとって、私はどこまで行っても「ミサキとの思い出を共有する相棒」でしかないのだと。

期待させて、突き落として。
彼のポケットから出てきたのは、夢のような甘い思い出なんかじゃなく、私がどれだけあがいても届かないミサキの影だった。
掌にズシリと残るボールの重みを感じながら、私は言葉を失ったまま、固まったようにそれを見つめていた。