全てがキミだった


もう2学期の秋風が吹き始めているというのに、私はまだ進路をどうするか決めかねていた。
きっと、こんな風に迷っているのは学年で私だけかもしれない。

2年生だといっても、進学か就職か、文理の方向性も含めて大まかな希望を固めていく時期だ。
3年生になって焦らないために、担任の田辺は事あるごとに「そろそろ真剣に将来を考えろ」と口うるさく言ってくる。

3年生になってしまえば、求人票が出たり推薦の手続きが始まったりして、あっという間に選択の猶予はなくなる。
分かってはいるけれど、私はどうにも前へ進めずにいた。

自分の将来を描こうとするたび、どうしても目の前に公平の姿がちらついてしまう。

彼と同じ道を目指すのか、それとも、この息苦しい片想いに区切りをつけるために、全く別の遠い場所へ行くべきなのか。そんなことばかり考えてしまって、ペンが止まってしまう。

「……呆れた?」

もう一度小さく肩をすぼめて、となりで座り込む公平に尋ねてみた。
すると、さっきまで目を丸くしてポカンとしていた公平は、緊張の糸が切れたみたいにフッと息を漏らして笑った。

「最っ高」
「……は?」
「おまえ、マジで最高。進路希望用紙で紙飛行機作って飛ばす奴なんて、世界中探しても池内くらいだろ」

公平は壁に頭を預け、可笑しそうに喉を鳴らして笑う。

「田辺が必死こいて追いかけてくるわけだわ。あいつ、自分のクラスからそんな大物が出たと思って泡喰ったんじゃねぇの?」
「笑い事じゃないよ……。また進路希望用紙もらいに行くの、すっごく気まずいんだから」
「いいじゃん、俺も一緒について行ってやるよ。『俺が紙飛行機にして飛ばしました』ってさ」

そう言って、公平は泥と水で濡れた髪をくしゃりと掻き揚げた。
雲の隙間から差し込む秋の柔らかい日差しが、彼の濡れた横顔をきらきらと光らせている。

「……で、本当はどうすんの? 進路」

からかうようなトーンを少しだけ落として、公平がふいに真面目な声で訊いてきた。

「まだ何も。公平は……決まってんの?」
「俺? 俺はまあ、なんとなくかな」
「なんとなく?」
「うん。でも、池内がどこ行くかは気になる」
「なんでよ」

私の問いかけに、公平は少しだけ視線を泳がせると、またいつもの意地悪そうな笑みを浮かべて見つめ返してきた。

「なんでって……おまえがいなくなったら、暇じゃん」

ああ、もう。
また、そうやって……。

冗談めかした言葉の裏に、どれだけの本気があるのか分からない。

2年生の今、まだ具体的な手続きが始まるわけではない。
けれど、この宙ぶらりんな時間の限界は、少しずつ、けれど確実に近づいている。

「暇だから」なんていう理由で、私をこの場所に繋ぎ止めないでほしい。

そう思いながらも、繋がれた手から伝わっていた温もりの余韻がまだ消えなくて、私は「勝手なこと言わないでよ」と小さく呟くのが精一杯だった。