「こらっ、おまえら何やってる!!」
「うわ、やべっ……!」
突然、校舎の陰から雷のような怒鳴り声が響き渡り、私と公平は同時に肩を跳ね上がらせた。
振り返ると、赤鬼のような凄まじい形相をした担任の先生が、怒りに顔を膨らませてこちらへ猛ダッシュしてくるところだった。
「池内、逃げるぞっ!」
公平が私の腕を引く。
私達は足元に散らばった水風船のカラフルな残骸をそのままにして、担任の追跡から逃れるために全力で泥のグラウンドを蹴った。
体育祭のどの競技だって、こんなに本気で速く走ったことなんてないかもしれない。
「おまえらっ、体育祭くらいもっと真剣に取り組めよっ!!」
後ろから追いかけてくる担任が、必死の様相で大声を張り上げる。
「はっ? 先生、俺さっきのリレーマジで走ったんだけどーっ!」
公平が走りながらケラケラと笑って言い返す。
「違うっ! そういう事じゃなくてっ……ハァ、ハァ……!」
中年でメタボ気味の担任は、早くも息が上がり始めていた。
必死で腕を振っているものの距離はどんどん離れていき、もはや言いたいことすらまともに言葉にならないようだ。
しかし、先生は最後の一絞りとばかりに、グラウンド全体に響き渡るような声を張り上げた。
「池内ーっ! おまえも、進路希望用紙すらまだ出さずにこんなところでふざけてばっかだろうがーっ!!」
えっ……全力で走りながら、今ここでそれ言う!?
思わず眉をひそめて、走りながらちらりと後ろを振り返る。
ぬかるんだ土を蹴り上げながら必死に追いかけてくる担任の姿と、横で「うわ、池内怒られてんじゃん」と悪戯っぽく笑う公平の横顔。
進路のこと、これからのこと、そして公平との曖昧な関係のこと。
現実の重たい課題が一気に押し寄せてきて、私は胸の奥がキュッと締め付けられるのを感じながらも、脚を止めることができなかった。


