複雑な感情が胸の中でぐちゃぐちゃに渦巻いたまま、私は最後まで公平の手を振り払うことができず、彼と固く手を繋いだままゴールラインを駆け抜けた。
鼓動が、痛いくらいに早鐘を打っている。
この激しい胸の高鳴りは、タキシードを纏った公平のあまりにも眩しい姿に恋をしてしまっている高鳴りと――いつか彼がこの手を離し、本当に望む場所……ミサキの元へ行ってしまうんだという絶望的な不安からの高鳴りだった。
「ふぅー、あっつ……!」
ゴールを切った瞬間、公平はほっと息をつくと、重たいタキシードの胸元をパタパタと手で扇ぎ、冷たい空気を中に送り込んでいた。
さっきまでの「新郎」の面影は薄れ、いつもの無邪気な高校生の顔に戻っていく。
「池内、俺着替えてくるからさ、ちょっとここで待っててくんね?」
走り終えてもなお、公平は私を解放してはくれなかった。
どこへも行くなと言わんばかりのその言葉に、私は断るすべを持たない。
心の奥で小さな痛みを覚えながら、やっぱりただ黙って頷くことしかできなかった。
観覧テントの喧騒から少し離れた、校舎裏にある静かな水道の縁に腰かけて、公平が着替えを済ませて戻ってくるのを待つ。
見上げると、空は今頃になって急速に晴れ渡り始めていた。
あんなに低く垂れ込めていた灰色の雨雲は、いつの間にかどこか遠くへと消え去り、突き抜けるような夏の青空が広がっている。
冷たくなった水道の蛇口からポタリと落ちる水滴の音を聞きながら、私は抱きしめたままの公平のタオルに、そっと顔をうずめた。


