全てがキミだった


「おまえしかいないからさ」

何でもないことのように、公平がポロリとこぼした。

「あの紙の指示を読んで……一番に頭に浮かんだのは、おまえだったから」

―――…っ。
一瞬で、呼吸の仕方を忘れた。

……ズルいよ。
ズルすぎる。

いつも、いつも、いつも、いつも、いつも。

どうしてこの人は、そうやって簡単に私の心を揺さぶり、狂わせていくのだろう。
ミサキの名前を楽しそうに口にしては私を陰で泣かせ、私に超絶優しくしたと思えば、今度は急に冷たく突き放して遠くへ行こうとする。

そうやって何度も傷ついて、期待するのをやめて、この溢れそうな『好き』を綺麗に封印して諦めようと決意したまさにその瞬間に――公平はいつだって、逃げ場もないほど甘く優しい手差し伸べてくる。

どうして……?
どうして私を放っておいてくれないの?

ただの友達として側に置きたいだけなら、こんなにも胸を締め付けるような期待なんて抱かせないでほしい。

グレーのタキシードの袖から覗く、固く握られた手。
その熱が、掌を伝って私の全身へとじわじわと毒のように回っていく。

目の前が涙で歪みそうになるのを、私は唇を強く噛み締めて必死に耐えた。

彼の「一番」になれたわけじゃない。
ただ、都合よく近くにいたから。
声をかけやすかったから。それだけの理由だと分かっているのに。

公平が差し出したその無自覚な優しさに毒され、私は今日も、彼から離れるための脚を止めてしまうのだった。