全てがキミだった


「ちょっと、亜美っ! 公平くん、こっち来てるよ!!」

香織が、完全に放心状態になって固まっている私の肩を、なおも激しい勢いで揺らし続ける。
だけど、その振動すら遠くの出来事のように感じられた。

公平は確かに、私が座っている観覧テントに向かって、まっすぐに走ってきていた。
雑音だらけのグラウンドの中で、彼のまっすぐな視線が、私だけを捕らえて離さない。
逃げ場のないほど深く絡まり合った視線は、もうそう簡単には逸らすことが出来なかった。

「え、嘘……平田くん、こっち来てない?」
「マジで!? 誰のところ!?」

周りの女子たちからも、戸惑いと興奮が混ざり合った甘い悲鳴が漏れ始めていた。

……公平。
胸の奥が、壊れそうなほど激しく鳴り響く。

その格好――。

彼が引いた紙に書かれていたのは、そして身にまとっていたのは、誰もが息をのむような王子様風の白いタキシードだった。
泥の跳ねたグラウンドにはあまりにも不釣り合いなほど気品に満ちていて、けれど今の公平には、眩しいほどに似合いすぎていた。

「池内」

人混みをかき分け、私のすぐ前までやってきた公平が、少し荒い息のまま、静かに私の名前を呼んだ。

その瞬間、周りの喧騒がピタリと止んだかのように、一斉に全ての視線が私へと集中するのが分かった。
痛いほどの熱気が肌を刺す。

「一緒に来て」

周囲のざわめきなんて最初から存在しないかのように、公平はまっすぐに私を見つめたまま、そっと右手を差し出してきた。

公平の大きな手。
その指先が、秋めく手前の重たい空気の中で、私を誘うように静かに揺れていた。