全てがキミだった


見上げれば、空にはまだ昨日の名残である雨雲がうっすらと居座っていた。

けれど、完全に光を遮っているわけではない。
灰色の重たい雲の切れ間から、柔らかい太陽の日差しが幾筋もの光の束となって地上へ降り注ぎ、ぬかるんだグラウンドを幻想的に照らし出していた。

まるで天から差し込むその光の線のひとつが、グラウンドの端に立つ公平だけを射抜く専用のスポットライトみたいに見えて、私は息をのんだ。

1年生男子から始まった競技はテンポよく進み、いよいよ待ちに空いた2年生男子の番を迎える。
グラウンドの中央にズラリと選手たちが集まると、それだけで校庭の空気が一段と跳ね上がった。

「キャーッ! 頑張ってー!」
「こっち向いてー!」

各組の応援テントから、割れんばかりの黄色い歓声と手拍子が飛ぶ。

第一走者たちが緊張した持ち でスタートラインに腰を落とし、拳を土につけた。
あとは審判の鳴らすピストルの合図を待つばかりだ。

女子たちにとって、まさに夢のようなこの「仮装リレー」。

そのルールは至ってシンプルだが、それゆえに過酷でドラマチックだった。

合図とともにスタートを切った走者たちは、まず数十メートル先の中央テーブルへと猛ダッシュする。
そこに設置された箱の中から、自分の運命を決める「仮装の指示」が書かれた1枚の紙を引き当てるのだ。

指示を確かめた走者は、すぐ隣に設置された大型ハンガーラックへと飛び込む。
そして、紙に書かれた通りの衣装を手早く身にまとい、その姿のまま残りのコースを走り抜けて次の走者へとバトンを繋ぐ。

ラックに吊るされた衣装のバリエーションは、呆れるほどに豊富で容赦がない。

定番の女装用セーラー服やメイド服、着ぐるみはもちろんのこと、一体どこから仕入れてきたのかと首を傾げたくなるようなマニアックで本格的なコスチュームまで揃っている。

光と影が交錯するぬかるんだコースの上で、次は一体どんな奇跡やアクシデントが起きるのか。
胸を躍らせる観客たちの熱気が、湿った空気をぐんぐんと熱く湿らせていった。