「池内、早くこっち来ないともう一発投げるからなっ!!!」
ニッと意地悪く口角を上げた公平が、手に持った水風船を振りかぶるような仕草を見せる。
私は慌てて、足首にこびりついた冷たい泥を払うように足をバタつかせると、これ以上濡らされてなるものかと公平の元へと小走りで急いだ。
「どうしたんだよ、さっきからさえない面ばっかしてさ」
近くまで寄っていくと、公平はどこか呆れたような、けれど心配そうに覗き込んできた。
私は何も答えられず、逃げるように無言で視線を足元へと落とす。
……公平が原因なんだよ。
そんな言葉が喉の奥まで出かかっていたけれど、どうしても口にすることはできなかった。
こんなにも近くにいるのに、本当の気持ちだけが遠くへ離れていく。
すべてを打ち明けられたら、どんなに心が楽になるだろう。
「はい、これおまえの」
考え込む間もなく、公平の手から丸く膨らんだ水風船がひとつ、私の掌へと手渡された。
タプン、と頼りなく形を変えるゴムの感触と、掌に重たく残る心地よい冷たさ。
手渡されたその程よい重みが、一瞬で時間を巻き戻し、あの頃の――鮮明で、酷く切なかった記憶を脳裏に呼び覚まさせた。
――体育祭。
公園で泥だらけの野球ボールを渡された、あの夏の出来事のあと。
再び、私があの『思い出のボール』を渡された、学校中が熱気に包まれていた行事。
あの頃からずっと、公平はミサキの元へ歩み出すための準備を、着々と進めていた。
私という存在を置き去りにしたまま。
手の中の水風船を強く握りしめると、冷たい表面を伝って、胸の奥にまたあの古い痛みが蘇ってくるのが分かった。


