全てがキミだった


そもそも、公平の言う『罰ゲーム』というのも、体育の持久走の時間、彼の前をとろとろとノロく走っていた私のせいで1位をとれなかった――なんて、言いがかりとしか思えない当てつけが理由だった。

断ることができない私の気弱さや、公平のことが好きだという秘かな好意を、巧みに察して利用しているかのように。

……ううん、「かのように」じゃない。
私はまんまと、うまく利用されていたんだ。

そしてそれは、6年という月日が流れた今でも、何一つ変わってはいない。

「おい、ちゃんと切れよな? 俺のこのイケメン台無しにしたら許さないからな」

私からひったくった小さな手鏡を覗き込みながら、公平が勝手なことを言う。

少し長めの前髪の隙間から覗く、吸い込まれそうなほど大きな瞳。
すっと美しく通った高い鼻筋と、少年っぽさとシャープさが同居した容姿。
思わず目を奪われるような華のあるその顔立ちで、鏡越しにニッと悪戯っぽく笑い、何度もこちらを盗み見てくる。

そのたびに、私は視線のやり場を完全に失ってしまう。

……ズルいよ、そんな顔するなんて。

胸の奥がキュッと締め付けられ、ハサミを持つ指先がかすかに震えた。
自分の動揺を悟られないよう、私は必死にハサミを動かす。

鼓動の音が耳底でうるさく打ち鳴らされ、体中の血液が一気に顔の中心へと集まっていくのが分かった。
頬や耳たぶが、熱を帯びて熱くなっていく。

もし公平が急に振り向いたりしたら、この赤くなった顔を見られてしまう。

だけど、これは夕日のせいだ。
西日が強いから、ただ、顔が赤くなってるだけ。
ただそれだけなんだから……。

心の中で必死にそう言い訳をしながら、私は冷めない熱を隠すように俯いた。

鏡越しに重なる視線から逃げるため、公平のサラサラとした髪にそっと指を潜り込ませる。
指先から伝わってくる彼の体温に、呼吸をするのすら忘れてしまいそうだった。

公平はただの暇つぶしや、冗談半分で私を呼び止めただけなのかもしれない。
それでも、この小さな手鏡の枠の中で視線が交わる瞬間だけは、彼の中のすべてが私だけに注がれている。
私はいつだって、そんな勘違いをさせられた。

利用されていると分かっていても、嫌になれるはずがなかった。
だって、こうして彼の髪に触れられる特別な理由をもらえただけで、あたたかな夕暮れの教室に二人きりでいられるだけで、当時の私は胸が破れそうなほど幸せだったのだから。