ふと、使い古されたボールの表面に、かすれた黒い点らしきものが私の視界に飛び込んできた。
黒ずんだ革の傷とは明らかに違う、小さな歪んだ点。
「なに? この点」
私がボールを指でなぞりながら不思議そうに首を傾げると、公平は少し気まずそうに鼻のてっぺんをポリポリとかきながら、そっと目線をグラウンドで走る子どもたちへと移した。
「実はさ、俺がこうやって野球始めたの、ミサキに無理矢理ここに連れて来られたのが始まりなんだ」
―――――……。
その言葉が耳に届いた瞬間、心臓が跳ね上がり、手からすべり落ちそうになったボールを慌てて両手で抱え込んだ。
……ミサキ?
頭の中が真っ白になり、一瞬で息の仕方を忘れてしまう。
まさか、こんな青空の下で、こんな風にふたりきりで過ごしている時間の中でまで、あの名前が飛び出してくるなんて。
太陽の眩しさも、子どもたちの元気な歓声も、すべてが遠くの景色のようにかすんでいく。
胸の奥に、冷たくて重いしこりが急激に広がっていくのが分かった。
どうしよう……。
どんな顔をすればいい?
平気なふりをして微笑めばいいのか、興味深そうに話の続きを促せばいいのか。
公平に自分の揺れ動く感情を見透かされないよう、私はうつむいたまま、手の中のボールを必死に指先で握りしめることしか出来なかった。


