「あ、そだ」
何か大切なことを思い出したように、公平はいきなりベンチから立ち上がった。
「ちょっと待ってろ」と言い残し、泥だらけになって白熱する子どもたちの試合の横をひらりと身軽にすり抜けて、公園の端に置かれたカバンや道具が散らばる場所へと向かっていく。
長くてしなやかな足を跳ねさせるような軽快な走りで、あっという間に私の元まで戻ってきた公平は、息一つ切らさずに「はい」と突然目の前に右手を差し出してきた。
その固く握られた大きな手の中に包まれていたものを見て、私は目を丸くする。
「なにこれ、ボール……?」
「そう、ボール」
公平は満足そうに口元だけでフッと微笑むと、戸惑う私の手のひらの上に、ズシリと重みのあるそのボールを乗せ、落とさないように上からキュッと自分の手を重ねて包み込んでくれた。
掌に伝わる、使い古された革の独特な感触と、太陽の熱を吸い込んだぬるい温もり。
表面には、子どもたちが何度も土に擦り付けたであろう黒ずみや小さなキズがたくさん刻まれている。
「やるよ、それ」
「え、なんで……? 私、野球しないよ?」
「いいから。思い出に取っとけよ」
まるで宝物でも手渡すような真面目な瞳で言われ、私はボールと公平の顔を交互に見比べた。
「でも、ボールなくなったら困るんじゃないの? これから野球出来なくなっちゃうじゃん」
子どもたちの道具を勝手にあげてしまって大丈夫なのかと心配になって尋ねると、公平は全く問題ないと言いたげな表情で、またフッと鼻で優しく笑ってみせた。


