全てがキミだった


「でも、やっぱりいつもの場所にしとけばよかった」

突然ぽつりと漏らした公平の言葉に、私は「どうして?」と眉をひそめて彼の横顔を覗き込んだ。

「ここじゃ、やっぱちょっと狭かったな。いつもの河川敷なら思いっきり打てるんだけどさ。なんか不完全燃焼って感じ」

そう言って、公平は両腕を天高く突き伸ばし、大きなあくび交じりに深呼吸をした。
白くて頑丈そうな腕の筋肉が、伸びに合わせてキュッと収縮する。

「……ねえ、それならどうして野球部とか部活に入らないの?」

これだけの運動神経と、子どもたちをまとめるキャプテンシーがあるのだから、学校の部活に入れば間違いなくエースになれるはずなのに。前々から抱いていた疑問を素直にぶつけてみた。

「んー……なんかさ、俺にはガチガチの部活より、こうやって子供たちと気楽にやってる方が性にあってるんだよな」
「ふーん」
「まぁ、もともと子ども好きだしさ。上下関係とか背負うものがない方が、純粋に野球を楽しめるっていうかさ」

照れくさそうに頭の後ろを掻きながら話していた公平だったが、打席に立った男の子が腰の引けたスイングをしたのを目ざとく見つけると、即座に身を乗り出した。

「おいっ、ひよってんじゃねえ! 振らなきゃ当たんねえぞ、思いっきり投げろ!!」

大声で発破をかけると、公平は腹の底から楽しそうに「ハハッ」と声をあげて笑った。
その瞬間、彼のくしゃっと丸まった鼻の筋に、細いシワがくっきりと浮かび上がる。
学校で見せる、どこか冷めていて大人びた整った顔立ちとは全く違う、無邪気な少年の笑顔。

こんな笑顔、学校じゃ拝めない。
……お宝映像だ。

学校の女子たちの誰も知らない、私だけが知っている公平のこの表情。
胸の奥が熱く甘く痺れていくのを感じながら、私はその横顔を焼き付けるように、食い入るように見つめ続けていた。