小鳥遊くんの心の声は、存外騒がしい

「そう言えば今、ファミレスでパズバトフェアやってるみたいだよ。だからランチは、そこで食べたいなぁ……なんて」

 そろりと上目遣いで、俺と天野の顔を交互に見上げる小鳥遊くん。
 これを計算ではなく、素でやっているのだから本当に恐ろしい。

 あまりにもあざと可愛いおねだりにやられ、フリーズする俺。
 しかし天野はこんな態度にも慣れているのか、笑いながら答えた。

「ククッ……。俺は、それでいいよ。凛音は?」

 そこでハッと我に返り、慌てて答えた。

「うん、異論なし! せっかくだし、映画の前に気分盛り上げて行こうぜ」

 笑顔で答えると、小鳥遊くんはホッとしたように表情を綻ばせた。

「とはいえ日曜の昼時だし、混んでるかもだから、とりま予約入れとくわ」

 言いながらすでにスマホを手に取り、スマートにネット予約を入れる天野。
 ……ほんと、シゴデキ過ぎんだろ。

「ありがとう、勝利。そういうの苦手だから、助かるよ」

 嬉しそうにテレテレと笑い、答える小鳥遊くん。
 俺もありがたいと思うべきなのに、ちょっと悔しいと感じてしまった。
 ……小鳥遊くんが絡むと、心が狭くなって本当に良くないな。

 だけど何も言わずにスルー出来るほど、俺は恩知らずじゃない。
 だから小鳥遊くんに続いて、俺も笑顔で感謝の言葉を口にした。

「ありがと、天野。俺もそういうの慣れてないから、その考えはなかったわ」

 しかし天野は俺のその言葉を聞き、なぜか怪訝そうな表情を浮かべた。
 ……いつも通り完璧に微笑んで答えたはずなのに、何か失敗しただろうか?

 しかし天野と小鳥遊くんの、心の声は聞こえない。
 だからたぶん、何かやらかしたというわけではないのだろう。

「よし、オッケー。ちょっと待つかもだけど、とりま移動しよっか」

 天野の言葉に従い、お目当てのファミレスへと向かう。
 店の前にはキャンペーンを知らせるのぼりが上がっていて、それを見た小鳥遊くんは、嬉しそうに頬を紅潮させて小さく口を開いた。

『わぁ……! コラボメニュー、まだ残ってるかな? えー……、どれ食べよう? ランチセットに付いてくる、キーホルダーは絶対に外せない。でもラバーコースターも欲しいし、ステッカーも欲しい。あぁ……、僕のお腹がもっと頑丈で、たくさん食べることが出来たら……!!』

 心の声、でっか! そして、長っ!

 思わずプッと、噴き出したのだけれど。……なぜかほぼ同時に、天野も噴き出した。

 でもその理由は、すぐに判明した。

「しぃちゃん、テンション上がり過ぎ。どうせコラボ品、全部欲しいとか考えてたんだろうけど」

 ククッと笑いながらそう言うと、彼は小鳥遊くんの頭をクシャクシャと撫でた。

「もう、また子供扱いして! 僕の方が勝利より、年上なんだからな」

「あはは! 年上って……。一ヶ月だけじゃん!」

 ふたりが重ねてきた、長い歳月。それは俺がいくら望んでも手に入れることは出来ないし、あんな風に気楽に小鳥遊くんに触れることも出来ない。
 ……だけど。

「俺はグッズにはそこまで興味ないから、分担して食おっか?」

 その提案に、戸惑ったように小鳥遊くんの瞳が揺れる。

『その提案はありがたいけど、それはさすがに申し訳ないよな……。けど、グッズは欲しい。もしほんとに興味がないなら、協力してくれたら嬉しいとは思うけど……』

 善良で控えめな、とても小鳥遊くんらしい心の声。だけどもう一押しで、折れてくれそうだ。

「まじで、気にしないで。せっかくだから、コラボメニューは食べておきたいし!」

「俺も、協力するよ。んじゃ手分けして、コンプ目指そうぜ!」
 
 天野の援護射撃もあり、小鳥遊くんはまだ少し迷いながらも、俺達の提案を受け入れてくれた。

「ありがとう、ふたりとも。……めちゃくちゃ嬉しい」

 ふわりと幸せそうに微笑む、小鳥遊くん。その笑顔を見られただけで、お釣りが来るほど満たされた気持ちになった。

 そんなやり取りをしている間に、俺達の順番が回ってきた。
 案内された席は、四人掛け。……だけどこれ、どう座るのが正解だ?
 
 小鳥遊くんの隣も捨てがたいが、前に座って好きなだけ顔を見るのもまた一興。
 ……一番ない(・・)のは、天野の隣と前の席だな。

 新たな難問を突き付けられ、一瞬動きが止まってしまった。
 すると天野は奥の席に座り、その隣に小鳥遊くんが座った。
 なので俺は、自動的に天野か小鳥遊くんの前の席ということに。

 そうなれば、実質選択肢はひとつのみ。迷うことなく、小鳥遊くんの前の席に腰を下ろした。

 待っている間にメニューは選んでおいたから、タブレットを使って注文をした。
 食事が出来るのを待っている間に、三人でドリンクバーコーナーへ。

 天野はコーラを、俺はアイスコーヒーを。そして小鳥遊くんは、見るからに甘そうないちごオーレを選んだ。

「うへー、出たよ。いちごオーレ! 甘くね?」

 俺も同じことを考えたが、そこにツッコミを入れる勇気はなかった。

「別に、いいじゃん! 勝利はいちいちうるさいなぁ」

 不満そうに頬を膨らませ、ストローに口を付ける小鳥遊くん。ひと口飲んで、彼は幸せそうに笑った。

 しかし次の瞬間、天野が予想外の動きを見せた。
 あろうことか小鳥遊くんの手にしていたグラスを奪い、ストローを使ってゴクリといちごオーレを飲んだのだ。

「やっぱ、あっま!!」

「は……?」

 自然と口をついて出た、低い声。それにギョッとしたように目を見開く、天野。
 だが小鳥遊くんは、俺の声などまったく聞こえていなかったようだ。

「分かってたなら、人のを勝手に飲むなよ! ほんと、マイペースなんだから……」

 小鳥遊くんはブツブツと言いながらグラスを奪い返し、再びストローに口を付けた。

 恐らく天野に、他意はない。だけど小鳥遊くんとの距離の差を見せ付けられたみたいで、なんとなく惨めな気持ちになった。