小鳥遊くんの心の声は、存外騒がしい

 予定通り端材の注文を終え、俺と小鳥遊くんは駅に向かおうとした。
 でもそこで小鳥遊くんは、ふと足を止めた。

 彼の視線の方向を、そっと確認する。その先にあったのは、ゲームセンターだった。
 しかもそこには、パズバトのキャラクターぬいぐるみのUFOキャッチャーが置かれている。

『どうしよう? めちゃくちゃ、やりたい……。けど勝手に受けた買い出しに付き合わせた上、ここに寄りたいなんて言ったら、きっと迷惑だよね。ただでさえ、いつもよりも帰りが遅くなっちゃったし』

 それから彼は再び前を向き、歩き始めた。
 ……ほんと、気を遣い過ぎ。

 ちょっと苦笑して、さも今気が付いたような顔で言った。

「あっ! あれ、パズバトのぬいじゃね?」

 その声に反応し、小鳥遊くんの動きがピタリと止まる。
 それから彼は勢いよくこちらを向き、キラキラと輝く瞳で俺の顔を見上げた。

「うん、そうなんだよ。実はさっき僕も見付けて、すっごい気になってたんだよね!」

 頬を紅潮させ、鼻息荒く早口で語る小鳥遊くん。……いやほんと、可愛過ぎだろ。

「なんだよ、気付いてたなら言えよな。よし、せっかくだしやってみる?」

 ブンと大きく、小鳥遊くんがうなずく。……かわよ、俺を殺す気か!

 しかしそんな俺の動揺に気付くことなく、いつになく軽い足取りでUFOキャッチャーの前に移動する小鳥遊くん。
 
 パズバトブームはかなり前に落ち着いているから、幸い列は出来てない。
 そのため俺達は、すぐに挑戦することが出来そうだ。

 両替をして小銭を準備して、機械の前にふたりで並ぶ。
 しかし実を言うと俺は、この手のゲームをあまりしたことがない。
 ……小鳥遊くんにいいところを見せたいところだが、うまく取れるだろうか?

「……小鳥遊くん、先にやってみる?」

 少しでも上手いやり方を探るべく、勧めた。
 すると無垢で無邪気な彼は笑顔を見せ、この提案に素直に乗ってきた。

「いいの!?」

「うん、もちろん。お先にどうぞ?」

「わーい、ありがとう! 実は僕、割とこういう系のゲーム、得意なんだよねぇ」

 ドヤ顔でそう言うと、彼は真剣な表情で小銭を投入した。
 だけど、一回目。彼はなぜそこを狙った? というような、一見すると的外れな場所を突いた。
 しかし、二回目。その理由が、判明した。

 こいつ、わざと位置をずらして、そこから一気に持ってくつもりじゃん!!

 少し場所を移動しながら、正確な位置を探る小鳥遊くん。
 その視線はいつになく鋭く、まるで獲物を狙う鷹みたいだった。

『もう少し、右? ……いや、このあたりかな? 高さ的にもいいくらいだし、アームの強さも悪くない。……次で、絶対に落とす!!』

 響いてきた、心の声。ミリ単位で調整しながら、狙いを定める小鳥遊くん。
 ……めっちゃ、ガチじゃん。

 だけど考えてみたら、これはとても彼らしい言動と言えるかもしれない。
 パズバトのゲーム中も、プレイしている顔を見たことはないが、もしかしたらこんな感じなのかもな。

 狙いを定めて、矢印ボタンを押す小鳥遊くん。
 するとアームがゆっくりと下がり、掴んで、以前彼が好きだと言っていたキャラクターを一気に落とした。

「取れた! ねぇ、結城くん。取れた、取れたよ!!」
 
「嘘だろ、まじか……」

 まさか二回で取れるとは思わなかったから、正直かなりビビった。

「やっぱりアームは、あそこで正解だったみたい。フフッ、やったぁ!」

 ぬいぐるみを抱き締めたまま幸せそうに笑う、小鳥遊くん。……クッソ可愛いな、畜生め。

「結城くんも、やるよね? 僕、応援してるから」

 満面の笑みで言われては、ここで引き下がるわけには行くまい。
 小鳥遊くんは二回目であっさりゲットしたから、俺も出来れば早い段階で手に入れたい。

「おぅ、やらいでか! でもあんまこういうのやったことねぇから、サポートよろしく」

「うん、任せて!」

 親指をグッと立て、小鳥遊くんが笑顔で応えた。

「キャラクターは、どれ狙い?」
 
「んー……。じゃあ俺も、同じやつにしとこっかな」

「OK、ならあれがオススメかも。割といい位置にいるから、一回目でうまく押せたら、比較的取りやすい位置に移動出来ると思う」

 ぬいぐるみが『ある』のではなく、『いる』。そう表現するのが、とても彼らしいなと感じた。
 
「このあたり?」

「んー、もうちょい右。あ、そこ!」

 小鳥遊くんの指示に従いながらの、ファーストトライ。
 言われた位置でボタンを押すとアームに押され、ぬいぐるみがズルリと山から落ちて、いい感じに取り出し口の近くに移動した。

「よし、いい感じ! 次は、そうだなぁ……。ちょっと、ごめんね」

 そう言うと小鳥遊くんは後ろに移動して、俺の手のひらに手の甲を重ねた。

 トゥンク……♡、じゃねぇわ、俺の心臓! 小鳥遊くんめ、急なイケメンムーブやめろ!

 ドキドキと心臓が、かつてないほどの勢いで早鐘を打つ。
 だけどそんなみっともないところは見せたくなかったから、すぐさま平静を装った。

「んー、このあたり……かな? うん、そこ。いい感じ!」
 
 こちらは意識しまくりだというのに、完全に通常運転の小鳥遊くん。……なんか、ムカつく。
 
 そう思ったからしれっと振り向いて、彼の耳元で囁くように聞いた。

「ん、こんな感じでい?」

 ビクッと震える、彼の小さな体。見る間に彼の肌は、真っ赤に染まった。
 それを見て、ちょっとだけ気が晴れた。
 でもその瞬間彼は大きく後ろに後退し、俺から体を離した。

「う……、うん。いい感じじゃないかな?」

 明らかに動揺し、挙動不審になる小鳥遊くん。だけど心の声は聞こえてこないから、特にそれ以上何か考えているわけではないようだ。
 
 でもさすがにちょっと、これはやり過ぎたか?
 その時彼が、ボソッと小さな声で呟いた。

「あぶな……」

「うん? 危ないって、何が?」

 彼の言葉を疑問に思い、質問した。

「う、ううん! なんでもない! 今かなりいい位置に、アーム来てるんじゃない?」

「ん、ならこのまま……。えい!」

 彼の返事になんとなくモヤモヤしながらも、指示に従い矢印ボタンを押してみる。
 だけどそれは残念ながら、キラーショットとはならなかったようだ。

「げ、失敗。小鳥遊くん、次はどこを狙えばいい?」

 振り返り、確認する。でも彼はまだ動揺しているのか、少しどもりながら早口で答えた。

「えっと、あの。そ、そうだね。タグについてる紐に、アームが引っかかれば取れると思う。うん、そう、そんな感じ!」

 彼のアドバイスに従い、再チャレンジ。するとうまく紐にアームの足がかかり、そのまま落とすことが出来た。

「やった、取れた! ありがと、小鳥遊くん。イェーイ!」

 片手を挙げて、ハイタッチを求める。すると彼はまた少し戸惑った様子だったけれど、手を挙げてそれに応えてくれた。

 俺が取ったぬいぐるみと、彼が取ったぬいぐるみ。 
 ふたつを並べて小鳥遊くんはふわりと笑い、上目遣いに俺を見上げた。

「結城くん、これでお揃いだねぇ」

 ……これを素でやっているのだから、本当に恐ろしい。天然小悪魔の言葉に激しく動揺しながらも、俺もニッと笑って答えた。

「あはは。うん、お揃いだねぇ」