「そう言えば大道具係の子から、木材を追加で注文しておいてって頼まれてるんだった。だから今日は、ここで」
本日の業務を終えて、いつものように一緒に駅まで向かおうとしたら、小鳥遊くんは笑顔で言った。
本来であればそれは、大道具係がやるべき仕事だ。
最初の取り決めで、ちゃんとそう決めたはずだし。
俺がいないタイミングで頼みやすい小鳥遊くんにそんな依頼をするやり口が気に入らず、思わず口を挟んでしまった。
「え? ひとりだとそれ、大変じゃね?」
「ううん、大丈夫。毎年頼んでるお店で安く端材を分けてもらえることになってるし、荷物は後日、ちゃんと届けてくれるそうだよ。ほんと、ありがたいよねぇ」
……この、お人好しめ。でも彼の表情を見る限り、本当に面倒だとか、押し付けられて苦痛だとかとは感じていないようだ。
彼の言うように学校まで商品を届けてもらえるのであれば大丈夫だとは思うけれど、あまり他人との接触が得意ではない様子だから、少しだけ心配だった。
あと単純に、もう少し小鳥遊くんと一緒にいたかったというのもある。
「……俺も、行く」
「ええ!? いや、ほんとひとりで大丈夫だよ? 木材を、担いで帰るわけじゃないし」
勝手に引き受けてしまった手前、優しい小鳥遊くんは俺を巻き込むのが申し訳ないとかなんとか、また考えているのだろう。
戸惑ったように、彼の瞳が揺れる。
「でも、俺も行くって言ってんの。別に、いいだろ?」
すると彼は一瞬瞳を閉じて、それから再び瞼を開き、ふわりと笑った。
「うん、いいよ。歩いて行ける場所にあるみたいだから、一緒に行こうか」
***
「おい、小鳥遊くん。お前さっき、ひとりで大丈夫っつったよな?」
ぐるぐると、同じ場所を周回しながら。にっこりと微笑んで聞くと、小鳥遊くんはギュッと目を閉じて早口で答えた。
「ごめんね、結城くん! 大丈夫だと思ったんだけど……」
スマホの向きを変えながら、地図とにらめっこをする小鳥遊くん。
彼の手からスマホを奪い取り、地図を確認する。
「小鳥遊くんや。……これ、逆方向じゃね? こっち。こっち向きが、正解!」
「へ……? えぇ!? あ、そうなの!? 結城くんは、すごいねぇ」
感嘆したように言われたが、全然すごくねぇ!
逆にこんな近くで迷子になれる、こいつの方がよっぽどすごいだろ。
「そいつは、どうも。……ったく。ついてきて良かったわ、まじで」
極度の方向音痴のくせに、よくもまぁひとりでこの依頼を引き受けたものだ。
……下手したら、閉店時間過ぎてたぞ。
だけど本人はたいして気にしていないのか、にこにこと笑って言った。
「うん、そうだね。ついてきてくれて、ありがとう。ほんと、助かったよ」
その笑顔で、すべてがチャラになる。……なんとなく、納得はいかないけれど。
店内に入ると、毎年のことだからか、店長らしき男性が声をかけてくれた。
「お、いらっしゃい。М学園の子達だよね? そこの端に置いてるやつから、適当に選んでいいよ」
一本100円からと書かれた、格安の木材。儲けがない上、これを後日運んでくれるというのだから、本当にありがたい。
「ありがとうございます、助かります!」
笑顔で答える、小鳥遊くん。俺もそれに続き、笑って言った。
「ありがとうございます、本当に。配送も、してくれるんですよね?」
「うん、明日の夕方でよければ。あ、そうだ! これもサンプル用に開けて、ちょっと使ったやつだけど余ってるから持ってく?」
そう言って差し出されたのは、茶色いニスのような液体の入った缶。
「ありがとうございます。えっと……、でもこれって……」
使い方が分からず、返事に困る俺達。すると男性は、笑顔で説明してくれた。
「これは、アンティークワックス。塗装した後に塗ると、木材をヴィンテージっぽく、わざと古ぼけた感じに加工出来るやつ。お化け屋敷やるんなら、これ使うと面白い仕上がりになると思うよ? 雰囲気、出るし」
おお、それはありがたい!
「わぁ、いいんですか? 助かります」
笑顔で答える、小鳥遊くん。コミュ力は低めのイメージだったけれど、彼の持つ柔和な雰囲気は、こういう場では優位に働くのかもしれない。
「うん、持ってってよ。当日は俺も息子と遊びに行くつもりだから、楽しみにしてる」
男性はそう言うと、ニッと笑った。
「ありがとうございます。お礼に、当日はいっぱいサービスしますね!」
小鳥遊くんの提案に、男の思考が一瞬停止する。そして、コンマ数秒後。彼の頭に浮かんだのは、幼い息子さんのことだった。
『え? サービスって……。お化け屋敷で!? いやいや、それは勘弁してくれよ。まだ息子、5歳だし。サービスなんかされたら、絶対にギャン泣きするから!!』
「えーっと……、ありがとう。でも、大丈夫だよ。そこは、気を遣わないで」
他人の心の声が聞こえるなんていう、クソみたいなチート能力。
それがあることで、俺は誰かの悪意に触れることが多い。
でもこうして、優しい人もいる。そんな当たり前のことに改めて気付き、心が暖かくなった。
本日の業務を終えて、いつものように一緒に駅まで向かおうとしたら、小鳥遊くんは笑顔で言った。
本来であればそれは、大道具係がやるべき仕事だ。
最初の取り決めで、ちゃんとそう決めたはずだし。
俺がいないタイミングで頼みやすい小鳥遊くんにそんな依頼をするやり口が気に入らず、思わず口を挟んでしまった。
「え? ひとりだとそれ、大変じゃね?」
「ううん、大丈夫。毎年頼んでるお店で安く端材を分けてもらえることになってるし、荷物は後日、ちゃんと届けてくれるそうだよ。ほんと、ありがたいよねぇ」
……この、お人好しめ。でも彼の表情を見る限り、本当に面倒だとか、押し付けられて苦痛だとかとは感じていないようだ。
彼の言うように学校まで商品を届けてもらえるのであれば大丈夫だとは思うけれど、あまり他人との接触が得意ではない様子だから、少しだけ心配だった。
あと単純に、もう少し小鳥遊くんと一緒にいたかったというのもある。
「……俺も、行く」
「ええ!? いや、ほんとひとりで大丈夫だよ? 木材を、担いで帰るわけじゃないし」
勝手に引き受けてしまった手前、優しい小鳥遊くんは俺を巻き込むのが申し訳ないとかなんとか、また考えているのだろう。
戸惑ったように、彼の瞳が揺れる。
「でも、俺も行くって言ってんの。別に、いいだろ?」
すると彼は一瞬瞳を閉じて、それから再び瞼を開き、ふわりと笑った。
「うん、いいよ。歩いて行ける場所にあるみたいだから、一緒に行こうか」
***
「おい、小鳥遊くん。お前さっき、ひとりで大丈夫っつったよな?」
ぐるぐると、同じ場所を周回しながら。にっこりと微笑んで聞くと、小鳥遊くんはギュッと目を閉じて早口で答えた。
「ごめんね、結城くん! 大丈夫だと思ったんだけど……」
スマホの向きを変えながら、地図とにらめっこをする小鳥遊くん。
彼の手からスマホを奪い取り、地図を確認する。
「小鳥遊くんや。……これ、逆方向じゃね? こっち。こっち向きが、正解!」
「へ……? えぇ!? あ、そうなの!? 結城くんは、すごいねぇ」
感嘆したように言われたが、全然すごくねぇ!
逆にこんな近くで迷子になれる、こいつの方がよっぽどすごいだろ。
「そいつは、どうも。……ったく。ついてきて良かったわ、まじで」
極度の方向音痴のくせに、よくもまぁひとりでこの依頼を引き受けたものだ。
……下手したら、閉店時間過ぎてたぞ。
だけど本人はたいして気にしていないのか、にこにこと笑って言った。
「うん、そうだね。ついてきてくれて、ありがとう。ほんと、助かったよ」
その笑顔で、すべてがチャラになる。……なんとなく、納得はいかないけれど。
店内に入ると、毎年のことだからか、店長らしき男性が声をかけてくれた。
「お、いらっしゃい。М学園の子達だよね? そこの端に置いてるやつから、適当に選んでいいよ」
一本100円からと書かれた、格安の木材。儲けがない上、これを後日運んでくれるというのだから、本当にありがたい。
「ありがとうございます、助かります!」
笑顔で答える、小鳥遊くん。俺もそれに続き、笑って言った。
「ありがとうございます、本当に。配送も、してくれるんですよね?」
「うん、明日の夕方でよければ。あ、そうだ! これもサンプル用に開けて、ちょっと使ったやつだけど余ってるから持ってく?」
そう言って差し出されたのは、茶色いニスのような液体の入った缶。
「ありがとうございます。えっと……、でもこれって……」
使い方が分からず、返事に困る俺達。すると男性は、笑顔で説明してくれた。
「これは、アンティークワックス。塗装した後に塗ると、木材をヴィンテージっぽく、わざと古ぼけた感じに加工出来るやつ。お化け屋敷やるんなら、これ使うと面白い仕上がりになると思うよ? 雰囲気、出るし」
おお、それはありがたい!
「わぁ、いいんですか? 助かります」
笑顔で答える、小鳥遊くん。コミュ力は低めのイメージだったけれど、彼の持つ柔和な雰囲気は、こういう場では優位に働くのかもしれない。
「うん、持ってってよ。当日は俺も息子と遊びに行くつもりだから、楽しみにしてる」
男性はそう言うと、ニッと笑った。
「ありがとうございます。お礼に、当日はいっぱいサービスしますね!」
小鳥遊くんの提案に、男の思考が一瞬停止する。そして、コンマ数秒後。彼の頭に浮かんだのは、幼い息子さんのことだった。
『え? サービスって……。お化け屋敷で!? いやいや、それは勘弁してくれよ。まだ息子、5歳だし。サービスなんかされたら、絶対にギャン泣きするから!!』
「えーっと……、ありがとう。でも、大丈夫だよ。そこは、気を遣わないで」
他人の心の声が聞こえるなんていう、クソみたいなチート能力。
それがあることで、俺は誰かの悪意に触れることが多い。
でもこうして、優しい人もいる。そんな当たり前のことに改めて気付き、心が暖かくなった。



