「じゃあね、結城くん。また明日!」
俺の自宅の最寄り駅に到着すると、小鳥遊くんは笑顔で手を振った。
「違うだろ? 明日じゃなくて、また後で、じゃね?」
「ああ、うん。そうだね、結城くん。また後で!」
その言葉に満足して、俺もヒラヒラと手を振った。
俺も小鳥遊くんが参加しているパーティーに加入させてもらい、夜寝る前にパズバトで領地の拡大戦に挑むのがほぼ日課と化している。
夕飯後風呂に入り、時計の針が九時を指す少し前に、小鳥遊くんにメッセージを送った。
『こっちは、準備OK! 小鳥遊くんは?』
するとすぐに既読が付き、返信が届いた。
『こっちも、大丈夫! ログインするね』
パズルと並ぶもうひとつの人気要素である、陣取り合戦。
バトルフィールドでの小鳥遊くんは普段の温和な姿からは想像が出来ないくらい計算高く、情け容赦ない。
最初はそれに、かなり驚かされた。
なりゆきでインストールしたゲームだったが、始めてみるとその内容はかなり面白く、その後も小鳥遊くんと通話しながらほぼ毎日仮想空間で遊んでいる。
ちなみにゲーム自体はマルチプラットフォームで展開されているため、帰宅後バトルに参戦する際は、小鳥遊くんに勧められたこともありパソコンを使って遊ぶことが多い。
そういえばひとつ、衝撃の事実が発覚した。
うちのクラスのリーダー的存在である天野と小鳥遊くんが、従兄弟同士だと判明したのだ。
そして天野も小鳥遊くんに誘われ、今さらながらパズバトにドハマりしているらしい。
あまりにも、予想外な告白。だけどそれなら天野は、先日の係り決めの時、なんで小鳥遊くんを庇ってやらなかったのか?
アイツがひとこと釘を刺せば、花梨は間違いなく彼にちょっかいを出すのをやめたはずなのに。
それを思うと、少しだけ腹が立った。
でもそうしなかったのには、アイツなりの理由があったようだ。
というのも小鳥遊くんは、目立つのがあまり好きではない。
だから天野と親しいのがバレて、カースト上位者だらけのグループになんか、絶対に加入したくなかったのだと思う。
本日の、領地拡大戦。我がパーティーは参加率があまり良くなかったため、あっという間に劣勢に追い込まれてしまった。
『ごめん、遅刻した!』
ヘッドフォンから響いてきた、大きな声。
フィールドに現れたのは、ド派手なコスチュームに身を包む、天野のアバターだった。
『遅いよ、ほんと。謝罪はいいから、さっさと配置について!』
天野に対する、小鳥遊くんの当たりは強い。
でもそれだけふたりが親しい関係にあるということなのだと思うと、なんとも言えない微妙な気分になった。
……とはいえ子供じゃあるまいし、そんな情けないこと、口が裂けても言うつもりはないけれど。
『はーい! 了解であります、鬼軍曹様』
軽い口調でそう答えると、天野は特大サイズのバズーカを手にした。
ドカンと一発、敵陣営に撃ち込む天野。
小鳥遊くんも俺も、警戒心が強い。そのため起死回生を狙う大胆な攻撃は、ふたりともちょっと苦手だったりする。
一方現実世界でも好戦的な天野は、こういうバトルゲームがかなり得意なようだ。
彼の参戦により、形勢は一気に逆転。そのまま僅差ではあったものの、無事我がパーティーは勝利を収めた。
『みんな、お疲れ様ー! 今日はちょっと、危なかったねぇ』
さっきまでのピリピリムードが嘘みたいな、ほんわかとした小鳥遊くんの声。それに、癒された。
『お疲れー! んじゃ俺は、落ちるわ。おやすみー』
一方的にそれだけ言うと、天野はログアウトしてそのまま通話からも消えた。
他のパーティーメンバーに挨拶だけして、俺と小鳥遊くんもゲームからログアウト。
でもその後に、少しだけ話してから寝るのが今や当たり前になっていた。
そして俺は、この短い時間をひそかに楽しみにしていたりする。
『それにしても、勝利ってばほんとマイペースだよね。……なんか、ごめんね』
勝利と言うのは、天野の下の名前だ。
たしかに彼の言うように、天野はとてもマイペースな男だと思う。
でもそれを小鳥遊くんに謝られるのは、なんとなく気に食わない。
だけどそれを表に出すのはちょっと悔しかったから、大人対応で流すことにした。
「ううん、慣れてるから平気」
『慣れてるって……。あはは! 君もアイツに、たいがい振り回されてるもんね』
この言葉を聞く限り、小鳥遊くんもあの男に、幼い頃から振り回されて来たのだろう。
俺の知らない、幼い頃の小鳥遊くん。……それを知っている天野が、やはり少しだけうらやましい。
訪れた、無言の時間。それを小鳥遊くんは、これまでの天野の行いに対して、俺が不満を持っているせいだと勘違いしたらしい。
そのため彼は、もう一度小さな声で謝罪の言葉を口にした。
『ほんと、ごめんね。今度僕の方から、勝利には一度ちゃんと言っておくから』
「いや、違う! そうじゃねぇよ。……そうじゃなくて」
『そうじゃなくて……?』
小鳥遊くんの、戸惑う表情が目に浮かぶ。
天野はいわゆる自由人というやつで、どうしようもなくマイペースな人間だ。
でもそれを俺は、別に不快に思ってはいない。
直感的で、あまり裏表のない彼のことは、むしろ好ましく思っている。
本当はこんなこと、言うべきじゃない。それにさっき口が裂けても言うもんかと、思ったばかりなのに。
でもこんな風にずっと俺ばかりヤキモキさせられてばかりいるこの状況は、やっぱり少し面白くない。
「……ちょっと、嫉妬した。小鳥遊くんと仲のいい、アイツに」
『へ……?』
この答えは、ほんの少しも想像していなかったのだろう。
スマホ越しでも、彼の困惑が手に取るように分かった。ザマァみろ!
「んじゃ、おやすみ。また明日」
『え、ちょ……。ゆ、結城くん!?』
うろたえる小鳥遊くんの声がまだ聞こえていたけれど、一方的に通話を終了させた。
小鳥遊くんは恐らく今夜、さっきの発言に戸惑い、ずっと俺のことを考えて過ごすことになるだろう。
それを思うと少し可哀想な気もしたけれど、いつも散々心を引っ掻き回されているのだ。
これくらいの意趣返し、しても問題なかろう。
激しく動揺する彼の表情を想像して、ククッとひとり笑った。
俺の自宅の最寄り駅に到着すると、小鳥遊くんは笑顔で手を振った。
「違うだろ? 明日じゃなくて、また後で、じゃね?」
「ああ、うん。そうだね、結城くん。また後で!」
その言葉に満足して、俺もヒラヒラと手を振った。
俺も小鳥遊くんが参加しているパーティーに加入させてもらい、夜寝る前にパズバトで領地の拡大戦に挑むのがほぼ日課と化している。
夕飯後風呂に入り、時計の針が九時を指す少し前に、小鳥遊くんにメッセージを送った。
『こっちは、準備OK! 小鳥遊くんは?』
するとすぐに既読が付き、返信が届いた。
『こっちも、大丈夫! ログインするね』
パズルと並ぶもうひとつの人気要素である、陣取り合戦。
バトルフィールドでの小鳥遊くんは普段の温和な姿からは想像が出来ないくらい計算高く、情け容赦ない。
最初はそれに、かなり驚かされた。
なりゆきでインストールしたゲームだったが、始めてみるとその内容はかなり面白く、その後も小鳥遊くんと通話しながらほぼ毎日仮想空間で遊んでいる。
ちなみにゲーム自体はマルチプラットフォームで展開されているため、帰宅後バトルに参戦する際は、小鳥遊くんに勧められたこともありパソコンを使って遊ぶことが多い。
そういえばひとつ、衝撃の事実が発覚した。
うちのクラスのリーダー的存在である天野と小鳥遊くんが、従兄弟同士だと判明したのだ。
そして天野も小鳥遊くんに誘われ、今さらながらパズバトにドハマりしているらしい。
あまりにも、予想外な告白。だけどそれなら天野は、先日の係り決めの時、なんで小鳥遊くんを庇ってやらなかったのか?
アイツがひとこと釘を刺せば、花梨は間違いなく彼にちょっかいを出すのをやめたはずなのに。
それを思うと、少しだけ腹が立った。
でもそうしなかったのには、アイツなりの理由があったようだ。
というのも小鳥遊くんは、目立つのがあまり好きではない。
だから天野と親しいのがバレて、カースト上位者だらけのグループになんか、絶対に加入したくなかったのだと思う。
本日の、領地拡大戦。我がパーティーは参加率があまり良くなかったため、あっという間に劣勢に追い込まれてしまった。
『ごめん、遅刻した!』
ヘッドフォンから響いてきた、大きな声。
フィールドに現れたのは、ド派手なコスチュームに身を包む、天野のアバターだった。
『遅いよ、ほんと。謝罪はいいから、さっさと配置について!』
天野に対する、小鳥遊くんの当たりは強い。
でもそれだけふたりが親しい関係にあるということなのだと思うと、なんとも言えない微妙な気分になった。
……とはいえ子供じゃあるまいし、そんな情けないこと、口が裂けても言うつもりはないけれど。
『はーい! 了解であります、鬼軍曹様』
軽い口調でそう答えると、天野は特大サイズのバズーカを手にした。
ドカンと一発、敵陣営に撃ち込む天野。
小鳥遊くんも俺も、警戒心が強い。そのため起死回生を狙う大胆な攻撃は、ふたりともちょっと苦手だったりする。
一方現実世界でも好戦的な天野は、こういうバトルゲームがかなり得意なようだ。
彼の参戦により、形勢は一気に逆転。そのまま僅差ではあったものの、無事我がパーティーは勝利を収めた。
『みんな、お疲れ様ー! 今日はちょっと、危なかったねぇ』
さっきまでのピリピリムードが嘘みたいな、ほんわかとした小鳥遊くんの声。それに、癒された。
『お疲れー! んじゃ俺は、落ちるわ。おやすみー』
一方的にそれだけ言うと、天野はログアウトしてそのまま通話からも消えた。
他のパーティーメンバーに挨拶だけして、俺と小鳥遊くんもゲームからログアウト。
でもその後に、少しだけ話してから寝るのが今や当たり前になっていた。
そして俺は、この短い時間をひそかに楽しみにしていたりする。
『それにしても、勝利ってばほんとマイペースだよね。……なんか、ごめんね』
勝利と言うのは、天野の下の名前だ。
たしかに彼の言うように、天野はとてもマイペースな男だと思う。
でもそれを小鳥遊くんに謝られるのは、なんとなく気に食わない。
だけどそれを表に出すのはちょっと悔しかったから、大人対応で流すことにした。
「ううん、慣れてるから平気」
『慣れてるって……。あはは! 君もアイツに、たいがい振り回されてるもんね』
この言葉を聞く限り、小鳥遊くんもあの男に、幼い頃から振り回されて来たのだろう。
俺の知らない、幼い頃の小鳥遊くん。……それを知っている天野が、やはり少しだけうらやましい。
訪れた、無言の時間。それを小鳥遊くんは、これまでの天野の行いに対して、俺が不満を持っているせいだと勘違いしたらしい。
そのため彼は、もう一度小さな声で謝罪の言葉を口にした。
『ほんと、ごめんね。今度僕の方から、勝利には一度ちゃんと言っておくから』
「いや、違う! そうじゃねぇよ。……そうじゃなくて」
『そうじゃなくて……?』
小鳥遊くんの、戸惑う表情が目に浮かぶ。
天野はいわゆる自由人というやつで、どうしようもなくマイペースな人間だ。
でもそれを俺は、別に不快に思ってはいない。
直感的で、あまり裏表のない彼のことは、むしろ好ましく思っている。
本当はこんなこと、言うべきじゃない。それにさっき口が裂けても言うもんかと、思ったばかりなのに。
でもこんな風にずっと俺ばかりヤキモキさせられてばかりいるこの状況は、やっぱり少し面白くない。
「……ちょっと、嫉妬した。小鳥遊くんと仲のいい、アイツに」
『へ……?』
この答えは、ほんの少しも想像していなかったのだろう。
スマホ越しでも、彼の困惑が手に取るように分かった。ザマァみろ!
「んじゃ、おやすみ。また明日」
『え、ちょ……。ゆ、結城くん!?』
うろたえる小鳥遊くんの声がまだ聞こえていたけれど、一方的に通話を終了させた。
小鳥遊くんは恐らく今夜、さっきの発言に戸惑い、ずっと俺のことを考えて過ごすことになるだろう。
それを思うと少し可哀想な気もしたけれど、いつも散々心を引っ掻き回されているのだ。
これくらいの意趣返し、しても問題なかろう。
激しく動揺する彼の表情を想像して、ククッとひとり笑った。



