その日の、放課後。今日は文化祭で配るための、チラシをふたりで作成することに。
だけど小鳥遊くんは、残念ながらあまりセンスがよろしくないようだった。なので彼に文面を考えてもらい、デザイン的な部分は俺が担当することに。
とはいえこの時彼は心の鍵とやらを開いていたようで、唇を尖らせて言われてしまった。
「……悪かったね、センスがよろしくなくて」
「いや、えっと……。ごめん!」
それに慌て、謝罪の言葉を口にする。すると彼は、クスクスと可笑しそうに笑った。
「フフッ、冗談だよ。センスがないっていうのは、まぁ……。昔からよく、思われてるし」
虚ろな目をして言われ、ますます言葉に窮する俺。
そんな俺を見つめたまま、彼はちょっと苦笑した。
優しい声もたしかに存在するけれど、思ったまま、頭に浮かんだままの言葉が、俺達には聞こえてしまう。
それは時に凶器となり、俺達の心を傷付ける。
そのことを、俺は嫌というほどよく知っている。
これまでは誰にも聞かれていないからと、俺自身かなりキツめの言葉を思い浮かべることもあった。
だけど小鳥遊くんや天野といる時は、少し気を付けた方がいいかもしれない。……大切な彼らを、傷付けないために。
そんなことを考えていたら、彼はフッと小さく笑った。
『まったく……。君はほんと、優し過ぎるんだよ。でも僕は君に、心を隠される方が嫌。だからそんな風に、僕の前でまで心を圧し殺そうとしなくていいよ』
そっと優しく、彼の手が頬に触れる。でも本当に優しいのは、俺じゃない。……小鳥遊くんの方だ。
『んー……。それは、ないかな? 基本的に僕、面倒事を避けるために心の鍵を閉じてるから、普段は何も聞こえてないし』
だけどやっぱり、彼は優しいと思う。そして、誰よりも強い。
「小鳥遊くん。……俺さ、お前に伝えたいことがあるんだ。けど誰にも聞かれたくないから、この後体育館裏に来てもらってもいい?」
ここ数日の間、ずっと待たせてしまっていた彼への返事。これだけはきちんと、リアルな声で伝えたい。
「え……? 体育館の裏に呼び出しって、まさか……」
まさかいったい、何だと言うのか?
その言葉に、思わず首を傾げる。
すると小鳥遊くんはわざとらしく怯えたような顔を作り、心の声で続けた。
『まさか僕のことを、締めるつもり!? ……陽キャ、こわ!!』
はじめて話した日に、心の中で発されたあの言葉。あれをこのタイミングで持ち出してくるあたり、コイツは本当にいい性格をしていると思う。
だけどずっと大嫌いだった能力がなければ、きっと俺は彼に近付いたりはしていなかっただろうというのも、また事実だ。
「おい!!!」
「フフッ、あはは!」
可笑しそうに笑う、小鳥遊くん。そして体育館裏なんかに呼び出された理由なんて、彼はきっともうお見通しだろう。
それが分かっていたから、仏頂面のままパソコン作業に戻った。
でもそこで、ふと新たな疑問が湧いた。
そう言えば彼は、どうして陽キャに怯えていたのだろう?
彼くらい強いメンタルの持ち主で、さらに心の声が聞こえるのであれば、怯える必要なんてまったくないのでは?
すると小鳥遊くんは、少し考えるような素振りを見せた。
それから彼は、心の声で答えてくれた。
『ああいう子達って、結構心の声も鋭めじゃん? だから普段は、自分からはなるべく近付かないようにしてる。とはいえ心の声には、自分でも気が付いていないようなものが奥底に隠れている場合もあるんだよね』
それを聞き、真っ先に頭に浮かんだのは、病み上がりの俺に向けられた花梨の心の声だった。
『ほんと、心配したんだから。……結城くんは意外と真面目で繊細だから、もしかしてなんかあったのかなって』
いつもは自己中心的で、目的達成のためなら手段を選ばない彼女。
あれはもしかしたら、彼女すら気付いていない心の声だったのかもしれない。
『だから僕は別に、彼らのことが嫌いなわけじゃないよ? ……ちょっと、こわいけど』
その言葉に、プッと噴き出した。それから彼の手に手を添えて、じっと顔を見つめた。
『じゃあ、俺のことは?』
『その答えは、君の返事を聞いてから伝えるね』
ニッといたずらっぽく、小悪魔が笑う。……絶対にコイツ、この後何言われるか分かってるじゃん。
「フフッ、かもね? でもそう言うのは、ちゃんとリアルな声で聞きたいじゃん?」
チラシの文面を修整しながら、小鳥遊くんはフフンと笑った。
***
「ねぇ、一緒に体育館裏に行けばよくない?」
わざわざ待ち合わせをしようと提案したら、小鳥遊くんはこんな言葉を口にした。
「駄目。……こういうのは、雰囲気も大事なの!」
「……結城くんって、意外とロマンチストだよね?」
「むしろお前が、リアリスト過ぎるんだよ! ということで俺は少し先に行くから、後から来てよ」
「フフッ……、分かったよ」
楽しそうに笑う、小鳥遊くん。そんな彼を置いて、俺はひとり教室を出た。
待つこと、数分。彼は穏やかな笑みを浮かべ、待ち合わせ場所である体育館裏に姿を見せた。
『ベタなシチュエーションだよね。結城くん、少女漫画とか好きそう』
「そういうことを考える時は、心の鍵とやらを閉じておいてくれ。……恥ずか死ぬ」
あははと、声を上げて笑う小鳥遊くん。
でもこの時になると、彼は心の鍵を閉じてしまったのか、まったく何を考えているのか伝わってこなくなってしまった。
でも、これが普通なんだよな。……みんなこうやって、相手が何を考えているのか分からないまま、気持ちを伝えるのだ。
だから俺も覚悟を決めて、彼の大きな瞳を真っ直ぐに見つめた。
だけど小鳥遊くんは、残念ながらあまりセンスがよろしくないようだった。なので彼に文面を考えてもらい、デザイン的な部分は俺が担当することに。
とはいえこの時彼は心の鍵とやらを開いていたようで、唇を尖らせて言われてしまった。
「……悪かったね、センスがよろしくなくて」
「いや、えっと……。ごめん!」
それに慌て、謝罪の言葉を口にする。すると彼は、クスクスと可笑しそうに笑った。
「フフッ、冗談だよ。センスがないっていうのは、まぁ……。昔からよく、思われてるし」
虚ろな目をして言われ、ますます言葉に窮する俺。
そんな俺を見つめたまま、彼はちょっと苦笑した。
優しい声もたしかに存在するけれど、思ったまま、頭に浮かんだままの言葉が、俺達には聞こえてしまう。
それは時に凶器となり、俺達の心を傷付ける。
そのことを、俺は嫌というほどよく知っている。
これまでは誰にも聞かれていないからと、俺自身かなりキツめの言葉を思い浮かべることもあった。
だけど小鳥遊くんや天野といる時は、少し気を付けた方がいいかもしれない。……大切な彼らを、傷付けないために。
そんなことを考えていたら、彼はフッと小さく笑った。
『まったく……。君はほんと、優し過ぎるんだよ。でも僕は君に、心を隠される方が嫌。だからそんな風に、僕の前でまで心を圧し殺そうとしなくていいよ』
そっと優しく、彼の手が頬に触れる。でも本当に優しいのは、俺じゃない。……小鳥遊くんの方だ。
『んー……。それは、ないかな? 基本的に僕、面倒事を避けるために心の鍵を閉じてるから、普段は何も聞こえてないし』
だけどやっぱり、彼は優しいと思う。そして、誰よりも強い。
「小鳥遊くん。……俺さ、お前に伝えたいことがあるんだ。けど誰にも聞かれたくないから、この後体育館裏に来てもらってもいい?」
ここ数日の間、ずっと待たせてしまっていた彼への返事。これだけはきちんと、リアルな声で伝えたい。
「え……? 体育館の裏に呼び出しって、まさか……」
まさかいったい、何だと言うのか?
その言葉に、思わず首を傾げる。
すると小鳥遊くんはわざとらしく怯えたような顔を作り、心の声で続けた。
『まさか僕のことを、締めるつもり!? ……陽キャ、こわ!!』
はじめて話した日に、心の中で発されたあの言葉。あれをこのタイミングで持ち出してくるあたり、コイツは本当にいい性格をしていると思う。
だけどずっと大嫌いだった能力がなければ、きっと俺は彼に近付いたりはしていなかっただろうというのも、また事実だ。
「おい!!!」
「フフッ、あはは!」
可笑しそうに笑う、小鳥遊くん。そして体育館裏なんかに呼び出された理由なんて、彼はきっともうお見通しだろう。
それが分かっていたから、仏頂面のままパソコン作業に戻った。
でもそこで、ふと新たな疑問が湧いた。
そう言えば彼は、どうして陽キャに怯えていたのだろう?
彼くらい強いメンタルの持ち主で、さらに心の声が聞こえるのであれば、怯える必要なんてまったくないのでは?
すると小鳥遊くんは、少し考えるような素振りを見せた。
それから彼は、心の声で答えてくれた。
『ああいう子達って、結構心の声も鋭めじゃん? だから普段は、自分からはなるべく近付かないようにしてる。とはいえ心の声には、自分でも気が付いていないようなものが奥底に隠れている場合もあるんだよね』
それを聞き、真っ先に頭に浮かんだのは、病み上がりの俺に向けられた花梨の心の声だった。
『ほんと、心配したんだから。……結城くんは意外と真面目で繊細だから、もしかしてなんかあったのかなって』
いつもは自己中心的で、目的達成のためなら手段を選ばない彼女。
あれはもしかしたら、彼女すら気付いていない心の声だったのかもしれない。
『だから僕は別に、彼らのことが嫌いなわけじゃないよ? ……ちょっと、こわいけど』
その言葉に、プッと噴き出した。それから彼の手に手を添えて、じっと顔を見つめた。
『じゃあ、俺のことは?』
『その答えは、君の返事を聞いてから伝えるね』
ニッといたずらっぽく、小悪魔が笑う。……絶対にコイツ、この後何言われるか分かってるじゃん。
「フフッ、かもね? でもそう言うのは、ちゃんとリアルな声で聞きたいじゃん?」
チラシの文面を修整しながら、小鳥遊くんはフフンと笑った。
***
「ねぇ、一緒に体育館裏に行けばよくない?」
わざわざ待ち合わせをしようと提案したら、小鳥遊くんはこんな言葉を口にした。
「駄目。……こういうのは、雰囲気も大事なの!」
「……結城くんって、意外とロマンチストだよね?」
「むしろお前が、リアリスト過ぎるんだよ! ということで俺は少し先に行くから、後から来てよ」
「フフッ……、分かったよ」
楽しそうに笑う、小鳥遊くん。そんな彼を置いて、俺はひとり教室を出た。
待つこと、数分。彼は穏やかな笑みを浮かべ、待ち合わせ場所である体育館裏に姿を見せた。
『ベタなシチュエーションだよね。結城くん、少女漫画とか好きそう』
「そういうことを考える時は、心の鍵とやらを閉じておいてくれ。……恥ずか死ぬ」
あははと、声を上げて笑う小鳥遊くん。
でもこの時になると、彼は心の鍵を閉じてしまったのか、まったく何を考えているのか伝わってこなくなってしまった。
でも、これが普通なんだよな。……みんなこうやって、相手が何を考えているのか分からないまま、気持ちを伝えるのだ。
だから俺も覚悟を決めて、彼の大きな瞳を真っ直ぐに見つめた。



