本当に体調が悪かったとはいえ、数日ぶりの学校。
そのせいで妙に緊張してしまい、教室の前で思わず足が止まった。
俺が能力者だと知るのは、小鳥遊くんと天野のふたりのみ。
それ以外の人間は、俺が学校に来られなくなった理由なんて、まったく気付いてはいない。
それが分かっていながら、教室に入るのがこわくて堪らなかった。
その時背後から、いきなり声をかけられた。
「おはよう、結城くん。もう体調は、平気なの?」
男性にしてはちょっと高くて、愛らしい声。それが誰のものかなんて、振り向かなくてもすぐに分かる。
「おはよ、小鳥遊くん。うん、もう平気」
笑顔で答えると、彼はホッとしたように表情を綻ばせた。それから彼は一歩俺の前に出て、ガラリと扉を開けた。
すると俺達に気が付いた天野が、ものすごい勢いで駆けてきた。
「おはよう、凛音! それに、しぃちゃんも! 凛音、お前もう体調は大丈夫なの!?」
早口で、一気に捲し立てる天野。それがおかしくて、思わずプッと噴き出した。
だけど俺がその質問に答えるより早く、小鳥遊くんが返事をした。……リアルな声と、心の声で。
「おはよう、天野くん」
『でも、勝利。……しぃちゃんは、やめて』
その声に反応し、ビクッと体を震わせる天野。……相変わらず小鳥遊くんの、天野へのあたりが強い。
でもそれも今回に限っては、仕方のないことだと思う。だって小鳥遊くんは、天野と親戚関係にあるということを隠したいのだから。
なのにこんな風に『しぃちゃん』などと声を掛けられたら、不審に思う人間も現れるかもしれない。
助けを求め、俺を見つめる天野の瞳。そしてこの時になり、改めて知った。
……小鳥遊くんが言うように正直で素直過ぎる天野の性格は、本当にこの能力との相性が悪過ぎる。
それがおかしくて、腹を抱えて笑う俺。すると、俺まで小鳥遊くんに睨まれてしまった。
「んんっ……。おはよ、天野。もう大丈夫!」
笑いを堪えて慌てて顔を引き締め、天野の言葉に答える俺。
『あれ? 天野と小鳥遊って、仲良かったっけ? しかもなんか、結城ともめっちゃ親し気だし』
『え、待って。待って。待って。結城くんのあんな笑顔、激レアじゃない? ……ヤバ』
『しぃちゃん……? 天野いま、小鳥遊のこと、しぃちゃんって呼んだ!? しかも小鳥遊、めっちゃ機嫌悪そうだし。……あいつらの関係って、いったい』
たくさんの声が、一気に頭に流れ込む。数日ぶりに浴びる、複数人の心の声。
そのせいで、またしても激しい頭痛が俺を襲った。
でも、どうしよう? ……今来たばかりなのに、もう既に帰りたい。
『大丈夫、僕もいるよ』
脳内に再び響いてきた、小鳥遊くんの声。その声はいつも通り優しく穏やかなのに、同時にとても力強い響きを持っている。
『ありがと、小鳥遊くん。……うん、そうだな』
彼の声に支えられて顔を上げ、真っ直ぐに前を向く。
「おっはよー!」
いつもみたいに、明るく軽い声色を心掛けて言った。すると普段一緒に行動することの多い奴らが、一斉に俺の方に駆け寄ってきた。
「おはよう、凛音。心配したんだぞ、もう大丈夫なのかよ?」
「おぅ、ありがと。もう大丈夫」
二ッと笑って、ピースサインと共に答えた。
「そっか、なら良かった」
『けどなんか、まだちょっとだるそうな気もするなぁ。……早く良くなればいいけど』
「おはよう、結城くん! 私も心配、したんだからね! はぁ……、ほんと良かったぁ」
媚びたような甘い声でそう言ったのは、花梨だった。だけど彼女の心の声は、ちょっといつもと異なっていた。
『ほんと、心配したんだから。……結城くんは意外と真面目で繊細だから、もしかしてなんかあったのかなって』
それに驚き、彼女の顔を凝視する。すると花梨は俺の視線に耐えられなくなったのか、真っ赤な顔をプイとそらした。
『結城くん、回復したんだ。良かった、心配してたんだよね』
『結城、今日から復活かぁ! そんなに親しくはねぇけど、結構長く休んでたからちょっと心配だったんだよな』
頭の中に響いてくるのは、いつもと同じたくさんの心の声。これまで俺はそれを、他人には聞こえない、醜い雑音のようなものだとずっと思っていた。
だけどそれはもしかしたら、俺の被害妄想だったのかもしれない。
もちろん今後も心ない声に悩まされることはいっぱいあるだろうけれど、でもきっとそれだけじゃない。
俺がちゃんと耳を澄ませば、それ以外の優しい声も、きっとたくさんあるはずだから。
これまで自分は、誰からも必要とされていないと思っていた。……そう思うことで、すべてから逃げていた。
でもこうして心配し、待っていてくれるやつらもいる。
「ありがと、みんな。……でも俺、まじでもう大丈夫だから」
その言葉の重みに気付いているのは、きっと小鳥遊くんと天野だけだろう。
二ッと笑って、親指を立てる天野。その隣で小鳥遊くんが、彼によく似たドヤ顔で笑った。
「あれ? 今まで思ったことなかったけど……。天野と小鳥遊って、なんかめっちゃ似てね? まじで、他人の空似レベルじゃないっていうか……」
ついにその事実に、気付く者が現れてしまったか。キョドキョドと、天野の視線が泳ぐ。
それをどうごまかそうかと考えていたら、小鳥遊くんはクスリと笑って言った。
「フフッ。うん、親戚にもよく言われる。僕と勝利、実は従兄弟同士なんだよねぇ」
サラリと明かされた、衝撃の事実。いやそれ、隠してたんじゃねぇのかよ!?
一瞬の、沈黙。しかし次の瞬間、教室内はリアルな声と、心の声で大騒ぎとなった。
唖然とする俺達を尻目に、悠然と席に着く小鳥遊くん。
「しぃちゃ——ん!」
嬉しそうに、小鳥遊くんに抱き着く天野。それをちょっと迷惑そうに、冷たく引っぺがす小鳥遊くん。
「……勝利、ウザい」
そんなふたりを前に、大笑いする俺。さらに大きくなる、みんなのリアルな声と心の声。
今日もやっぱり、世界は騒がしい。
そのせいで妙に緊張してしまい、教室の前で思わず足が止まった。
俺が能力者だと知るのは、小鳥遊くんと天野のふたりのみ。
それ以外の人間は、俺が学校に来られなくなった理由なんて、まったく気付いてはいない。
それが分かっていながら、教室に入るのがこわくて堪らなかった。
その時背後から、いきなり声をかけられた。
「おはよう、結城くん。もう体調は、平気なの?」
男性にしてはちょっと高くて、愛らしい声。それが誰のものかなんて、振り向かなくてもすぐに分かる。
「おはよ、小鳥遊くん。うん、もう平気」
笑顔で答えると、彼はホッとしたように表情を綻ばせた。それから彼は一歩俺の前に出て、ガラリと扉を開けた。
すると俺達に気が付いた天野が、ものすごい勢いで駆けてきた。
「おはよう、凛音! それに、しぃちゃんも! 凛音、お前もう体調は大丈夫なの!?」
早口で、一気に捲し立てる天野。それがおかしくて、思わずプッと噴き出した。
だけど俺がその質問に答えるより早く、小鳥遊くんが返事をした。……リアルな声と、心の声で。
「おはよう、天野くん」
『でも、勝利。……しぃちゃんは、やめて』
その声に反応し、ビクッと体を震わせる天野。……相変わらず小鳥遊くんの、天野へのあたりが強い。
でもそれも今回に限っては、仕方のないことだと思う。だって小鳥遊くんは、天野と親戚関係にあるということを隠したいのだから。
なのにこんな風に『しぃちゃん』などと声を掛けられたら、不審に思う人間も現れるかもしれない。
助けを求め、俺を見つめる天野の瞳。そしてこの時になり、改めて知った。
……小鳥遊くんが言うように正直で素直過ぎる天野の性格は、本当にこの能力との相性が悪過ぎる。
それがおかしくて、腹を抱えて笑う俺。すると、俺まで小鳥遊くんに睨まれてしまった。
「んんっ……。おはよ、天野。もう大丈夫!」
笑いを堪えて慌てて顔を引き締め、天野の言葉に答える俺。
『あれ? 天野と小鳥遊って、仲良かったっけ? しかもなんか、結城ともめっちゃ親し気だし』
『え、待って。待って。待って。結城くんのあんな笑顔、激レアじゃない? ……ヤバ』
『しぃちゃん……? 天野いま、小鳥遊のこと、しぃちゃんって呼んだ!? しかも小鳥遊、めっちゃ機嫌悪そうだし。……あいつらの関係って、いったい』
たくさんの声が、一気に頭に流れ込む。数日ぶりに浴びる、複数人の心の声。
そのせいで、またしても激しい頭痛が俺を襲った。
でも、どうしよう? ……今来たばかりなのに、もう既に帰りたい。
『大丈夫、僕もいるよ』
脳内に再び響いてきた、小鳥遊くんの声。その声はいつも通り優しく穏やかなのに、同時にとても力強い響きを持っている。
『ありがと、小鳥遊くん。……うん、そうだな』
彼の声に支えられて顔を上げ、真っ直ぐに前を向く。
「おっはよー!」
いつもみたいに、明るく軽い声色を心掛けて言った。すると普段一緒に行動することの多い奴らが、一斉に俺の方に駆け寄ってきた。
「おはよう、凛音。心配したんだぞ、もう大丈夫なのかよ?」
「おぅ、ありがと。もう大丈夫」
二ッと笑って、ピースサインと共に答えた。
「そっか、なら良かった」
『けどなんか、まだちょっとだるそうな気もするなぁ。……早く良くなればいいけど』
「おはよう、結城くん! 私も心配、したんだからね! はぁ……、ほんと良かったぁ」
媚びたような甘い声でそう言ったのは、花梨だった。だけど彼女の心の声は、ちょっといつもと異なっていた。
『ほんと、心配したんだから。……結城くんは意外と真面目で繊細だから、もしかしてなんかあったのかなって』
それに驚き、彼女の顔を凝視する。すると花梨は俺の視線に耐えられなくなったのか、真っ赤な顔をプイとそらした。
『結城くん、回復したんだ。良かった、心配してたんだよね』
『結城、今日から復活かぁ! そんなに親しくはねぇけど、結構長く休んでたからちょっと心配だったんだよな』
頭の中に響いてくるのは、いつもと同じたくさんの心の声。これまで俺はそれを、他人には聞こえない、醜い雑音のようなものだとずっと思っていた。
だけどそれはもしかしたら、俺の被害妄想だったのかもしれない。
もちろん今後も心ない声に悩まされることはいっぱいあるだろうけれど、でもきっとそれだけじゃない。
俺がちゃんと耳を澄ませば、それ以外の優しい声も、きっとたくさんあるはずだから。
これまで自分は、誰からも必要とされていないと思っていた。……そう思うことで、すべてから逃げていた。
でもこうして心配し、待っていてくれるやつらもいる。
「ありがと、みんな。……でも俺、まじでもう大丈夫だから」
その言葉の重みに気付いているのは、きっと小鳥遊くんと天野だけだろう。
二ッと笑って、親指を立てる天野。その隣で小鳥遊くんが、彼によく似たドヤ顔で笑った。
「あれ? 今まで思ったことなかったけど……。天野と小鳥遊って、なんかめっちゃ似てね? まじで、他人の空似レベルじゃないっていうか……」
ついにその事実に、気付く者が現れてしまったか。キョドキョドと、天野の視線が泳ぐ。
それをどうごまかそうかと考えていたら、小鳥遊くんはクスリと笑って言った。
「フフッ。うん、親戚にもよく言われる。僕と勝利、実は従兄弟同士なんだよねぇ」
サラリと明かされた、衝撃の事実。いやそれ、隠してたんじゃねぇのかよ!?
一瞬の、沈黙。しかし次の瞬間、教室内はリアルな声と、心の声で大騒ぎとなった。
唖然とする俺達を尻目に、悠然と席に着く小鳥遊くん。
「しぃちゃ——ん!」
嬉しそうに、小鳥遊くんに抱き着く天野。それをちょっと迷惑そうに、冷たく引っぺがす小鳥遊くん。
「……勝利、ウザい」
そんなふたりを前に、大笑いする俺。さらに大きくなる、みんなのリアルな声と心の声。
今日もやっぱり、世界は騒がしい。



