小鳥遊くんの心の声は、存外騒がしい

「なるほどな。……なんとなく、理解した」

 俺の言葉を聞き、クスクスと楽しそうに笑う小鳥遊くん。
 そんな彼の笑顔を見て、改めて感じたんだ。
 ……コイツとずっと、一緒にいたいって。

 でもその瞬間、あの日の母親の顔と言葉を思い出した。

『来ないで! こっちに、来ないでよ! それ以上、私達に近寄らないで! この……、化け物!!』

 あっぶな! またしても俺は、何を勘違いしそうになっていたんだろう?
 ……化け物の俺が、彼の側にいたいだなんて。

 小鳥遊くんの指先が、再び俺の耳に触れる。

『ねぇ、結城くん。……なんでまた、ピアスの穴なんかあけたの?』

 ファッションのためだと笑って誤魔化すことも、たぶん出来たと思う。
 でも彼にだけは、嘘をつきたくない。そう思った。
 だから俺はヘラヘラと笑いながらではあったけれど、素直にその質問に答えた。
 
「えー……? あはは。運命を変えるため、的な?」

 彼の眉間に寄せられた、深いしわ。
 そしてそれに驚く間もなく、彼はまったく予想外な言葉を口にした。

『は? 何、それ。くっだらな!』

「はぁ!? くだらないって、なんだよ!? お前にいったい、何が分か……」

『分かるよ! 全部、分かってる! ……だって僕も、同じだから』

 その言葉の意味が分からず、無言のままただ彼の顔を凝視する。

『ねぇ、結城くん……』

 彼が、俺の名前を呼ぶ。

「……なんだよ?」

 仏頂面のまま、答える俺。すると彼はふぅと小さく息を吸い、ニッといたずらっぽく笑った。
 明らかに険悪な雰囲気だったはずなのに、なんでそこで、そんな風に笑えるんだよ!?
 
 唖然としながら、ただ彼の顔をじっと見つめる。
 すると小鳥遊くんは、過去一の爆弾を投下した。

『君、気が付いてる? ……僕、さっきから、全然喋ってないんだけど』

「え……?」

 まったく想像していなかった彼の言葉に、思わず息を呑む。
 そんな俺を見つめたまま、彼はプッと噴き出して、そのまま腹を抱えて爆笑した。

『あはは! やっぱり君、全然気が付いてなかったんだね? 僕も君と同じ、能力者なんだってことに』

 笑い過ぎたせいで目の端に浮かんだ涙を指先で拭い、彼は続けた。

「あ、勘違いしないでね? くだらないって言ったのは、君の悩みじゃないから」
 
 その言葉は脳内ではなく、口で直接語られた。

「くだらないのは、ピアスなんかの力で、運命を変えようとしたことだよ。そんなことで運命は変わらないし、簡単に自分の体を傷つけるのは絶対に駄目! 分かった?」

 唇をツンと尖らせたまま、鼻先に指を突き付けられた。

 小鳥遊くんが、能力者……? まさか、そんなはずが……。

 だけどその考えもあっさり読まれ、彼は笑いながら言った。……頭の中で。

『フフッ、驚かせてごめん。でも……。まさか君、この能力を持つのが、世界中で自分ただひとりだと思ってた?』

 ニッと意地悪く、彼の口角が上がる。そしてその表情は、どことなく天野に似ているような気がした。

「ねぇ、結城くん。答え合わせをしよっか?」

 楽しそうに笑ったまま両手のひらで俺の頬を包み込み、彼は額に額を押し当てた。

 そして、その瞬間。小鳥遊くんの記憶と優しい声が、一気に頭の中に流れ込んできた。
 
***

 僕には生まれた時から、テレパシー能力があった。
 そしてそれは僕だけじゃなく、母方の従兄弟の勝利にも。

 というのも僕らの生まれた家系は、代々そう(・・)だったから。……かなりの確率で、超能力を持つ人間が生まれてくるからだ。

 だから過去にはその能力を利用して、祈祷や占いを生業としたご先祖様もいたらしい。
 我が親族ながら、本当に面の皮が厚いよねぇ。

 そんな家に生まれたものだから、うちには代々、能力の操作方法に関するマニュアルみたいなものまであるんだよ?
 結城くん。今度君にも、見せてあげるね。きっと、役に立つと思うから。
 
 言葉を発することが出来るようになる前から、勝利とはよくふたりで会話をしてた。
 とはいえ勝利はその時のことを、もう覚えていないみたいだけれど。

 素直な勝利は、思ったことがすぐに顔に出る。
 そしてその性格は、他人の心の声が聞こえる能力との相性が最悪だった。

 そのため僕は危機回避のため、校内ではなるべく彼の側にいないことにした。
 そして心の鍵を閉じることで、他者の心の声を聞かないようにした。
 だってわざとじゃないにしても、ちょっとズルしてるみたいで嫌だったし。
 
 だけどアイツは、能力のコントロールが下手くそだった。いくら練習しても、びっくりするくらい上手くならないんだ。
 でも同時に勝利は、本当に素直でいいやつで。……だから文化祭の係決めの時も、僕を庇おうとしてくれた。

 その気持ちはとてもありがたかったけど、クラスのカースト最上位に君臨する勝利に庇ってもらえば、いらぬ反感を買いかねない。
 そう思ったから、その申し出は丁重にお断りしたんだよね。

 あぁ、ごめん。ちょっと話が、それてしまったね?
 結城くんが僕らと同じ能力者なんじゃないかって思ったのは、そうだなぁ……。文化祭の係決めの時が、たぶん最初だったと思う。
 
 それを確信したのは教室で居残りして、ふたりで看板にペンキを塗っていた時。

 君が真っ赤なペンキを勝手に塗ったことにびっくりして、心の鍵が勝手に開いちゃって。
 聞くつもりはなかったのに、そのせいで君の心の声が勝手に聞こえてきちゃったんだ。
 
 あの時君は、僕の心の声を聞いた上で、やってくれたんだよね?
 そういうところがほんと、見ていて心配になっちゃった。……器用なようでいて、君、本当に不器用だから。