そうだ。忌まわしいのは、この能力なんかじゃない。……俺自身だ。
母親に捨てられ、父親にも疎まれて。……普通でいなきゃいけないのに、それすらうまく出来ない。
中学を卒業して、すぐの頃。たまたま女の子達が、話してるのを聞いた。
『ピアスをあけたら、運命が変わるらしい』。そんななんの根拠のないまじないにでもすらすがらないと、心が壊れてしまいそうだった。
それ以降、少しずつ増えていったピアスの穴。
それはもう優に十を越え、適当に選んだピアスは俺の両耳を覆い尽くしている。
そうだ、ピアス。また、ピアスをあけなきゃ……。
そうしたら、運命が変わって。……誰かに必要だって、言ってもらえるかもしれないから。
アイスピックを手に取り、耳たぶを当てる。氷を耳の裏に当てて一気に貫くと、鮮血がポタポタと滴り落ちた。
「ハッ……、これで変わったかな? ……変わってたら、いいな」
再びこみ上げてきた、笑い。その時、インターホンが鳴った。
「……誰だよ、クソッ」
頭の痛みに耐えながら、フラフラと玄関へと向かう。
インターホンのモニター画面を覗くと、そこには小鳥遊くんの姿があった。
は……? 今はまだ授業中のはずなのに、なんでアイツが?
それに俺、小鳥遊くんに、家の場所なんて教えてなかったよな!?
『こんにちは。結城くん、いるよね? 開けて』
いつもと同じ、柔らかな口調。いつもと同じ、愛らしい笑顔。
でも有無を言わせない強い圧を、モニター越しに感じた。
「何にし来たんだよ? ……それにまだ、授業中だろ?」
困惑しながら、声を絞り出す。
すると小鳥遊くんは、いつもみたいに唇を尖らせた。
『何って、君のお見舞いに。はじめて学校、サボっちゃった。だから人目に付きたくないから、早く開けて!』
いつになく強引な、彼の口調。だけどいつまでもこのままにしているわけにもいかなかったから、渋々鍵を開けた。
「こんにちは、お邪魔しまーす! って、血! どうしたの!? 結城くん!」
慌てた様子で俺の耳に手を触れ、大きな声で叫ぶ小鳥遊くん。
そんな彼を見て、ウジウジと悩んでいたのが少しだけ馬鹿らしくなった。
「んー……。ピアスの穴、あけた」
するとその返事を聞いた小鳥遊くんは、眉間に深いしわを寄せた。
「……体調悪くて、休んでたんだよね? 熱が上がっても、知らないよ」
あからさまに不愉快そうに言われたけれど、もうどうでもいい。
「熱は、ねぇから」
「え? ないの? ……もしかして、仮病?」
じっと俺を見上げる、小鳥遊くんの大きな瞳。それに居心地の悪さを感じて、視線をそらした。
でもそれが気に食わなかったのか、彼は俺の頬に手を添え、無理やり目を合わさせた。
「はぁ……。ほんと、心配したんだからね?」
仮病じゃ、ねぇし。……頭が痛かったのは、本当だし。
「ふーん……。まぁ、なら仕方がないか」
それから彼は制服のポケットからハンカチを取り出して、俺の耳に当てた。
「……まだ痛い?」
「ん……。もう平気」
「そっか、なら良かった」
ホッとしたように笑う、小鳥遊くん。こんな時でさえ、コイツの笑顔に救われてしまうだなんて。
「そうだ! 食欲がないかと思って、色々買ってきたんだよね。ゼリーとか、アイスクリームとか!」
そんなことを言いながら、テーブルの上に買ってきてくれた物を並べる小鳥遊くん。
でもそれはどれもこれも甘そうで、自分では絶対に選ばないような食べ物ばかりだった。
それがおかしくて、思わずプッと噴き出した。
だけど同時に、彼の気持ちがとても嬉しかった。
「って、ごめんね! ……僕の好みで、選んじゃった」
途方に暮れたように、情けなく眉尻を下げる小鳥遊くん。
「ありがと、小鳥遊くん。スッゲェ嬉しい」
これまでの、俺の人生。すべてを諦めたふりをすることで、やり過ごして来た。
でも、どうしよう? ……小鳥遊くんのことだけは、絶対に諦めたくない。
「まぁ、喜んでくれてるならいいけど。あ、そうだ! これ、アイスコーヒー! これなら、飲める……よね?」
そろりと俺の顔を見上げる、小鳥遊くん。俺のことを考えて選んでくれたのだと思うと、愛しさで胸がいっぱいになった。
「ん……。ありがと、小鳥遊くん」
「フフッ。さっきから結城くん、ありがとうばっかりだね」
***
いつまでも立ったままというのは申し訳なかったし、俺自身、彼ともっと話がしたかった。
だから、自室に招き入れた。
「失礼しまーす! ……なんていうか、片付いてるけど、何もない部屋だね」
小鳥遊くんと、出逢うまで。趣味らしい趣味もなかったから、彼の言うように部屋に物はほとんどない。
「うん。あんま物が多いの、好きじゃねぇから」
そこで、ふと気付く。
「そう言えば家の場所、なんで知ってたの? 教えたこと、なかったよな?」
キョドキョドと不審に動く、小鳥遊くんの瞳。それを疑問に思いながら、彼の答えを待った。
「えっと……。ごめん!!」
勢いよく頭を下げる、小鳥遊くん。それに驚き、慌てて言った。
「へ……? いや、何がだよ!? 頭上げろよ!」
すると彼はバツが悪そうに顔を上げ、小さな声で言った。
『……勝利から、聞き出した』
その答えは、とても意外なものだった。
たしかに彼は一度、うちに勉強会のために来たことがある。
でもアイツは意外と常識人だから、許可を取らずに家の場所を教えたりするだろうか?
そんな疑問が、顔に出てしまったのだろう。小鳥遊くんはますます情けない表情になり、小さな声で続けた。
『……無理やり』
「……無理やり」
あまりにも予想外な、無理やりという言葉。そのため、思わず彼の言葉を繰り返した。
『だってアイツ、中々教えてくれないから』
以前天野が言っていた、『鋼メンタル』という言葉。
それをふと思い出し、頭を抱えた。
母親に捨てられ、父親にも疎まれて。……普通でいなきゃいけないのに、それすらうまく出来ない。
中学を卒業して、すぐの頃。たまたま女の子達が、話してるのを聞いた。
『ピアスをあけたら、運命が変わるらしい』。そんななんの根拠のないまじないにでもすらすがらないと、心が壊れてしまいそうだった。
それ以降、少しずつ増えていったピアスの穴。
それはもう優に十を越え、適当に選んだピアスは俺の両耳を覆い尽くしている。
そうだ、ピアス。また、ピアスをあけなきゃ……。
そうしたら、運命が変わって。……誰かに必要だって、言ってもらえるかもしれないから。
アイスピックを手に取り、耳たぶを当てる。氷を耳の裏に当てて一気に貫くと、鮮血がポタポタと滴り落ちた。
「ハッ……、これで変わったかな? ……変わってたら、いいな」
再びこみ上げてきた、笑い。その時、インターホンが鳴った。
「……誰だよ、クソッ」
頭の痛みに耐えながら、フラフラと玄関へと向かう。
インターホンのモニター画面を覗くと、そこには小鳥遊くんの姿があった。
は……? 今はまだ授業中のはずなのに、なんでアイツが?
それに俺、小鳥遊くんに、家の場所なんて教えてなかったよな!?
『こんにちは。結城くん、いるよね? 開けて』
いつもと同じ、柔らかな口調。いつもと同じ、愛らしい笑顔。
でも有無を言わせない強い圧を、モニター越しに感じた。
「何にし来たんだよ? ……それにまだ、授業中だろ?」
困惑しながら、声を絞り出す。
すると小鳥遊くんは、いつもみたいに唇を尖らせた。
『何って、君のお見舞いに。はじめて学校、サボっちゃった。だから人目に付きたくないから、早く開けて!』
いつになく強引な、彼の口調。だけどいつまでもこのままにしているわけにもいかなかったから、渋々鍵を開けた。
「こんにちは、お邪魔しまーす! って、血! どうしたの!? 結城くん!」
慌てた様子で俺の耳に手を触れ、大きな声で叫ぶ小鳥遊くん。
そんな彼を見て、ウジウジと悩んでいたのが少しだけ馬鹿らしくなった。
「んー……。ピアスの穴、あけた」
するとその返事を聞いた小鳥遊くんは、眉間に深いしわを寄せた。
「……体調悪くて、休んでたんだよね? 熱が上がっても、知らないよ」
あからさまに不愉快そうに言われたけれど、もうどうでもいい。
「熱は、ねぇから」
「え? ないの? ……もしかして、仮病?」
じっと俺を見上げる、小鳥遊くんの大きな瞳。それに居心地の悪さを感じて、視線をそらした。
でもそれが気に食わなかったのか、彼は俺の頬に手を添え、無理やり目を合わさせた。
「はぁ……。ほんと、心配したんだからね?」
仮病じゃ、ねぇし。……頭が痛かったのは、本当だし。
「ふーん……。まぁ、なら仕方がないか」
それから彼は制服のポケットからハンカチを取り出して、俺の耳に当てた。
「……まだ痛い?」
「ん……。もう平気」
「そっか、なら良かった」
ホッとしたように笑う、小鳥遊くん。こんな時でさえ、コイツの笑顔に救われてしまうだなんて。
「そうだ! 食欲がないかと思って、色々買ってきたんだよね。ゼリーとか、アイスクリームとか!」
そんなことを言いながら、テーブルの上に買ってきてくれた物を並べる小鳥遊くん。
でもそれはどれもこれも甘そうで、自分では絶対に選ばないような食べ物ばかりだった。
それがおかしくて、思わずプッと噴き出した。
だけど同時に、彼の気持ちがとても嬉しかった。
「って、ごめんね! ……僕の好みで、選んじゃった」
途方に暮れたように、情けなく眉尻を下げる小鳥遊くん。
「ありがと、小鳥遊くん。スッゲェ嬉しい」
これまでの、俺の人生。すべてを諦めたふりをすることで、やり過ごして来た。
でも、どうしよう? ……小鳥遊くんのことだけは、絶対に諦めたくない。
「まぁ、喜んでくれてるならいいけど。あ、そうだ! これ、アイスコーヒー! これなら、飲める……よね?」
そろりと俺の顔を見上げる、小鳥遊くん。俺のことを考えて選んでくれたのだと思うと、愛しさで胸がいっぱいになった。
「ん……。ありがと、小鳥遊くん」
「フフッ。さっきから結城くん、ありがとうばっかりだね」
***
いつまでも立ったままというのは申し訳なかったし、俺自身、彼ともっと話がしたかった。
だから、自室に招き入れた。
「失礼しまーす! ……なんていうか、片付いてるけど、何もない部屋だね」
小鳥遊くんと、出逢うまで。趣味らしい趣味もなかったから、彼の言うように部屋に物はほとんどない。
「うん。あんま物が多いの、好きじゃねぇから」
そこで、ふと気付く。
「そう言えば家の場所、なんで知ってたの? 教えたこと、なかったよな?」
キョドキョドと不審に動く、小鳥遊くんの瞳。それを疑問に思いながら、彼の答えを待った。
「えっと……。ごめん!!」
勢いよく頭を下げる、小鳥遊くん。それに驚き、慌てて言った。
「へ……? いや、何がだよ!? 頭上げろよ!」
すると彼はバツが悪そうに顔を上げ、小さな声で言った。
『……勝利から、聞き出した』
その答えは、とても意外なものだった。
たしかに彼は一度、うちに勉強会のために来たことがある。
でもアイツは意外と常識人だから、許可を取らずに家の場所を教えたりするだろうか?
そんな疑問が、顔に出てしまったのだろう。小鳥遊くんはますます情けない表情になり、小さな声で続けた。
『……無理やり』
「……無理やり」
あまりにも予想外な、無理やりという言葉。そのため、思わず彼の言葉を繰り返した。
『だってアイツ、中々教えてくれないから』
以前天野が言っていた、『鋼メンタル』という言葉。
それをふと思い出し、頭を抱えた。



