小鳥遊くんの心の声は、存外騒がしい

 その日は結局夕方過ぎまでふたりで過ごし、いつもの電車で別れた。

 それにしても天野の言っていた、『小鳥遊くんは鋼メンタル』という言葉。
 ……あれはいったい、どういう意味だったのだろう?  

 俺よりも付き合いの長い天野が言うのだから、恐らくそれは真実なのだろうと思う。
 でも俺の知る小鳥遊くんのイメージとはあまりにもかけ離れた天野の言葉が、ずっと心に引っかかっていた。

 そうこうしている間に、時計の針は21時の少し前を指していた。
 そのためゲームにログインして、通話を繋ぐ。
 すると小鳥遊くんと天野はすでにログインしていて、通話中だった。

 映画の感想を、伝え合うふたり。でも俺が加わったことで、その会話は終了した。

『やほー、凛音。今日は珍しく、俺の方が早かったみたいだな』

 明るい、天野の声。それに続き、小鳥遊くんの男性にしては高く愛らしい声が響いた。

『こんばんは、結城くん。だけど……。フフッ、なんで勝利は、そんな得意げなんだよ?』

 ふたりの距離感はやはり近く、それには少しだけモヤモヤしてしまう。
 でも天野の言うように、彼らは親友ともまた少し違う、特別な関係なのだろう。
 それが分かっているから、きっと俺が気にしたところで意味がない。

「こんばんは。あはは、ほんとにな。ドヤるとこじゃねぇだろ、天野」

『ふたりとも、冷た! 俺はなぁ……、褒められて伸びるタイプなんだよ! もっと、優しくしてくれても良くね?』

 天野の不満顔が、目に浮かぶようだ。スマホ越しにゲラゲラと笑う、俺と小鳥遊くん。
 その時バトル開始時刻を迎えたから、俺達はそれぞれ持ち場へ。

『今日は絶対に勝ちたいよねぇ、報酬もいいし!』

 ワクワクしたような、小鳥遊くんの声。いつも穏やかな彼だけれど、ゲーム中は中々に好戦的だ。
 でも、そのギャップもとてもいい。

 アバタもエクボというのはきっと、俺のような状態のことを言うのだろうなと、ちょっと苦笑した。

 俺と小鳥遊くんは、どちらかというとサポート的な役割を得意としている。
 一方天野は、一発逆転的な場面に強い。
 しかし大胆な動きを見せるせいで敵の的となり、集中砲火を食らった挙句、やられてしまうことも少なくない。

 今日の天野は、残念ながらその悪い面が出てしまったようだ。

『あ、やべ』

 その声を発した次の瞬間彼は敵の弾丸を受け、あっさり死亡。

『もう! 勝利、前出過ぎ!』

 小鳥遊くんの、不満そうな声が響く。でもその間も、彼の攻撃の手は止まらない。
 
『ごめんて! 絶対、行けると思ったんだけどなぁ』

 ふたりのやり取りに、思わず噴き出す。クラスのカースト最上位者である天野を叱る、普段はとてもおとなしくて目立たない小鳥遊くん。
 きっとこんな小鳥遊くんのこと、みんなは知らない。それになんとなくだけれど、少しだけ優越感を覚えた。
 
 結局味方のファインプレーもあり、俺達はなんとか無事勝利を手におさめることが出来た。

『やったぁ! 危なかったけど、勝てた!』

 嬉しそうに弾む、小鳥遊くんの声。それを聞き、クスリと笑った。

「だな、みんなお疲れ!」

『おう、お疲れ! 俺ももうちょい、小技を使っていくべきかなぁ?』

 早々に敵にやられてしまった天野は、珍しく反省モードのようだ。
 そのため小鳥遊くんは、ここぞとばかりにこんこんと詰め始めた。

『そうだよ、勝利! 一撃必殺の大技ばっかじゃなく、ちゃんと全体を見て立ち回らないと!』

『ん、分かった。分かったよ! ……しかしやっぱ、俺にだけあたり強くね?』

 不服そうな、天野の声。たしかに小鳥遊くんは、天野に対してだけかなりあたりが強い。
 ……でもそれが、ちょっと羨ましい。

『仕方なくない? だって、勝利だし』

『はぁ!? それ、全然理由になってねぇし!!』

 天野の言うように、さすがにその理由はあまりにも理不尽過ぎる。それがおかしくて、腹を抱えて爆笑した。

***

 月曜日。電車内で小鳥遊くんを発見することが出来ず、少し残念な気持ちのまま学校へ。
 教室に入ると、珍しく小鳥遊くんがみんなの会話に混ざっていた。

 でも小鳥遊くんの言葉を聞き、全身がフリーズしてしまった。

「超能力者? そんなの、いるわけないじゃん。そんなのが、もし本当にいたら。……それは、化け物だよ」

 グラリと、視界が揺れる。それでも平静を装い、いつものように軽い口調で会話に交ざった。

「おっはよー! 朝から、濃い話してんな? 超能力者って」

 すると花梨が、嬉しそうに答えた。
 
「おはよう、凛音! 凛音も昨日の超能力特番、見た?」

 その話だったのかと安堵するのと同時に、小鳥遊くんの言葉が胸を締め付ける。
 でもここで過剰に反応すれば、みんなに変に思われてしまうだろう。

 それが分かっていたから、ヘラヘラと笑って答えた。

「へぇ、そんなのやってたんだ? 俺は、見てないや」

 そこからの記憶は、曖昧で。その日はどうやってやり過ごし、帰宅したのかもあまり覚えていない。

『こっちに来ないで! この……化け物!!』

 母親が俺に向けた、最後の言葉。激しい頭痛が、俺を襲う。

 そうだよ。何を、勘違いしてた?
 ……俺は、普通の人間じゃない。化け物なんだ。

『超能力者? そんなの、いるわけないじゃん。そんなのが、もし本当にいたら。……それは、化け物だよ』

 小鳥遊くんのあの言葉が、頭の中に蘇った。
 
「ハハッ、ヤバい。……ウケる」

 誰にともなく口にした言葉は、闇に溶けて消えた。