元ヤンの血が騒ぐのは鈍感な先輩のせい

「あれ、そういえば桜子どこ行った? 小栗知らない?」

 泉水があたりを見渡す。

 今は日陰で休憩中だが、彼女の姿がどこにも見当たらない。

「コンビニ行くって言ってましたー」

 後輩の一人がそう言う。

 コンビニってことは、梅浦君と一緒か……

 あの二人、仲良く話せていたらいいけど……


 ***


「梅浦君、何買いに来たの?」

 私がそう言うと彼は分かりやすく眉間にしわを寄せてきた。

 梅浦朱里君、顔もよし、身長もよし、声もよし。
 恋愛映画の主人公にはふさわしいルックスを持っている。

 そして私自身も周りからの評価は高い。
 主人公とヒロインにふさわしい二人だ。

 まぁ、映画に限らずふさわしくなれると思っているのはまだ内緒。

「水っす」
「熱いもんねー、水二本買うの?」
「緋色さんのやつです」

 緋色さん、ねぇー……

 この子どうして小栗君に絡むのかしら。
 四月の新入生歓迎会から夏休みになるまで、活動は一切していなかったはず。

 二人は同じ教室で授業を受けていたりするのだろうか。
 接点が少なすぎるのにここまで彼に固執する理由はなんだろう。

 まぁ、私が嫌われてるってのもあるけどね。

「梅浦くんさー、お兄さんいる?」
「……あ?」

 明らかに彼の目つきが鋭くなっている。

 これは当たりかな……

「名前、雅也(まさや)だったりしない?」
「……あんた何で知ってんだよ」
「高校二年生のとき、4か月だけ雅也と付き合ったことあるんだよね。梅浦って苗字レアだし、それに顔がそっくりだから、もしかしたらそうかもって思ったの」

 彼は警戒した様子で何も言わない。
 彼の余裕のない表情を見て優越感に浸りながら笑顔で言う。

「雅也がヤンキーだから、君もそうなんでしょ。今の見た目は普通だから隠してるってこと?」
「……何が聞きたい? 雅の現状でも知りたいんか」

 いつもの私に対する適当な反応と違って、本気になっちゃってかわいいー。
 私はゆっくり首を横に振り、穏やかに笑う。

「そんなこと興味ないよ。私はただ確認したかっただけだよ。君が元ヤンなのかって」
「……確認してどうする? ばらしたらてめぇ殺すぞ」
「えやだ、こわーい。大丈夫ばらさないから」

 そう言って私は商品棚から麦茶を取り出す。

「君が変なことをしなければね」

 私は不敵に笑って、レジへ向かう。

 後ろで立ったまま動かない梅浦君、そうとう焦っただろうなー。

 この夏休みはしばらく退屈しなさそうだな。
 私は軽い足取りでコンビニから出ていく。

 雅也は興味本位で付き合った。

 ヤンキーだからちょっと怖かったのは本当の話。
 でもね、ちゃんと私を一途に愛してくれたのも本当。

 いろんな男と付き合ったけど、何気にあの時が一番楽しかったのかもしれない。

 真面目で優しい人はいくらでもいる。面白い人とか気が利ける人とかもたくさんいた。
 それでも私はやっぱり少し悪い男が好きだなぁ。

 いつも彼に振り回されて、私が追いかけたくなる男がいい。
 梅浦朱里君、君が適任なんだよ。

 もう少し待っててね、ちゃんと私を好きにさせるから。
 雅也の時みたいに……