『君が好きなんだ。本当は別れたくなんかない!』
『……でもさ、北海道と東京じゃ遠すぎるよ。私がずっと玲を好きでいる自信がない、だから別れてほしい』
『でもっ、俺は、成美がいないとダメなんだ。俺が不安にさせないし好きにさせ続けるから!』
『いくら玲が頑張っても、私は不安なの! このままだと玲をもっと傷つける気がするの』
物語中盤の玲と成美の言い合いのシーンを読み直す。
大学に進学するために北海道に引っ越す玲は、なんとか遠距離でも成美と付き合い続けようとするが成美はそれを拒否。
北海道の人と簡単に会えるわけがない。
そして好きでいる自信がないとはっきり伝える。
それでも玲は俺が不安にさせないと彼女に言うが、結局思いは届かず破局してしまった。
そして結局、成美の誕生日と出発日が重なり、なんとかプレゼントを直接届けようと会いに行くが、その道中で車に引かれて死んでしまう。
この脚本は報われい切ない話になっている。
俺はゆっくりスマホを閉じて、天井をぼんやり見つめる。
(やっぱり恋ってわっかんねー)
恋って漫画の中の話じゃないの?
たまに街中でカップルとか見かけるけど、あれって本物だったんだ。
それに梅浦君って男が好きなのか……?
まさか人生初めての告白が男子の後輩からだなんて、誰も想像していないだろう。
意外と同性が好きな人っているものなのかなー……
ヴーヴーヴーヴー
手に持っていたスマホから着信音が鳴る。
画面をのぞくと泉水からだった。
「もしもし?」
『もしもし小栗ー、今日の練習どこまでやった?』
今日は、梅浦君に告白されて、そのまま帰宅してしまった。
「二人が再会したところ」
『おっけおっけー、夏休み初日の撮影はそこで問題なさそうだね。今スケジュールまとめてるから、決まり次第送るね。梅浦君との練習はどうだった? 順調?』
「おー、まあね」
『よかったよかったー、あとは桜子と梅浦君が喧嘩しないかだけだねー。今のところ桜子からしたら梅浦君がクソガキすぎるから、そこらへんは私と小栗が一緒にサポートしていこうね』
「そうだねー、いつ喧嘩するかわからんよな」
今日の泉水はやたらと饒舌にだな。
もう夜の11時だから、夜中のテンションだろう。酒でも飲んでいるのかもしれない。
そういえば、泉水は恋をしたことがあるのだろうか。
「泉水ってさー、好きな人いる?」
「……ええええええ! え、なになに恋バナ! ついに小栗の口から恋って言葉が!! どうしちゃったの急に!!!」
右耳の鼓膜がつぶれそうなくらい、高くて大きな声だった。
今夜中だぞ、部屋の中で騒いでいて大丈夫なのだろうか。
それに俺がこの質問しただけで、そこまでテンションが上がるなんて不思議だな。
「別に、気になっただけ。で、恋してるの?」
「もーついに小栗と恋バナなんて、お母さん泣いちゃいそうだよ」
「……もういい、電話切る」
そう言うと焦った様子で『ダメダメダメダメ』と必死な声が聞こえる。
「いる、いるよ私、好きな人!」
「誰?」
「言うか馬鹿ぁ!」
本当に耳が壊れそう……
泉水と電話をするときは元気な時だけにしよう。
「告白しないの?」
「え、いや、まだ時期じゃないっていうか……振られそうだし怖いよぉ」
「告白って怖い?」
「怖いでしょ! 好きって一言だけで関係性が180度変わるかもしれないんだよ! 前みたいに仲良く話せなくなったら、それが一番怖いでしょ!」
そういうものか……
告白をした梅浦君は内心ビビっていたのだろうか。
たしかにあの瞬間、彼は緊張していた。
好きと伝えることは、簡単じゃないんだ。
「恋愛って難しいよなー」
「ほんとっ、そうだよ」
吐き捨てるようなセリフに少しだけ驚く。
「なんで怒ってんの?」
「知らないっ、じゃあもう切るね!」
泉水は一方的に電話を切ってしまった。
嵐のような電話だった。
一人の部屋の静けさが一層引き立つ。
泉水も恋しているんだー、普段見ている感じから全然そんな気配がしないけど、それって俺が鈍感だから気づけないのか……?
あー、もう今日は寝よう。頭使いすぎた……
もうすぐ撮影も始まるんだし、体を元気なまま維持しないとね。
体調なんて崩したら、格好悪いし……
***
「じゃあ、まずは桜子が向こうの電柱から歩いてきて、目線を梅浦君に向けて驚くところね。ここは回しで撮るから」
「はーい」
藤門が向こうへ歩いていく。
俺はカメラを構えて彼女を画面の中心にくるように調整する。
「小栗、画面見して」
「はい」
「んー、やっぱり回しじゃなくて最初は横から映そう」
「おっけー」
俺と泉水でカメラと三脚をもって移動する。
「俺はどこいたらいいっすか」
梅浦君が俺に向かって聞いてきたが
「梅浦君はそこにいてほしい! まだ画面には映らないけど桜子の視線の先にいてほしいから」
と泉水が声を張ってそう言った。
明らかに梅浦君の表情が曇りだす。
泉水はさっさと向こうまで歩いていく。
俺だけ不機嫌な梅浦君に気が付いているが、撮影は始まっているからこの子に構っている暇はない。
俺はすぐに泉水を追いかけてしまった。
そして撮影が始まる。
「じゃあ、『君が好きなんだ』をアップで映します。小栗」
泉水の指示に従って、梅浦君の顔を正面からカメラに映す。
カメラを通して見える彼の顔はやはり整っている。
綺麗な顔だなーとぼんやり考えていると、泉水のスタートの合図が聞こえる。
『君が好きだ』
彼のまっすぐな目をカメラでとらえる。
玲のセリフなのに、梅浦君から言われているみたいだ。
その時ふと、昨日のキスの感触を思い出してしまった。
その瞬間、顔の温度がぶわっと熱くなる。
「カットぉー!」
泉水の大きな声で弾かれたように動画を止める。
「見せて見せて」
俺は泉水に顔をなるべく見られないようにカメラを渡す。
みんなでカメラの動画を確認する輪から、少し距離のある場所に移動する。
なんだこれ、びっくりしたー。急に熱くなるなんて、本当に不思議。
「緋色さん」
輪から外れてきた梅浦君がゆっくりこちらに歩いてきた。
「動画、見ないんですか?」
「今はいいかな」
「……顔赤いっすよ」
「気温が高いからねー」
「ふーん」
興味がなさそうにそう呟くだけだった。
よかった顔の暑さにバレてない……
「二人とも、続きやるからこっち来てー! なんでそんな遠いところにいるのー?」
泉水が怒った様子で大きい声で言う。
「はーい」
俺は大きい声で返事をし、すぐに歩き出す。
梅浦君もすぐについてくる。
彼が隣に並んで立つと、耳元でこう囁いた。
「昨日のキス、思い出したでしょ」
耳から熱が再び帯び始める。
驚いて彼を目を見開いてまじまじと見てしまう。
彼は意地悪な表情で「またしますから」と笑ってそう言う。
なにあの子……
やばい、ただでさえ直射日光も浴びて熱いって言うのに、余計に体の体温が上がってしまう。
「小栗……あんた大丈夫? 顔真っ赤だよ」
「へ、あ、やっぱり?」
泉水が焦った様子ですぐに水筒を持ってくる。
「マジで大丈夫? いったん日陰で休んでて! 向こうの公園のベンチとか! カメラは私がやるから、あんたは休んでなさい!」
そう言って泉水がタオルと大量の塩分チャージを手渡してくる。
「ありがとまじで……」
恥ずかしさに加えて本当に熱のせいで体に力が入らない。
俺はゆっくり公園に行き、日陰のベンチに腰掛ける。
あー、緑の下って気持ちがいい。
ここだと風が少しだけ涼しい感じがする。
夏の撮影は本当に大変だな。熱さでカメラが壊れないように守らないといけないし、人の体調も管理しないといけない。
こんなに暑いのにみんな頑張っててすごいな。
泉水が指示して藤門と梅浦君がてきぱきと動いている。
なんだ梅浦君、ちゃんとアドリブも入れて演技できるじゃん。
あれだけ心配して損したかも。
彼の言う通り、カメラの配置や騒音を除けば、梅浦君と藤門は一発で決めて見せた。
二人とも演技がうまい。梅浦君もなんか初心者とは全く思えない。
恋愛映画を撮るってなって、ちゃんとうまく回るか心配だったけど、何とかなりそうで良かった……
***
「先輩? 起きてますか?」
「……梅浦君、あっ撮影は!」
気づいたら完全に寝てしまっていた。
慌てて立ち上がった瞬間、めまいがして体が不安定になる。
それをすかさず梅浦君が体を支えてくれた。
「あ、ありがとぉ」
「いえ、それより体調は大丈夫ですか?」
「うん、全然平気。俺って暑さに弱いから夏撮影のときは結構足引っ張りがちなんだよねー」
去年の撮影も大変だったなー。
一回だけ熱さにやられてしんどくて、友達の家の中でクーラーつけて休んだこともあったっけ。
今年はそうはなるまいって決めていたのに、やっぱり倒れちゃった。
「さっき余計なこといってすんません。俺がわんちゃんとどめ刺したかもしれないっす。先輩の体調の異変にもっと早く気が付けていたら……」
深々と頭を下げる彼の姿にさすがに焦る。
「いやいや、どう考えたって梅浦君悪くないでしょ。俺が暑さに弱いせいで、体調管理もまともにできなかったから。水分補給だって怠っていたし、もっと対策しておけばこんなにならなかった」
必死に伝えたが、彼は納得いかない様子で眉間にしわを寄せる。
「え、俺がキスがどうたらって言ったのも悪かったでしょ」
「それは関係なくない?」
そう言うと、彼は手に持っていたスマホを地面に落としてしまった。
「ちょっと! スマホ! あ、よかった。下が草だから割れなかったね。コンクリートだったらやばかったかもしれなーー」
「いや、俺のせいだろーがァァ!」
突如吠える梅浦君。この展開、前にもあったような気が……
やっぱり彼が何に怒っているのか全く分からず何も言えない。
「昨日のこと思い出して、熱くなっちゃんでしょーがァ! あんたは、照れたんですよ!!」
「え、俺が照れる? そんなことある?」
「あるんだよ!」
ぎゃんぎゃん吠える梅浦君に他の人も気が付いてこちらに走ってくる。
「なになに喧嘩? どうしたの?」
泉水が心配そうな様子でやってくるが、梅浦君は大きく舌打ちをしてどこかへ行こうとする。
「コンビニ行ってきます」
「あ、分かった」
梅浦君が見えなくなると、泉水が心配そうに俺のことを覗き込む。
「まじで大丈夫? 何言ったの? 撮影中に喧嘩とかやめてよね」
「いや、喧嘩ではないと思う……」
梅浦君、俺が照れたって言った? そんなことあり得るか?
だって、俺が照れるって……
あぁぁぁ……暑さで頭おかしくなってるのか。
照れるって、俺が梅浦君を意識してるみたいじゃんか。
そんなこと、絶対になりだろ……
『……でもさ、北海道と東京じゃ遠すぎるよ。私がずっと玲を好きでいる自信がない、だから別れてほしい』
『でもっ、俺は、成美がいないとダメなんだ。俺が不安にさせないし好きにさせ続けるから!』
『いくら玲が頑張っても、私は不安なの! このままだと玲をもっと傷つける気がするの』
物語中盤の玲と成美の言い合いのシーンを読み直す。
大学に進学するために北海道に引っ越す玲は、なんとか遠距離でも成美と付き合い続けようとするが成美はそれを拒否。
北海道の人と簡単に会えるわけがない。
そして好きでいる自信がないとはっきり伝える。
それでも玲は俺が不安にさせないと彼女に言うが、結局思いは届かず破局してしまった。
そして結局、成美の誕生日と出発日が重なり、なんとかプレゼントを直接届けようと会いに行くが、その道中で車に引かれて死んでしまう。
この脚本は報われい切ない話になっている。
俺はゆっくりスマホを閉じて、天井をぼんやり見つめる。
(やっぱり恋ってわっかんねー)
恋って漫画の中の話じゃないの?
たまに街中でカップルとか見かけるけど、あれって本物だったんだ。
それに梅浦君って男が好きなのか……?
まさか人生初めての告白が男子の後輩からだなんて、誰も想像していないだろう。
意外と同性が好きな人っているものなのかなー……
ヴーヴーヴーヴー
手に持っていたスマホから着信音が鳴る。
画面をのぞくと泉水からだった。
「もしもし?」
『もしもし小栗ー、今日の練習どこまでやった?』
今日は、梅浦君に告白されて、そのまま帰宅してしまった。
「二人が再会したところ」
『おっけおっけー、夏休み初日の撮影はそこで問題なさそうだね。今スケジュールまとめてるから、決まり次第送るね。梅浦君との練習はどうだった? 順調?』
「おー、まあね」
『よかったよかったー、あとは桜子と梅浦君が喧嘩しないかだけだねー。今のところ桜子からしたら梅浦君がクソガキすぎるから、そこらへんは私と小栗が一緒にサポートしていこうね』
「そうだねー、いつ喧嘩するかわからんよな」
今日の泉水はやたらと饒舌にだな。
もう夜の11時だから、夜中のテンションだろう。酒でも飲んでいるのかもしれない。
そういえば、泉水は恋をしたことがあるのだろうか。
「泉水ってさー、好きな人いる?」
「……ええええええ! え、なになに恋バナ! ついに小栗の口から恋って言葉が!! どうしちゃったの急に!!!」
右耳の鼓膜がつぶれそうなくらい、高くて大きな声だった。
今夜中だぞ、部屋の中で騒いでいて大丈夫なのだろうか。
それに俺がこの質問しただけで、そこまでテンションが上がるなんて不思議だな。
「別に、気になっただけ。で、恋してるの?」
「もーついに小栗と恋バナなんて、お母さん泣いちゃいそうだよ」
「……もういい、電話切る」
そう言うと焦った様子で『ダメダメダメダメ』と必死な声が聞こえる。
「いる、いるよ私、好きな人!」
「誰?」
「言うか馬鹿ぁ!」
本当に耳が壊れそう……
泉水と電話をするときは元気な時だけにしよう。
「告白しないの?」
「え、いや、まだ時期じゃないっていうか……振られそうだし怖いよぉ」
「告白って怖い?」
「怖いでしょ! 好きって一言だけで関係性が180度変わるかもしれないんだよ! 前みたいに仲良く話せなくなったら、それが一番怖いでしょ!」
そういうものか……
告白をした梅浦君は内心ビビっていたのだろうか。
たしかにあの瞬間、彼は緊張していた。
好きと伝えることは、簡単じゃないんだ。
「恋愛って難しいよなー」
「ほんとっ、そうだよ」
吐き捨てるようなセリフに少しだけ驚く。
「なんで怒ってんの?」
「知らないっ、じゃあもう切るね!」
泉水は一方的に電話を切ってしまった。
嵐のような電話だった。
一人の部屋の静けさが一層引き立つ。
泉水も恋しているんだー、普段見ている感じから全然そんな気配がしないけど、それって俺が鈍感だから気づけないのか……?
あー、もう今日は寝よう。頭使いすぎた……
もうすぐ撮影も始まるんだし、体を元気なまま維持しないとね。
体調なんて崩したら、格好悪いし……
***
「じゃあ、まずは桜子が向こうの電柱から歩いてきて、目線を梅浦君に向けて驚くところね。ここは回しで撮るから」
「はーい」
藤門が向こうへ歩いていく。
俺はカメラを構えて彼女を画面の中心にくるように調整する。
「小栗、画面見して」
「はい」
「んー、やっぱり回しじゃなくて最初は横から映そう」
「おっけー」
俺と泉水でカメラと三脚をもって移動する。
「俺はどこいたらいいっすか」
梅浦君が俺に向かって聞いてきたが
「梅浦君はそこにいてほしい! まだ画面には映らないけど桜子の視線の先にいてほしいから」
と泉水が声を張ってそう言った。
明らかに梅浦君の表情が曇りだす。
泉水はさっさと向こうまで歩いていく。
俺だけ不機嫌な梅浦君に気が付いているが、撮影は始まっているからこの子に構っている暇はない。
俺はすぐに泉水を追いかけてしまった。
そして撮影が始まる。
「じゃあ、『君が好きなんだ』をアップで映します。小栗」
泉水の指示に従って、梅浦君の顔を正面からカメラに映す。
カメラを通して見える彼の顔はやはり整っている。
綺麗な顔だなーとぼんやり考えていると、泉水のスタートの合図が聞こえる。
『君が好きだ』
彼のまっすぐな目をカメラでとらえる。
玲のセリフなのに、梅浦君から言われているみたいだ。
その時ふと、昨日のキスの感触を思い出してしまった。
その瞬間、顔の温度がぶわっと熱くなる。
「カットぉー!」
泉水の大きな声で弾かれたように動画を止める。
「見せて見せて」
俺は泉水に顔をなるべく見られないようにカメラを渡す。
みんなでカメラの動画を確認する輪から、少し距離のある場所に移動する。
なんだこれ、びっくりしたー。急に熱くなるなんて、本当に不思議。
「緋色さん」
輪から外れてきた梅浦君がゆっくりこちらに歩いてきた。
「動画、見ないんですか?」
「今はいいかな」
「……顔赤いっすよ」
「気温が高いからねー」
「ふーん」
興味がなさそうにそう呟くだけだった。
よかった顔の暑さにバレてない……
「二人とも、続きやるからこっち来てー! なんでそんな遠いところにいるのー?」
泉水が怒った様子で大きい声で言う。
「はーい」
俺は大きい声で返事をし、すぐに歩き出す。
梅浦君もすぐについてくる。
彼が隣に並んで立つと、耳元でこう囁いた。
「昨日のキス、思い出したでしょ」
耳から熱が再び帯び始める。
驚いて彼を目を見開いてまじまじと見てしまう。
彼は意地悪な表情で「またしますから」と笑ってそう言う。
なにあの子……
やばい、ただでさえ直射日光も浴びて熱いって言うのに、余計に体の体温が上がってしまう。
「小栗……あんた大丈夫? 顔真っ赤だよ」
「へ、あ、やっぱり?」
泉水が焦った様子ですぐに水筒を持ってくる。
「マジで大丈夫? いったん日陰で休んでて! 向こうの公園のベンチとか! カメラは私がやるから、あんたは休んでなさい!」
そう言って泉水がタオルと大量の塩分チャージを手渡してくる。
「ありがとまじで……」
恥ずかしさに加えて本当に熱のせいで体に力が入らない。
俺はゆっくり公園に行き、日陰のベンチに腰掛ける。
あー、緑の下って気持ちがいい。
ここだと風が少しだけ涼しい感じがする。
夏の撮影は本当に大変だな。熱さでカメラが壊れないように守らないといけないし、人の体調も管理しないといけない。
こんなに暑いのにみんな頑張っててすごいな。
泉水が指示して藤門と梅浦君がてきぱきと動いている。
なんだ梅浦君、ちゃんとアドリブも入れて演技できるじゃん。
あれだけ心配して損したかも。
彼の言う通り、カメラの配置や騒音を除けば、梅浦君と藤門は一発で決めて見せた。
二人とも演技がうまい。梅浦君もなんか初心者とは全く思えない。
恋愛映画を撮るってなって、ちゃんとうまく回るか心配だったけど、何とかなりそうで良かった……
***
「先輩? 起きてますか?」
「……梅浦君、あっ撮影は!」
気づいたら完全に寝てしまっていた。
慌てて立ち上がった瞬間、めまいがして体が不安定になる。
それをすかさず梅浦君が体を支えてくれた。
「あ、ありがとぉ」
「いえ、それより体調は大丈夫ですか?」
「うん、全然平気。俺って暑さに弱いから夏撮影のときは結構足引っ張りがちなんだよねー」
去年の撮影も大変だったなー。
一回だけ熱さにやられてしんどくて、友達の家の中でクーラーつけて休んだこともあったっけ。
今年はそうはなるまいって決めていたのに、やっぱり倒れちゃった。
「さっき余計なこといってすんません。俺がわんちゃんとどめ刺したかもしれないっす。先輩の体調の異変にもっと早く気が付けていたら……」
深々と頭を下げる彼の姿にさすがに焦る。
「いやいや、どう考えたって梅浦君悪くないでしょ。俺が暑さに弱いせいで、体調管理もまともにできなかったから。水分補給だって怠っていたし、もっと対策しておけばこんなにならなかった」
必死に伝えたが、彼は納得いかない様子で眉間にしわを寄せる。
「え、俺がキスがどうたらって言ったのも悪かったでしょ」
「それは関係なくない?」
そう言うと、彼は手に持っていたスマホを地面に落としてしまった。
「ちょっと! スマホ! あ、よかった。下が草だから割れなかったね。コンクリートだったらやばかったかもしれなーー」
「いや、俺のせいだろーがァァ!」
突如吠える梅浦君。この展開、前にもあったような気が……
やっぱり彼が何に怒っているのか全く分からず何も言えない。
「昨日のこと思い出して、熱くなっちゃんでしょーがァ! あんたは、照れたんですよ!!」
「え、俺が照れる? そんなことある?」
「あるんだよ!」
ぎゃんぎゃん吠える梅浦君に他の人も気が付いてこちらに走ってくる。
「なになに喧嘩? どうしたの?」
泉水が心配そうな様子でやってくるが、梅浦君は大きく舌打ちをしてどこかへ行こうとする。
「コンビニ行ってきます」
「あ、分かった」
梅浦君が見えなくなると、泉水が心配そうに俺のことを覗き込む。
「まじで大丈夫? 何言ったの? 撮影中に喧嘩とかやめてよね」
「いや、喧嘩ではないと思う……」
梅浦君、俺が照れたって言った? そんなことあり得るか?
だって、俺が照れるって……
あぁぁぁ……暑さで頭おかしくなってるのか。
照れるって、俺が梅浦君を意識してるみたいじゃんか。
そんなこと、絶対になりだろ……


