光が滲んでいた。感覚としては、まるで海の奥底からゆっくりと浮上してくるみたい。やがてその光に輪郭が生まれて、もう少しではっきりしそうというとき──咲也は、まぶたをゆっくりと開いた。
白い天井。消毒液の匂い。静かな機械音。……そこは、病室だった。「夢から醒めた」というよりは、「これまで意識を失っていた」という方が正しいか。さっき見ていた未散の記憶は、未散の額にキスした際、痛みとともにこちらへ流入してきたもののようだ。
「…………」
視線を動かすと、枕元にはあのスーパーボールが置かれている。夏祭りの日、射的で取って未散に渡したものだ。ラメとグリッターが派手すぎて、この空間にはあまり似合わない。咲也はまた視線を動かした。
「…………」
ベッドのそばで、未散が眠っている。椅子に座ったまま、上半身が少し傾いていた。固く握りしめた手は咲也の布団の上に置かれていて、寝具にはしわが寄っている。
咲也は一度目を瞬くと、そっと手を伸ばした。シーツに着いていた肩を起こし、未散の指先にちょんと触れる。その瞬間、未散の体が小さく揺れた。
「……咲也?」
眠気の残る声、重たげな睫毛。しかし次の瞬間、未散の目は大きく見開かれた。
「ッ……咲也……!」
未散は勢いよく身を乗り出す。その衝撃のせいか、眦からはぼとぼとと大粒の涙が一気に溢れ、頬を伝った。しかし未散は拭うこともせず、ただ咲也の顔を見つめる。
「大丈夫? 痛いところは? 気持ち悪くない!?」
声が震えていた。必死なせいかところどころかすれていて、安堵と恐怖が混じったような声だった。よほど切羽詰まっているのか、顔は瞬く間に赤みを帯び、呼吸も心なしか上がっているように感じられる。
咲也はそっと息を吐くと、安心させるように小さく首を振った。
「……大丈夫。どこも痛くないよ。気持ち悪くもない。いつも通り」
微笑みを浮かべる咲也に、未散は胸に手を当てると、その場で崩れ落ちそうなほど安心した表情を見せた。端正な顔立ちをくしゃりと歪め、目映いものを見たかのように目を細める。
「……心配したんだからな」
奥底から絞り出すような声で、未散が言う。その声色はこちらを案じるとともに、どこか怒っているようにも聞こえた。
「事故があったとき、俺は間違いなく咲也をかばったはずだった。なのに、気づいたときには、咲也がぼろぼろになってた」
「…………」
「あのとき、咲也は俺にキスした。それで俺が受けたはずの痛みを、全部引き受けた。……違う?」
未散の推測は正しかった。咲也が肯定に頷けば、未散はぎゅっと唇を噛んだ。
「そんなこと、望んでなかった……。俺は咲也を守りたかった。咲也に苦しい思いをしてほしくなかったんだ。だからかばったのに……結果、こんなになって」
すんと、未散は洟を啜る。不甲斐なさから視線をそらし、俯いてしまう未散の姿に、咲也は「心配した」という言葉の重さを痛感した。
未散はきっと、咲也のことをたくさん考えていたのだろう。咲也を事故からかばったときも、咲也が痛みを引き受けたと気づいたときも、そして咲也が目覚めるまでの間も、ずっと考え続けてくれていた。不安の中で、ずっと気にかけてくれていた。
「咲也に何かあったら……俺は……!」
歯噛みしたかのように、未散の声がかすれる。咲也はそこで一拍置くと「……未散」と名前を呼んだ。
「僕も……同じだったよ」
顔を上げた未散が目を瞬く。
「未散が僕をかばったのに気づいたとき……『なんで』って思った」
未散の言葉を借りるなら、「そんなこと望んでなかった」ということかもしれない。「苦しい思いをしてほしくなかった」ということかもしれない。
「……でも、」と咲也は続ける。
「でも、それと一緒に……『助けなきゃ』って思った」
未散を「守りたい」と思ったのだ。
「それは……未散と同じ気持ちだったから」
咲也は躊躇わず、はっきりと言葉にする。
「未散のことが……好きだから」
「……っ」
未散の荒い息遣いが和らぐ。涙の跡を頬に残したまま、茫然と咲也を見つめるその瞳は、ずっと咲也を真摯に想い続けてきた人の瞳だった。
咲也は頬を綻ばせ、そっと未散の手を握る。
「未散が僕を守ってくれた気持ちも、僕が未散を守りたいと思った気持ちも、どっちも同じだよ。だから……ありがとう、未散。すごく嬉しかった」
守ってくれたこと、心配してくれたこと、大切にしてくれたこと──未散が自分のためにしてくれたすべてに、咲也は感謝を伝える。すると咲也の握る手を、まるで包み込むかのように未散の指が絡み取った。その指先は震えているのに、手離す気配はまったくない。
「俺も。……ありがとう、咲也。無事に助かって、本当に良かった」
先とは打って変わって、穏やかな声が届く。咲也がうんと頷けば、未散の顔からも笑みがこぼれて──しばらくの間、二人は手を繋ぎながらずっと、二人だけの時間を分かち合っていた。まるで、お互いの存在を確かめるみたいに。……もう二度と、離れてしまわないように。
「……ひとつだけ聞いていい?」
「いいよ」
未散の問いに、咲也は頷く。未散は何度か口を開けたり、閉じたりして、やがて胸の奥に溜め込んでいたものを、ゆっくりと吐き出した。
「なんで、別れようなんて言ったの?」
咲也の前髪が揺れる。その問いは、ずっと未散が尋ねられなかったものだ。そして咲也自身も、ずっと答えられなかったものだった。
「……本当は、ずっと付き合っていたかったよ」
咲也の言葉に、未散の指がぴくりと揺れる。
「またデートしたかったし……遊園地にも行きたかったし……なんなら、キスだってしたかった」
「……え?」
動揺の声が漏れ聞こえる。未散のその反応には驚きと嬉しさが混じっており、あの日の告白のときと同じ狼狽え方をしていた。
「じゃあ……なんで」
咲也はこれまで何度思ったか分からないことを口にする。自分なんかが恋人でいいのか、ずっと不安だったこと。……未散はたくさんの人に愛されて、僕だけのものにはならないと思っていた。
「……だから、別れようと思った」
今にして思うのは、そのどれもが幼稚で、自分勝手なものだということ。端的に言えば、それは咲也がずっと隠していた嫉妬そのものだからだ。
「未散には、ひどいことを言ったと思ってる。僕がわがままだったんだ。本当に、それだけ」
未散は黙ってそれを聞いていた。呆れられたのかと思ったが、その眉は深く考え込むような鋭利を孕んでいた。そうしてひとしきり思案すると、程なく「……なら、モデルなんてやめる」と突飛もないことを言い出す。咲也は思わず「えっ……!?」と顔を上げた。
「だって俺がモデル続けてたの、咲也が『もっとかっこいい未散の姿が見たい』って言ったからだよ」
「そ、それは……」
さっき知った、ということはとりあえず黙っておく。しかし未散は真剣だった。冗談ではなく、本気で言っている目だった。
「咲也が俺のものにならないなら……そんな仕事、別にどうでもいい」
「ちょ、ちょっと待って!」
咲也は慌てて未散の手を握り直した。それが嬉しかったのか、未散は愛らしく顔を赤らめるが、一方の咲也はそれどころではない。うんうんと唸っては、「そういうことじゃなくて……」と言わんとすることをはっきりさせようとした。
「未散には、たくさんの人に愛されてほしいんだよ。それも僕の本心」
なぜなら未散にはいっぱい良いところがある。姿が美しいのみならず、まっすぐで、優しくて、一途だ。そういうところすべてをひっくるめて、綺麗な人なのだ。だからこそ愛されてほしい。みんなにも、未散のその素敵なところを知ってほしい。
「でも、嫉妬しちゃうのも本当。だから僕のわがままがいけないんだよ。僕が我慢すればいいだけなんだ」
今はまだ難しいかもしれない。けれど未散には、この先もずっと輝く道を歩いていってほしいし、それを応援している。そのために、咲也は腹をくくるべきだった。それだけの話だった。が、未散はなぜか、咲也の中身を覗き込むみたいに凝視してくる。そうして、ゆっくり口を開いた。
「……じゃあ、咲也が不安にならないように、俺が全部ちゃんとする」
「え? ぜ、全部……? ちゃんと……?」
「うん」
未散は繋いだ咲也の手を掲げると、その甲にそっと唇を落とした。誠実に、粛々と、誓いを立てるかのように。
「モデルの仕事は続ける。咲也に俺のかっこいいところ、見ていてほしいから。でも、咲也を不安にさせるようなことは絶対にしない」
「……へ?」
「咲也が嫉妬するなら、ちゃんと言ってほしい。そのたびに俺が安心させる。『好き』って言うし、デートも行こ。キスも、もっといっぱいしたい」
「……え、ええっ!?」
咲也はぶわりと頬を染める。未散の言葉を最後まで理解した瞬間、胸が大袈裟くらい高鳴れば、思わず言葉を失ってしまった。……ああだって、こんなとき、いったいどう返せばいいのだろう?
「あ、」やら「う、」やらぶつ切りの音を並べて、ロボットみたいにカクカク動いている咲也の隙を、未散は決して逃さない。
「だから、」
「……っ!」
息を飲む咲也の前で、未散は少し照れたように目を伏せる。
「だから……もう一回、俺と付き合って」
粉糖をまぶしたみたいな、甘い声。それはこれまでの告白同様、すごく真剣で、そしてとっても優しかった。
「……うん。僕も……未散と、もう一度付き合いたい」
咲也の答えに、未散はその顔を嬉しそうに、心底幸せそうにほころばせる。
「やった。……やっと、だ」
未散は繋いだ手を引いて、咲也をぎゅっと抱きしめる。体重がかかって、少し重い。けれどそれくらいが、咲也にはちょうど良かった。
白い天井。消毒液の匂い。静かな機械音。……そこは、病室だった。「夢から醒めた」というよりは、「これまで意識を失っていた」という方が正しいか。さっき見ていた未散の記憶は、未散の額にキスした際、痛みとともにこちらへ流入してきたもののようだ。
「…………」
視線を動かすと、枕元にはあのスーパーボールが置かれている。夏祭りの日、射的で取って未散に渡したものだ。ラメとグリッターが派手すぎて、この空間にはあまり似合わない。咲也はまた視線を動かした。
「…………」
ベッドのそばで、未散が眠っている。椅子に座ったまま、上半身が少し傾いていた。固く握りしめた手は咲也の布団の上に置かれていて、寝具にはしわが寄っている。
咲也は一度目を瞬くと、そっと手を伸ばした。シーツに着いていた肩を起こし、未散の指先にちょんと触れる。その瞬間、未散の体が小さく揺れた。
「……咲也?」
眠気の残る声、重たげな睫毛。しかし次の瞬間、未散の目は大きく見開かれた。
「ッ……咲也……!」
未散は勢いよく身を乗り出す。その衝撃のせいか、眦からはぼとぼとと大粒の涙が一気に溢れ、頬を伝った。しかし未散は拭うこともせず、ただ咲也の顔を見つめる。
「大丈夫? 痛いところは? 気持ち悪くない!?」
声が震えていた。必死なせいかところどころかすれていて、安堵と恐怖が混じったような声だった。よほど切羽詰まっているのか、顔は瞬く間に赤みを帯び、呼吸も心なしか上がっているように感じられる。
咲也はそっと息を吐くと、安心させるように小さく首を振った。
「……大丈夫。どこも痛くないよ。気持ち悪くもない。いつも通り」
微笑みを浮かべる咲也に、未散は胸に手を当てると、その場で崩れ落ちそうなほど安心した表情を見せた。端正な顔立ちをくしゃりと歪め、目映いものを見たかのように目を細める。
「……心配したんだからな」
奥底から絞り出すような声で、未散が言う。その声色はこちらを案じるとともに、どこか怒っているようにも聞こえた。
「事故があったとき、俺は間違いなく咲也をかばったはずだった。なのに、気づいたときには、咲也がぼろぼろになってた」
「…………」
「あのとき、咲也は俺にキスした。それで俺が受けたはずの痛みを、全部引き受けた。……違う?」
未散の推測は正しかった。咲也が肯定に頷けば、未散はぎゅっと唇を噛んだ。
「そんなこと、望んでなかった……。俺は咲也を守りたかった。咲也に苦しい思いをしてほしくなかったんだ。だからかばったのに……結果、こんなになって」
すんと、未散は洟を啜る。不甲斐なさから視線をそらし、俯いてしまう未散の姿に、咲也は「心配した」という言葉の重さを痛感した。
未散はきっと、咲也のことをたくさん考えていたのだろう。咲也を事故からかばったときも、咲也が痛みを引き受けたと気づいたときも、そして咲也が目覚めるまでの間も、ずっと考え続けてくれていた。不安の中で、ずっと気にかけてくれていた。
「咲也に何かあったら……俺は……!」
歯噛みしたかのように、未散の声がかすれる。咲也はそこで一拍置くと「……未散」と名前を呼んだ。
「僕も……同じだったよ」
顔を上げた未散が目を瞬く。
「未散が僕をかばったのに気づいたとき……『なんで』って思った」
未散の言葉を借りるなら、「そんなこと望んでなかった」ということかもしれない。「苦しい思いをしてほしくなかった」ということかもしれない。
「……でも、」と咲也は続ける。
「でも、それと一緒に……『助けなきゃ』って思った」
未散を「守りたい」と思ったのだ。
「それは……未散と同じ気持ちだったから」
咲也は躊躇わず、はっきりと言葉にする。
「未散のことが……好きだから」
「……っ」
未散の荒い息遣いが和らぐ。涙の跡を頬に残したまま、茫然と咲也を見つめるその瞳は、ずっと咲也を真摯に想い続けてきた人の瞳だった。
咲也は頬を綻ばせ、そっと未散の手を握る。
「未散が僕を守ってくれた気持ちも、僕が未散を守りたいと思った気持ちも、どっちも同じだよ。だから……ありがとう、未散。すごく嬉しかった」
守ってくれたこと、心配してくれたこと、大切にしてくれたこと──未散が自分のためにしてくれたすべてに、咲也は感謝を伝える。すると咲也の握る手を、まるで包み込むかのように未散の指が絡み取った。その指先は震えているのに、手離す気配はまったくない。
「俺も。……ありがとう、咲也。無事に助かって、本当に良かった」
先とは打って変わって、穏やかな声が届く。咲也がうんと頷けば、未散の顔からも笑みがこぼれて──しばらくの間、二人は手を繋ぎながらずっと、二人だけの時間を分かち合っていた。まるで、お互いの存在を確かめるみたいに。……もう二度と、離れてしまわないように。
「……ひとつだけ聞いていい?」
「いいよ」
未散の問いに、咲也は頷く。未散は何度か口を開けたり、閉じたりして、やがて胸の奥に溜め込んでいたものを、ゆっくりと吐き出した。
「なんで、別れようなんて言ったの?」
咲也の前髪が揺れる。その問いは、ずっと未散が尋ねられなかったものだ。そして咲也自身も、ずっと答えられなかったものだった。
「……本当は、ずっと付き合っていたかったよ」
咲也の言葉に、未散の指がぴくりと揺れる。
「またデートしたかったし……遊園地にも行きたかったし……なんなら、キスだってしたかった」
「……え?」
動揺の声が漏れ聞こえる。未散のその反応には驚きと嬉しさが混じっており、あの日の告白のときと同じ狼狽え方をしていた。
「じゃあ……なんで」
咲也はこれまで何度思ったか分からないことを口にする。自分なんかが恋人でいいのか、ずっと不安だったこと。……未散はたくさんの人に愛されて、僕だけのものにはならないと思っていた。
「……だから、別れようと思った」
今にして思うのは、そのどれもが幼稚で、自分勝手なものだということ。端的に言えば、それは咲也がずっと隠していた嫉妬そのものだからだ。
「未散には、ひどいことを言ったと思ってる。僕がわがままだったんだ。本当に、それだけ」
未散は黙ってそれを聞いていた。呆れられたのかと思ったが、その眉は深く考え込むような鋭利を孕んでいた。そうしてひとしきり思案すると、程なく「……なら、モデルなんてやめる」と突飛もないことを言い出す。咲也は思わず「えっ……!?」と顔を上げた。
「だって俺がモデル続けてたの、咲也が『もっとかっこいい未散の姿が見たい』って言ったからだよ」
「そ、それは……」
さっき知った、ということはとりあえず黙っておく。しかし未散は真剣だった。冗談ではなく、本気で言っている目だった。
「咲也が俺のものにならないなら……そんな仕事、別にどうでもいい」
「ちょ、ちょっと待って!」
咲也は慌てて未散の手を握り直した。それが嬉しかったのか、未散は愛らしく顔を赤らめるが、一方の咲也はそれどころではない。うんうんと唸っては、「そういうことじゃなくて……」と言わんとすることをはっきりさせようとした。
「未散には、たくさんの人に愛されてほしいんだよ。それも僕の本心」
なぜなら未散にはいっぱい良いところがある。姿が美しいのみならず、まっすぐで、優しくて、一途だ。そういうところすべてをひっくるめて、綺麗な人なのだ。だからこそ愛されてほしい。みんなにも、未散のその素敵なところを知ってほしい。
「でも、嫉妬しちゃうのも本当。だから僕のわがままがいけないんだよ。僕が我慢すればいいだけなんだ」
今はまだ難しいかもしれない。けれど未散には、この先もずっと輝く道を歩いていってほしいし、それを応援している。そのために、咲也は腹をくくるべきだった。それだけの話だった。が、未散はなぜか、咲也の中身を覗き込むみたいに凝視してくる。そうして、ゆっくり口を開いた。
「……じゃあ、咲也が不安にならないように、俺が全部ちゃんとする」
「え? ぜ、全部……? ちゃんと……?」
「うん」
未散は繋いだ咲也の手を掲げると、その甲にそっと唇を落とした。誠実に、粛々と、誓いを立てるかのように。
「モデルの仕事は続ける。咲也に俺のかっこいいところ、見ていてほしいから。でも、咲也を不安にさせるようなことは絶対にしない」
「……へ?」
「咲也が嫉妬するなら、ちゃんと言ってほしい。そのたびに俺が安心させる。『好き』って言うし、デートも行こ。キスも、もっといっぱいしたい」
「……え、ええっ!?」
咲也はぶわりと頬を染める。未散の言葉を最後まで理解した瞬間、胸が大袈裟くらい高鳴れば、思わず言葉を失ってしまった。……ああだって、こんなとき、いったいどう返せばいいのだろう?
「あ、」やら「う、」やらぶつ切りの音を並べて、ロボットみたいにカクカク動いている咲也の隙を、未散は決して逃さない。
「だから、」
「……っ!」
息を飲む咲也の前で、未散は少し照れたように目を伏せる。
「だから……もう一回、俺と付き合って」
粉糖をまぶしたみたいな、甘い声。それはこれまでの告白同様、すごく真剣で、そしてとっても優しかった。
「……うん。僕も……未散と、もう一度付き合いたい」
咲也の答えに、未散はその顔を嬉しそうに、心底幸せそうにほころばせる。
「やった。……やっと、だ」
未散は繋いだ手を引いて、咲也をぎゅっと抱きしめる。体重がかかって、少し重い。けれどそれくらいが、咲也にはちょうど良かった。


