灰色の空間で、声が響く。二つの異なった声。二つの影が並んでいた。
「首尾よくいったようだね?」
「まぁまぁね。っていうか、何その婆さん姿。そっちのイメージはそれだったの? 気の毒ぅ」
「しかたないさ。怪しげな壺をもって現れるのはこういう姿をしてるっていうのがあの男のイメージだったんだから」
「あたしは巨乳な美少女だったから、まだマシね。趣味がいいとはいえないけど」
「まったくだね。ところで味はどうだった?」
「まぁ、予想通り貧弱な願い事ばっかりで、ちゃちぃたらなかったわ。物欲だけは人並み以上。願い事の内容は人並み以下。最近の典型ね。具体性がこれっぽっちもなくて、噛み応えがないったら」
両肩をすくめてため息をついてみせたのは、踊り子姿の少女。
「近頃のニンゲンときたら、ちゃちな物欲ばかりがうなぎのぼりで、夢の質は下がりっぱなしだ。ろくなもんじゃないね」
腰を叩きつつ毒づいたのは、、腰の曲がった老婆。
「とはいえ、あたし達の食料なんだものねぇ、『夢』とか『欲』がさ。粗食に耐えなきゃならないわね、しばらくは」
「しばらく、ねぇ? ずっとかもしれないよ?」
「ちょっとぉ、不吉なこと言わないでよねぇ。――ほら、次はあんたの番よ。ちゃっちゃと壺に入ってよ」
「はいはい。ああ、せめてもうちょっと食べ応えのある『夢』が食べたいねぇ」
「同感。痩せこけた夢魔なんて、かっこ悪いったらないわ」
「質より量でいくしかないね」
「あ~あ、たまにはうんと凶悪な『欲』とか誇大妄想的な『夢』が食べたいわぁ」
「しかしそういう夢の持ち主は、あたしたちにはちょっと太刀打ちできないからねぇ」
「庶民派の夢魔だもんね、あたしたち。あーやだなぁ、さっき食べた子の影響かしら、この卑小っぷり」
「さぁさ、愚痴はそれくらいにして。次いくよ、次」
「次は、どんな願い事が聞けるのかしらね。せめてもうちょっとマシな願いが聞きたいもんだわ」
僕は茫然と、声を聞いていた。
「あんたは本当に何もしていない。何もせず、いつでも文句ばかりだ」
嘲笑が、聞こえた。
「何をどうしたいのかも分からないから、『願い事』もあやふやなものしか出てこないのよ」
それらは女の声だった。年老いた女の声と、若い女の声。
「だから『欲』なんかなくなっちまったほうがいいのさ。何かを『願う』ことがなくなるからね」
「そうそう。それもあなたの『願い事』のひとつね。楽になりたいっていう。ま、せめてそれくらいは『叶えて』あげるわ」
「特別サービスさ」
クスクスと笑う声が、 肉体を嬲っていく。
僕にはもう…どうすることもできなかった。
遠くから聞こえてきた声は次第に薄れ、消えた。
食べかすとして捨て置かれた、『僕』。
ああ、そうだ。
欲の無くなった僕は、素晴らしく純粋な『僕』に違いない。
今の僕はきっと最高にツいてる。
何にも心を煩わされることがなく、何も望まず、願わず、呪いもしない。
ただ――、生きたいという「欲」すら無くなってしまったけれど。



