壺 あるいは魔法のランプでも


 その日の僕は最高にツいてなかった。がっくり、しょんぼり、という形容がまさにぴったりだ。

 思い返せば今朝のこと。
 アパートを出たところで野良ネコの糞を踏んづけたのが、皮切りだ。
 

 会社には遅刻する(エレベーターの故障という不慮の事故でだ!)、少ししか携わっていない仕事のミスを理不尽に押し付けられ、チームリーダーだけならともかく、周りにいたその他大勢にもどやされまくった。おかげで自分の仕事がまったく捗らなくて、またしても残業だ。
 むしゃくしゃしてたから飲み屋に行ったら、そこで学生の頃さんざん僕のことをいじめていたヤツと遭遇し、「お前の物は俺の物。俺の物はとーぜん俺の物だぜぇ」と、当然のごとく、たかられた。

 挙句! その帰り道、付き合っている彼女の浮気の現場を目撃するという、不運極まりない出来事まで僕を待っていた。
 彼女が、男と腕を組んで歩いてる先にはホテルがあるっていう、これでもかというシチュエーションで、だ。
 僕は唖然としてつったって、言葉も出なかった。
 そして、彼女とばっちり目が合ってしまった。
 彼女は、「しまった」という顔をすぐに隠すと、おびえたふりをして男に縋りついた。僕がまるでストーカーか何かのような、彼女の態度。

 全てが分かるまで、さほど時間はかからなかった。
 パニック状態の脳みそをさらにフル回転させ、はじき出された回答は一つしかなかった。
 食事に連れて行って、物を贈って、迎えにいってあげたり送ってあげたり、いろいろしてきたけれど、それは結局全部――………

 彼女に掴みかかり喚き散らすような、そんな滑稽な真似ができるほど僕は愚かじゃない。
 腰抜けのチキン野郎と言うなら言えよ。もう、どうだっていい。

 心底、どうでもいい気分だった。