群青イマヂネリ〜バーチャル・イクスペリエンス〜


 遊園地の入口に立った。

 大きな門には、青い薔薇のアーチ。

 その向こうには、色とりどりのアトラクションが並んでいる。

 観覧車。

 メリーゴーラウンド。

 ジェットコースター。

 そして、空の上を走るモノレール。

「……すごい」

 私は思わず呟いた。

「結、こういうところ好き?」

「うん。だって……」

 私は遊園地の奥を見つめる。

「こういう場所、ずっと憧れてたから」

「じゃあ、今日は全部回ろう」

「全部?」

「うん」

 シュウちゃんは笑った。

「ジュエル探しも忘れないようにしないとね」

「もちろん!」

 そう言ったものの。

 私たちは最初の一時間を、ほとんど遊ぶことに使ってしまった。

 メリーゴーラウンドに乗って。

 ゲームをして。

 お菓子を食べて。

 観覧車にも乗った。

「シュウちゃん、見て!」

 観覧車の一番上。

 窓の外には、遊園地全体が見渡せた。

 街の向こうには海。

 海の向こうには、青い空。

 そして遠くには――。

「……あれ?」

 私は目を細めた。

「あのお城」

「うん」

 シュウちゃんも見ている。

 最初に列車から見えた、あの大きな城。

「さっきより近く見えるね」

「行ってみる?」

「でも、どうやって?」

 その瞬間。

 観覧車のゴンドラが、突然止まった。

「え?」

 次の瞬間、窓の外に文字が浮かび上がる。

――第二のジュエルへの道。

「またミッション?」

「みたいだね」

 文字の下に、地図が現れた。

 そこには遊園地から城までの道が描かれている。

 ただし。

 途中には大きな青い薔薇のマークが三つ。

「三つのチェックポイント……」

「全部通らないといけないみたい」

 私はため息をついた。

「せっかくデートなのに」

「じゃあ、デートしながら探そう」

「……それならいいかも」

 ゴンドラが再び動き出した。

 地面に降りると、私たちは最初のチェックポイントへ向かった。

 そこにあったのは、小さな写真館だった。

「写真館?」

「入ってみよう」

 中には誰もいない。

 でも、壁一面に写真が飾られていた。

 その中に――。

「あっ!」

 私は一枚の写真を見つけた。

 幼い頃の私。

 そして、その隣にシュウちゃん。

「また……」

 昨日の写真と同じ二人。

「これって、本当に私たち?」

「そうだと思う」

「でも、どうして覚えてないんだろう」

 私は写真に触れた。

 すると、写真が青く光った。

『思い出を忘れてしまった理由を知りたいですか?』

 文字が浮かぶ。

「……知りたい」

 私は答えた。

 けれど。

 文字はすぐに消えた。

『今はまだ、早いでしょう』

「なんで!」

 思わず声が大きくなる。

 すると、シュウちゃんが私の肩に手を置いた。

「結」

「だって……」

「大丈夫」

「何が?」

「きっと、最後には分かるよ」

 私はシュウちゃんを見る。

「……本当に?」

「うん」

 その言葉を聞いて、少しだけ安心した。

 写真館を出る。

 次のチェックポイントは、噴水広場だった。

 中央には巨大な青い薔薇の噴水。

 その前に、小さな箱が置かれている。

 箱にはこう書かれていた。

『二人の心が同じなら開きます』

「どうするの?」

「二人で同じことを考えればいいんじゃない?」

「そんなの分かるの?」

「やってみよう」

 私たちは箱に手を置いた。

「せーの」

「青い薔薇」

 二人同時に答えた。

 カチッ。

 箱が開いた。

「やった!」

 中には、小さな青い鍵。

「これが次の鍵かな」

 シュウちゃんが鍵を持ち上げる。

 すると、噴水の水が一瞬だけ止まった。

 その奥に、細い階段が現れる。

「こんなところに……」

 階段を下りていく。

 地下には小さな部屋があった。

 部屋の中央には、一つの宝箱。

 鍵を差し込む。

 カチャリ。

 宝箱が開いた。

 けれど、中には何も入っていない。

「……空っぽ?」

 私は首を傾げた。

 すると、壁に文字が浮かんだ。

――第二のジュエルは、まだここにはありません。

「ええっ?」

――あなたたちが、本当に「デート」を終えたとき。

――第二のジュエルは姿を現します。

「デートを終えたとき?」

 私はシュウちゃんを見る。

「つまり……」

「まだデートの途中ってことだね」

「……そっか」

 私は少し笑った。

 なんだか不思議だった。

 ジュエルを集めるために始めたはずなのに。

 いつの間にか、私はシュウちゃんと過ごす時間そのものが楽しくなっていた。

 地下室を出る。

 すると、外はすっかり夕方になっていた。

 空がオレンジ色に染まっている。

「もうこんな時間……」

「次は?」

「次?」

「まだ帰らないよ」

 シュウちゃんが指を差す。

 その先には、大きな青い門。

 門の向こうには――。

 夜空に浮かぶ巨大な城。

「……あのお城」

「行こう」

 シュウちゃんが手を差し出した。

 私は少しだけ迷ってから、その手を取った。

「うん」

 二人で歩き始める。

 その瞬間。

 遠くから花火が上がった。

 青い薔薇の形。

 一輪。

 二輪。

 三輪。

 そして最後に――。

 巨大な青い薔薇が夜空いっぱいに咲いた。

「きれい……」

 私が呟くと。

「結」

「なに?」

「この先に、きっと何かあるよ」

「……うん」

 私は城を見つめた。

 その城の最上階。

 一つの窓だけが、青く輝いている。

 まるで私たちを待っているように。

 そして、その窓の奥には――。

 一枚のガラスでできた、小さなティアラが置かれていた。