群青イマヂネリ〜バーチャル・イクスペリエンス〜

 青い街を歩き始めてから、どれくらい経ったのだろう。

 空には太陽がない。

 なのに、街は明るい。

 建物の窓には星が浮かび、道路には淡い青色の光が流れている。

「ねえ、シュウちゃん」

「ん?」

「この世界って、本当に何でもあるの?」

「たぶんね」

「じゃあ……」

 私は目の前に並んだお店を見つめた。

 洋服屋さん。
 アクセサリーショップ。
 ケーキ屋さん。
 ゲームセンター。

 そして、その一番奥には――。

「遊園地?」

「みたいだね」

 大きな門の向こうに、色とりどりのアトラクションが並んでいる。

 でも、どこか普通の遊園地とは違った。

 観覧車は空に浮かんでいるし、ジェットコースターは雲の上を走っている。

「すごい……」

「行ってみる?」

「でも、ジュエルを探さないと」

「そうだけど」

 シュウちゃんが少し笑った。

「せっかく二人で来たんだから、少しくらい遊んでもいいんじゃない?」

「二人で……」

 その言葉に、なぜか胸がどきっとした。

「な、何?」

「いや?」

「嫌じゃないけど……」

「じゃあ決まり」

 シュウちゃんは私の手を取った。

「ちょっと待って!」

「何?」

「手……」

「ああ」

 シュウちゃんは手を離そうとした。

 私は反射的に、その手を握り直した。

「……別に、いいけど」

「うん」

 シュウちゃんが笑った。

 その笑顔を見ると、また少しだけ恥ずかしくなった。

 遊園地の入口をくぐる。

 すると、案内板が目の前に現れた。

『本日のおすすめ』

 その下には、いくつものアトラクション。

 その中に、一つだけ青い文字で表示されているものがあった。

『ブルーローズ・トレイン』

「……青い薔薇」

 私とシュウちゃんは顔を見合わせた。

「行ってみよう」

「うん!」

 駅へ向かうと、青い列車が一台停まっていた。

 車体には薔薇の模様。

 乗り込むと、扉が静かに閉まった。

「出発します」

 アナウンスが響く。

 列車が動き始めた。

 最初は普通だった。

 遊園地の中をゆっくり進んでいた。

 ところが――。

「わっ!」

 突然、列車が空へ浮かび上がった。

「きゃああ!」

「結、大丈夫?」

「大丈夫じゃない!」

 窓の外を見る。

 遊園地がどんどん小さくなっていく。

 その下には、青い海。

 さらにその向こうには、巨大な城が見えた。

「あれ……」

 私は息を呑んだ。

「お城?」

「うん」

 シュウちゃんも窓の外を見ている。

 城のてっぺんには、青い薔薇の形をした光が輝いていた。

「もしかして、あそこにジュエルがあるのかな?」

「たぶん」

 列車は城へ向かって進んでいく。

 しかし――。

 突然、列車が止まった。

「え?」

「どうしたの?」

 車内の照明が消えた。

 真っ暗になる。

 そして、車内に声が響いた。

『二人の想像力を確認します』

「想像力?」

『この先へ進むには、二人で一つのものを想像してください』

 目の前にスクリーンが現れた。

『制限時間――三十秒』

「ちょっと待って!」

 私は慌てた。

「二人で一つって……どういうこと?」

「結、何か思いつく?」

「うーん……」

 私は考えた。

 青い薔薇。

 青い空。

 海。

 星。

 そして――。

「……デート」

「え?」

「二人で一緒に楽しめる場所」

 シュウちゃんが少し考える。

「じゃあ、遊園地?」

「それもいいけど……もっと大きいところ」

「もっと?」

「夢みたいな場所」

 シュウちゃんが私を見る。

「それなら……」

 二人で同時に言った。

「お城!」

 その瞬間。

 列車の前に巨大な光が生まれた。

 光はどんどん広がり――。

 目の前に、一つの新しい景色を作り出した。

 青い海。

 夜空。

 花火。

 そして、その中央にそびえ立つ大きな城。

「……すごい」

 私は思わず呟いた。

「これ、私たちが想像したんだよね」

「うん」

「じゃあ……」

 私は笑った。

「これって、デートってことになるのかな?」

 シュウちゃんは少し黙った。

 それから――。

「そうなんじゃない?」

「なんで疑問形なの?」

「だって、僕もよく分からないから」

「もう!」

 二人で笑った。

 列車は再び動き始めた。

 やがて、私たちはその城の前へ到着した。

 駅の名前は――。

『ブルー・キングダム』

「ここ……」

 私は駅から降りた。

 すると、目の前に一枚の小さなカードが落ちていた。

 拾い上げる。

 そこには、青い薔薇のマーク。

 そして――。

『第一のジュエルは、あなたたちの「思い出」の中にあります』

 と書かれていた。

「思い出……?」

 私は首を傾げた。

「過去のことかな」

「でも、私たち二人の思い出なんて……」

 そこまで言ったところで、シュウちゃんが黙った。

「シュウちゃん?」

「……結」

「なに?」

「この世界ってさ」

 彼は城を見上げた。

「もしかしたら、僕たちが忘れていることまで知ってるのかもしれない」

「忘れていること……?」

 その瞬間。

 城の大時計が動き始めた。

 ――ゴーン。

 一回。

 ――ゴーン。

 二回。

 時計の針が、十二時を指す。

 すると、城の扉がゆっくりと開いた。

 その奥から、青い光が漏れてくる。

「行こう」

 シュウちゃんが言った。

「うん」

 私は彼の隣に並んだ。

 そして二人で、城の中へ入っていく。

 まだ知らない。

 この城が、私たちの「最初の思い出」を映し出す場所だということを。

 そして、この先で待っているものが――。

 私たちの想像を、遥かに超えるものだということを。