群青イマヂネリ〜バーチャル・イクスペリエンス〜


 目を覚ますと、そこは青かった。

 空も。
 海も。
 遠くに見える街並みさえも。

 まるで世界そのものが、群青色の絵の具で描かれているみたいだった。

「……ここ、どこ?」

 私はゆっくりと立ち上がった。

 足元には、透明なガラスのような道が続いている。
 その下には、星空が広がっていた。

 昼なのか、夜なのか。

 それすら分からない。

「また……来ちゃったのかな」

 私は小さく呟いた。

 ここは現実じゃない。

 だけど、夢とも違う。

 私が何度も遊んできた場所。

 ――イマヂネリ。

 想像したものが、現実のように形になる世界。

 最初はただのゲームだと思っていた。

 けれど、いつからだろう。

 私はここで過ごす時間を、現実よりも大切に思うようになっていた。

「……誰かいるの?」

 遠くから足音が聞こえた。

 コツ、コツ、と。

 ガラスの道を歩く音。

 やがて、青い光の向こうから、一人の男の子が姿を現した。

「やっぱり、結だった」

「シュウちゃん……?」

 彼はいつものように笑った。

「久しぶり」

「久しぶりって……昨日も会ったじゃん」

「そうだったっけ?」

「そうだよ!」

 思わず笑ってしまう。

 けれど、シュウちゃんは笑わなかった。

 その代わり、私の顔をじっと見つめた。

「……結」

「なに?」

「今日のイマヂネリ、ちょっと変だと思わない?」

「え?」

 私は周囲を見渡した。

 青い空。

 青い海。

 星空のような地面。

 いつもと同じように見える。

「どこが?」

「ここ」

 シュウちゃんが指差した。

 私たちの頭上。

 そこには、大きな時計が浮かんでいた。

「時計……?」

「うん」

 時計の針は、動いていなかった。

 十二時で止まっている。

「壊れてるのかな」

「違うと思う」

「じゃあ、何?」

「時間が止まってるんだよ」

 その言葉を聞いた瞬間。

 世界中の青い光が、一斉に揺れた。

「……え?」

 私は思わずシュウちゃんの腕を掴んだ。

「な、何?」

「結。落ち着いて」

「でも……!」

 空に、文字が浮かび上がった。

 白い文字。

 たった一行。

――WELCOME TO IMAGINERY.

「イマヂネリへようこそ……?」

 読み終わった瞬間、文字が消えた。

 そして。

 今度は別の文字が現れる。

――NEW MISSION.

「ミッション……?」

 シュウちゃんが呟いた。

 その下に、さらに文字が続いた。

――二人で、三つの青い薔薇を集めてください。

「青い薔薇……?」

 私が呟くと、シュウちゃんがこちらを向いた。

「結」

「うん?」

「これ、ゲームなのかな」

「たぶん……」

 そう答えたものの、自信はなかった。

 今までのイマヂネリとは、何かが違う。

 そんな気がする。

 すると、空から一枚のカードが落ちてきた。

 私は慌てて両手で受け取った。

 カードには、青い薔薇が描かれている。

 その薔薇の中心には、小さな宝石が埋め込まれていた。

「これが……ジュエル?」

「みたいだね」

「三つ集めるんだよね」

「うん」

 シュウちゃんがカードを覗き込む。

 そして、少しだけ困ったように笑った。

「でもさ」

「なに?」

「どうやって探すんだろうね」

「……それは」

 私にも分からなかった。

 その瞬間。

 カードが光った。

 青い光が私たち二人を包み込む。

「きゃっ!」

「結!」

 シュウちゃんが私の手を握った。

 光がどんどん強くなる。

 そして。

 目の前に、一つの扉が現れた。

 白い扉。

 その中央には、青い薔薇の紋章。

「行くしかないみたいだね」

 シュウちゃんが言った。

「……怖くないの?」

「怖いよ」

「え?」

「でも、結と一緒なら大丈夫」

 その言葉に、私は少しだけ頬が熱くなった。

「……そういうこと、普通に言うんだ」

「何が?」

「なんでもない!」

 私はシュウちゃんの手を握り返した。

 そして二人で扉の前に立つ。

 シュウちゃんがドアノブに手をかけた。

「せーの」

 扉が開く。

 その向こうには――

 見たことのない世界が広がっていた。

 青い街。

 空を飛ぶ列車。

 虹色に輝く建物。

 そして、遠くに見える巨大な城。

 その城の上空には、一輪の青い薔薇が浮かんでいた。

「……きれい」

 思わず声が漏れた。

 シュウちゃんが笑う。

「じゃあ、最初の一個はあれかな」

「うん!」

 私たちは走り出した。

 このときの私は、まだ知らなかった。

 この青い薔薇が、ただのアイテムではないことを。

 そして――

 この世界で集める三つのジュエルが、私たち二人の「本当の願い」とつながっていることを。

 イマヂネリ。

 想像の世界。

 夢の世界。

 だけど。

 もしここで感じる気持ちまで、本物だったとしたら?

 私はまだ、その答えを知らなかった。