群青イマヂネリ〜バーチャル・イクスペリエンス〜



 朝。

 結は、青い空を見上げていた。

 昨日まで歩いていた群青の街は、どこにもない。

 代わりに、白い教会が静かに建っている。

 その周りには、青い薔薇。

 白い道。

 そして、どこまでも続く青空。

「今日なんだ……」

 結は胸に手を当てた。

 今日は、三つ目の夢を叶える日。

 ――莉人と結婚する日。

 少しだけ緊張している。

 でも、不思議と怖くはなかった。

 教会の中へ入る。

 祭壇の前には、昨日のガラスの薔薇。

 その隣には、青い薔薇のジュエルが三つ並んでいる。

 一つ目。

 二つ目。

 そして三つ目。

 三つのジュエルは、淡い光を放っていた。

「これが……私たちの夢」

 結が呟く。

 すると、後ろから声がした。

「結」

 振り返る。

 そこには莉人が立っていた。

「シュウちゃん……」

「おはよう」

「おはよう」

 二人はしばらく見つめ合う。

「なんだか変な感じ」

「何が?」

「いつもはシュウちゃんって呼んでるのに」

「じゃあ、今日は莉人でいい」

「……莉人」

 結がその名前を呼ぶ。

 その瞬間、教会の鐘が鳴った。

 ――カラン。

 ――カラン。

 青い薔薇が一斉に開く。

 床に、光の道ができた。

「行こう」

「うん」

 二人は、その道を歩いていく。

 祭壇の前に立つ。

 そして、三つのジュエルが宙へ浮かんだ。

 一つ目は、出会い。

 二つ目は、思い出。

 三つ目は、未来。

 三つの光が一つになる。

 すると、空から声が聞こえた。

『最後の質問です』

 結は顔を上げる。

『萌木結とは、誰ですか?』

「……」

 結は少し考えた。

「作家としての私」

『では、萌守心咲とは?』

「私自身」

『では、どちらが本当のあなたですか?』

 結は迷わなかった。

「どっちも」

 青い光が強くなる。

「萌守心咲も、萌木結も、どっちも私」

 結は胸を張った。

「作家になりたい私も」

「声優になりたい私も」

「誰かと笑いたい私も」

「未来を作りたい私も」

「全部、私だから」

 光が教会いっぱいに広がる。

『正解』

 その言葉とともに、三つのジュエルが一つの大きな青い薔薇になった。

 莉人が結を見る。

「結」

「うん」

「これからも、一緒にいよう」

「……うん」

 結は笑った。

「一緒に未来を作ろう」

 二人の前に、一つの青い指輪が現れた。

 それは宝石のように輝いている。

 結が手に取る。

 すると、青い薔薇の光が二人を包み込んだ。

 ――カラン。

 ――カラン。

 教会の鐘が鳴り響く。

 空には無数の青い薔薇が咲いた。

 結は空を見上げる。

「……綺麗」

「うん」

「シュウちゃん」

「ん?」

「私、夢を叶えたんだね」

 莉人は少し笑って答える。

「まだだよ」

「え?」

「最後の一歩が残ってる」

 祭壇の奥を見る。

 そこには、最後の青い扉があった。

 扉には、たった一つの言葉。

『現実へ』

 結は驚いた。

「ここを出たら……」

「うん」

「この夢が終わるの?」

「たぶんな」

 結は扉を見る。

 群青イマヂネリ。

 青い薔薇。

 ジュエル。

 遊園地。

 ティアラ。

 そして、莉人との時間。

 全部、大切な思い出だった。

 でも――

「終わってほしくない」

 結が小さく呟く。

 莉人は答えた。

「終わらない」

「……え?」

「夢が終わっても、思い出は残る」

 結は笑った。

「そっか」

 二人は手を取り合う。

 そして、最後の扉の前に立った。

「行こう」

「うん」

 結が扉を開ける。

 その向こうから、眩しい光が差し込んだ。

 群青色の世界が、少しずつ白くなっていく。

 最後に結が振り返る。

 そこには――

 三つの青い薔薇。

 そして、二人が歩いてきた道。

「ありがとう」

 結は小さく呟いた。

「群青イマヂネリ」

 そして二人は、光の向こうへ歩き出した。

 ――三つ目の夢が叶う、その瞬間へ。