北の暁


 連れて来られたのは、赤と金に彩られたきらびやかで息が詰まるほどの不気味な部屋――南の御殿の最奥、朱雀の寝殿だった。
男は頭巾をバサリと脱ぎ捨てる。
「あな、たは……」
 小夜は目を見張った。
赤い髪に柔らかで中世的な美しい顔立ち。どこか暁にも似た高貴な気品を醸し出している。
「朱雀の……」
 遠目でしか見たことないが、第一皇子朱雀の宮・煉その人だった。
「はい。煉にございます、巫女様。お会いしとうございました」
 煉は小夜の目の前に膝をついて邪悪な笑みを浮かべる。
小夜は煉から距離を取ると、必死に訴えた。
「近寄らないで! いますぐに、わたしを椿様の元へ連れて行って! 椿様に会わせて」
 椿のことが心配で仕方なかった。どうにか逃げ延びているのではないかと期待しつつも、あの炎で負った傷を今すぐに癒してやりたいと思っていた。
「あんな捨て駒のことなど、貴方様が気に掛ける必要はありません」
「椿様の事を捨て駒だなんて言わないで下さい。連れて行ってくださらないのなら自分で探します」
小夜は走り出し、部屋の扉に手をかけた。しかし、扉は固く閉ざされ開けることができない。
「鬼ごっこですかな?」
 煉は笑いながら追いかけてくる。小夜は出口を必死で探し回った。しかし、外へと繋がる扉は見つけられなかった。
「……出口はどこなの?」
「お遊びはここまでだ、小娘」
 先程までの柔和な雰囲気とは打って変わり、煉は本性を見せる。
小夜の腕を強引に掴んで寝台へと捩じ伏せた。
「大人しく僕のものになれ。辛気臭い玄武のどこがいい? 次の麒麟になるのは、華やかで有能な朱雀が相応しい。そう思うだろう?」
 この男が皇帝になったらーーこの国は破滅する。小夜は煉を見据えるとゆっくりと首を左右振った。
「いいえ、思わないわ。少なくとも麒麟に相応しいのはあなたじゃない」
 その瞬間、バシンと、小夜の左頬に衝撃が走った。
「黙れ! お前が朱雀巫女になれば僕が次の麒麟なんだよ。巫女に手を出さなかった愚図な暁に感謝しなきゃな」
 煉の唇が小夜に迫る。
「イヤッ、やめてください‼︎」
「騒ぐな、おとなしくしろ!」
 唇が重なろうとしたまさにその瞬間だった。
バチッーー‼︎
 寝殿の空気を凍りつかせるほどの凄まじい冷気が爆発した。
「う、うああああっ」
 煉は激痛に顔を歪め、弾かれたように小夜から手を離して後ろへ飛び退いた。見れば、小夜に触れていた箇所か白く凍り付いている。
暁と寝台で深く触れ合い、幾度も熱い口づけを重ねていたことで、小夜の身体には玄武の力が結界のように満たされていたのだ。
凍りついた我が手を見つめ、煉は忌々しげにチッと舌打ちをする。
「なるほど……すでにそこまで深く玄武に侵されているか。無理に抱けば無傷ではいられないか」
 煉はそう状況を判断すると、小夜を睨みつける。
「ならばお前を"毒気"が抜けるまでゆっくり飼うことにするよ。その後で、じっくりと朱雀の力を注ぎ込んでやろう」 
 舐めるような視線に小夜は身震いする。
そして煉は朱雀宮の隠し部屋へ小夜を幽閉してしまった。