北の暁


 こうして、偽りの側室を立てた玄武宮は、北辰、黒曜に加え、選りすぐりの精鋭たちを連れ武術大会が開かれる南の御殿へと乗り込むことになるのだった。
 朱雀が誇る広大な闘技場は、異様な熱気に包まれていた。
天上にたなびく極彩色の旗、大勢の観客たちの地鳴りのような歓声。
その最上席に、煉が妖艶な側室たちをはべらせ、退屈そうに頬杖をついていた。
対する玄武の席では、暁が冷然と座し、その隣には豪奢な衣を着飾った椿が側室として控えている。
そして、地味な女官の格好をした小夜は、暁のすぐ後ろで闘いの様子を見守っていた。
「五人一組の団体戦。三回先取した宮の勝利とする――始めよ!」
 ドンドンドンと太鼓の音が響き渡り、武術大会の幕が上がる。朱雀の狙いは、玄武の戦力を削ぐこと。だが、煉の目論見は脆くも崩れ去った。
「オラァッ、玄武の武官を舐めるなよ!」
 先陣を切った北辰が、熊のような巨体からは想像もつかない速さで大斧を振り回し、敵を次々と場外へ叩き落とす。
続く黒曜も、目にも留まらぬ素早い剣技で一瞬で勝負を決めてみせた。
試合が終わると疲弊した武官たちに小夜がこっそりと駆け寄り、癒しの波動を送る。
「やるではないか、落ちこぼれの玄武が」
 遠くの席で、煉が好戦的な笑みを浮かべる。

 玄武の快進撃は止まらず、一回戦、二回戦と順調に勝ち進み、ついに宿敵・朱雀の宮との準決勝を迎えた。
北辰たちの無事を祈る小夜の胸に一抹の不安が過る。その時だった。
――ズドォォォン‼︎
 地響きと共に、闘技場の中心で凄まじい爆風が届いた。
煉の仕掛けた火の呪術だ。突如として立ち上る黒煙と烈火、降り注ぐ瓦礫。
「奇襲だ!」
「逃げろ!」
 会場内は一瞬にして悲鳴が渦巻く大混乱に陥る。
「小夜――っ!」
 暁が咄嗟に振り返り、手を伸ばした。しかし、猛烈な煙が二人の視界を遮る。
その混乱の隙を突き、影から現れた朱雀の隠密たちが、暁の隣にいた椿へ一斉に襲いかかった。不意を突かれた椿は反撃の隙を見つけられず拘束され引きずられていく。
それを目撃した小夜は、身体が勝手に動いていた。
「椿様っ!」
 叫びながら、猛火のなかへ飛び込み、連れ去られそうになる椿に追い縋る。
「小夜様、ダメです、お逃げください」
 椿の制止も虚しく小夜諸共、連れ去られてしまった。