そんなある日のこと。
北の御殿の静寂を破るように、朱雀の宮から一通の書状が届けられた。
赤と金で彩られた四神武術大会への招待状。まるで送り主の念が込められたかのように、禍々しい邪気を放っている。
その日のうちに、北辰、黒曜、椿、そして小夜の四人が暁の執飾室へと呼び出された。
「……やはり、朱雀が動いたか」
暁は卓の上の書状を冷ややかに見つめ、低く呟く。
大会の名目は皇子たちが戦闘技術を披露し合う親睦の場。だが、玄武宮の優秀な武官を出場させて疲弊させ、こちらの戦力を根こそぎ削ぎ落とそうとしている意図が透けて見えていた。
かと言って拒めば、他の皇子から難癖をつけられ、皇位継承権の剥奪へと強硬に動く可能性もあり得る。
「殿下、案ずることはございません」
暁の苦悩を察したように、重い口を開いたのはは北辰だった。その隣では、黒曜が静かに深く頷いている。
「朱雀の狙いが我が方の戦力を削ることなら、返り討ちにするまで。小夜様のおかげで私たちの身体は今、人生で最も万全な状態にあります。絶対に負けませんので、お任せください」
「北辰様の言う通りです。朱雀の奴らなんて俺の剣の錆にしてやりますよ。殿下と小夜様は、どうか安心していらしてください」
二人の揺るぎない忠誠心と頼もしさに、暁の端正な顔がふっと和らいだ。
「……頼む。だが、問題はもう一つある」
暁は視線を、少し後ろで控えていた小夜へと向けた。
「この大会には側室同伴という奇妙な条件がついている」
その言葉に、侍女の椿がピクリと眉を動かした。
「もしや、朱雀の宮の真の目的は……玄武の力を目覚めさせた巫女の奪取なのでは?」
「……あわよくば、とは思っているのだろうな。そこでだ、椿。お前が小夜の身代わりとなれ。側室として俺の隣に座るんだ」
「御意。そのお役目、命に代えても全ういたします」
椿は、凛とした表情で深く一礼する。そして暁は、ゆっくりと小夜の元へ歩み寄り、その華奢な肩にそっと手を置くと、愛おしそうに撫でた。
「小夜。もちろんお前も連れていくぞ。だが……お前は下級女官の格好のまま、俺のすぐ後ろに控えていろ」
「はい、玄武の宮様」
「本当は、お前を堂々と俺の側に置きたい。皆の前で、この者こそが我が玄武の巫女であると高らかに宣言したい。……だが、今お前の正体がバレれば、奴らは死に物狂いで奪いに来る。お前を危険に晒すことになる。すまぬ、小夜」
苦しげに眉を下げる暁に、小夜は自身の胸元の印をそっと押さえ、柔らかく微笑んだ。
「謝らないでください。わたしは玄武の宮様のお側にいられたら、それだけで十分に幸せなのですから」
「……小夜」
暁は人目も憚らず、小夜に口付けを落とす。

