あの光の先

彼の家を出ると程なく、遠くの方でガヤガヤと声がした。
きっと追手だろう。
私は足早にその場を後にして、彼の示した場所に向かう。
路地裏は入り組んでおり、おまけに今は夜更け、
明かりもない状態では常人ならまず間違いなく迷う。
彼女は彼の指示通りの道順を辿ると「赤い扉」が程なく見えてきた。

こんこん
「……だれだ……」

『あ、あの…302105!』

「…はいれ……」

重そうな扉がゆっくりと開けられる。

『あり…がとう』

私が入ったことを確認すると赤い扉はまた閉ざされ、施錠された。



奥に案内されると、さっきまでの暗さが嘘のようにたくさんの街灯に火が灯され、
輝いていた。
彼の家の近辺でさえ、こんなに明るい場所はなかったので思わず、

『わぁ………綺麗』

と漏らしてしまった
自然と口から出てしまったのだ。

案内役の老人は何も言わず、その先をソロリソロリと歩いていく。

しばらく行くと急に静まり返った場所に着く。
たくさんの扉がある広場に着くと、彼の番号「302105」と記載された扉を指さされる。
ここに入れということかしら…?
男は何も言わず、また元来た道を戻っていった。

『この扉の向こうに…』

こんこん
反応はない…

『あの…?』

ガチャ…

「だ、だぁれ?」

半開きになった扉から女の子が顔をひょこっと出す。
警戒している様子だ。
そりゃそうよね。
訪ね人は面識もない赤の他人なのだから。

『あ、あの…私、ヘンリエッタと申します』

「あなたは…だぁれ?」

『あのね、私、あなたの…302105さんのお知り合いなの』

その数字を聞き、ハッとして彼女が扉から身を乗り出してきた。
きょろきょろと辺りを見回す。
しかし彼の存在を認識できず、落胆していた。
彼女は彼よりも二回りくらい小さかった。
恐らく12,3歳くらいだろうか?
どことなく、顔立ちが彼に似ていたので妹さんなんだなと理解できた。

『あの…ね、よく聞いてちょうだい』

胸がとても…痛かった。

『あなたのお兄さん、戦場で…その…』

バツが悪そうに真実を言えず、オロオロしていると、

「お兄、死んじゃった…?」

『ご、ごめんなさい…』
『私、彼のお友達で…』

「そっか…………私だけ置いてかれちゃった…」

そう言って一筋の涙が頬をつたった。

一瞬冷静そうにも見えたが、決してそんなことはない。
彼女なりに覚悟はしていたのだろう。
だけど、姿が見えないということはそういうことなんだと理解し、感情が抑えきれなかったのだ。
私のほうが胸が痛く、抉られる気持ちになった。

彼女をぎゅっと抱きしめ、落ち着くまでそのままでいてあげた。