あの光の先

彼の手が彼女の手からするりとすり抜け、床に力なく落ちた。

『そ…そんな……!』
『目を覚まして!!』
『お願い一人にしないで!!』

私の声はもう、彼には届いていなかった。

『なんでこんなことに……』

私は泣いた。
泣きじゃくった。
喉が枯れるまで、ずっと。
人目を気にする必要なんてない。
だってもう私以外誰もいないのだから。

・・・
・・
・

ひとしきり泣いた私はふと、思い出した。

『そういえば……お手紙をもらったんだわ』

彼の血がべっとりついた封筒。
いったい何が書いてあるのだろう?

おそるおそる封を切ってみる。

そこには殴り書きでこう綴られていた。


「親愛なるエッタへ」
「僕はもしかしたらもう戻れないかもしれない」
「だから君に託したいことがあるんだ」

『なにかしら……?』

「僕の…大事な妹を守ってほしい」
「こんなことを君に頼むなんてどうかしてると思っている。
「だけど僕の命よりも大事な妹をどうか……」
「僕のいない今、妹を守ってくれる人はエッタ、君しかいない」

ここまで読んでハッとする。
アニーが私にくれたこの服。
何故、女性ものの洋服をアニーが持っているのかと疑問に思っていた。

『そう…これは妹さんのなのね。』

ぎゅっと洋服の裾を握りしめ、涙が零れ落ちる。

「妹はこの家から南の方にいった先の路地裏を左、右、左、と進んだ先にある『赤い扉』の先にいる」
「僕の番号、302105を伝えれば扉を開けてくれるはずだ」

『彼の…名前』

「それと、リビングの床のカーペットをどかしたところに引き戸がある。」
「そこにある金貨袋を持って行って」
「それを赤い扉の向こうの人に渡して!」
「君と妹を亡命させてくれるから」

ぶわっとあふれんばかりの涙が零れ落ちた。

『アニーはきっと妹さんと一緒にこの帝国から亡命しようとしていたんだわ。』

そう察すると悲しくて仕方がなかった。
きっと今までのお仕事で得た「はした金」を節約し、コツコツ貯めていたのだろう。
本当は兄妹で脱出したかっただろうに…
そう思うとやるせなかった。
あの夜、兵士だと聞いた時から、彼を引き留めるべきだったと後悔した。
もっと…彼のことを深く知ろうとしていれば、彼の計画も知れただろうに…
今更だが、とても悔しい気持ちに苛まれた。

「本当はこの家をあげたかったんだけど、どうやら僕が何かを隠しているだろうと怪しまれてしまった」
「身支度をしたら早々にその場を立ち去ってほしい」

『それは大変…!』

幸い、金貨袋以外、必要なものなんてないし、元々持ち物なんてなかった。

『彼にお別れ言わなきゃ』

そう言って彼の寝室にいく。
傷は痛々しいが、彼の顔は笑顔だった。

『アニー。あなたのおかげで私、生きる希望が湧いてきたわ』
『短い間だったけど、感謝しているわ』
『ありがとうアニー』
『そして…さようなら愛する人』

そう言って彼のおでこにそっとキスをする。

ろうそくの火をフッと消すと彼の大切な妹に会いに、すっくと立ち上がる。
彼女の目にはもはや絶望はなく、信念に燃える輝かしい未来を見据えていた。


『彼の大切な妹さんを迎えにいかないと!』