あの光の先

その日の夜。
待てども待てども、彼が帰ってくることはなかった。
とても心配だったが、外に出ると誰かに見つかってしまうかもしれない。
そう思うと扉の外に出るのも怖かった。

待ちくたびれてうとうとしている頃、
玄関の方で音がした。
幸い電気は消しており、怪しまれることはない。
念のために一番奥の部屋にあたる寝室に行き、こっそりと息を殺す。
何かを引きずる音、弱々しくも悲痛な声がときどき聞こえる。

なんだろう。
何が迫ってきているのだろう。
見えない恐怖が彼女を底知れない不安に叩き落す。

声を出したくても誰がいるのかもわからないので出せない。
かといって動いても床の軋む音で場所がバレてしまうかもしれない。
現状維持でジッとしているのが最善の策のように思える。

しばらく、沈黙の時間が続いたが、「何者」かの一言で沈黙が破られた。


「……エッタ……?」
「どこ……に…い……る…の……?」

私はハッとして、寝室から飛び出る。

『アニー!』
『アニーなの!?』
『どこ!』

ろうそくに火を灯し、リビングの方を探す。
そこで愕然とする。

『ア、アニー……?』

そこには彼「だった」ものが横たわっていた。
右腕と右足がなくなっており、血まみれだった。

『そ、そんな……』

動揺している暇はない。
急いで彼を抱きかかえ、寝室に連れていく。
彼をベッドの上に優しく横にすると救急箱を探す。

『ねえアニー!救急箱はどこ!?』

私はとても動揺していた。
彼を助けなくては!そのことしか頭にない。
もちろん応急処置なんてしたこともないし、知識もない。
だけど、私のできる範囲で彼を助けなければ!

息も絶え絶えなアニーからかろうじて救急箱の場所を教えてもら、止血剤と消毒液、包帯を取り出す。
見るもおぞましい怪我を負ったアニー。
涙を流しながら彼を助けたい一心で、消毒液をふりまき、傷口を優しくタオルでふき、
なんとか包帯を巻く。
もはや息をしているだけでも辛そうなアニー。
その姿を見るだけで涙が止めどなく溢れ出てくる。

『アニー!しっかりして!』
『止血はしたわ!!包帯も巻いた!』
『もう。。大丈夫よ』

嘘。
大丈夫なわけがない。
でも彼のため、一所懸命励ます。

「あぁ。。エッタ。。。ありが。。とう」

彼はもはや虫の息だ。
誰が見てもわかる。
しかし、彼女はその事実を直視できず、祈り続ける。
彼が助かりますように。。と。

『よく帰ってきてくれたわ。私、嬉しい!』

精一杯の笑顔を作る。
目には涙が溢れている。
そして、彼の手を握る。
彼の血でドロドロだが、気にしない。

「エッタ。。泣かな。。いで」
「可愛い。。顔。が。。だいな。。し。。だよ。。?」

彼は笑顔だ。
何故そんなに笑っていられるのだろう。
私のため。。?
そんなことを思うたび、涙が溢れてくる。

『大丈夫!大丈夫よもう!』
『あなたは助かるから!』

「き。。みに。。あえて。。よ。。かっ。。た」
「これ。。を。。」

そう言って血に染まった封筒を手渡される。
これはなんだろう?

「て。。がみ。。あと。。で。。。よ。。んで」

『元気、なるわよ!大丈夫だから!』

彼の呼吸がどんどん弱くなっていくのを感じる。
ぎゅっと握りしめた彼の手がどんどん冷たくなっていく。

「みじ。。。か。。い。。あい。。だ。。だっ。。た。。け。。。ど」
「きみと。。しりあ。。えて。。よかっ。。」

そう言って彼の手から力が抜けた。

『そんな。。いやよ!』
『置いてかないで!!』
『私独りぼっちよ!?』
『私の傍にいてちょうだい。。!』

私の「独り言」だけが空しく響き渡った。