あの光の先

彼に連れられてようやく家に着いた。
道中、誰にも会わなかったのは不幸中の幸いだろう。
心からホッとする。

彼の家…家といってもいいのだろうか。
ところどころ破損し、かろうじて屋根と壁が8割ほど残っている廃墟、と言った方がいいだろう。
雨風は凌げるがその程度。寝室だけは壁も屋根もしっかりしていて睡眠だけは取れそう。
もちろん、今まで屋根もない、ベッドもない路上で人知れず寝泊りしていた私よりは全然マシだ。
それでも…軍人であろう彼にとってこの住居はあまりにも…粗末ではなかろうか?
そんなことを考えていると、

「誰にも見つからなくてよかった」
「君の名前を聞いても…いい?」
「も、もちろん、偽名でもいいけど、なんて呼べばいいかなって」

彼は好奇心からなのか、心配してくれているからなのか、やたら饒舌だ。
家を見るかぎり、友人も招くことは難しそうだし、今まで独りぼっちで話し相手がいることに
喜びを感じているのかもしれない。

『私はその…ヘンリエッタ。エッタって呼んでくれると嬉しいわ』

なんとなく、悪い人ではなさそうだったので名前だけ教えることにしたのだ。

「素敵な名前だね!」
「君はその…いつから路上で生活をしていたの?」

「素敵」と言われて少し嬉しかった。
愛する父上と母上につけてもらった大事な名前を褒めてもらったのだもの。
嬉しくないわけがない。

『あ、ありが、とう』
『この辺には1か月ほど…かな?』
『水飲み場もないのねここ。喉乾いたら泥水すすっちゃってたわ』

少し冗談交じりに会話をしてみた。

「そ、そんな…」
「よく無事だったね」
「もう少し早く君の存在に気付いてあげられていればよかった」
「辛かっただろうに…ごめんね」

そう言って私のために涙を流したのだ。
突然のことで、最初、私は思考が追い付かなかった。
彼は何故涙を流しているのだろう。
彼は何故私のことを心配してくれるのだろう。

ハッと思考が追い付いてくると、私も涙を流してしまった。
彼のさりげない優しさや思いやりに胸がきゅっとなった。

そんな私を見て、彼はとてもあたふたしていた。

「女性を泣かしてしまったー!」

って慌てふためいていた。
なんだかちょっと…可愛いなって思ってしまった。
そしてクスっと笑うと、彼も安心したように笑顔を返してくれた。