あの光の先

私の名はヘンリエッタ・ジュスターヴ・アレサンドラ。
この世界で1.2を争う軍事国家「カッサンドラ」に攻め滅ぼされたウェザード王国のお姫様だ。
捕虜にされる前に両親に逃がしてもらい、捕まらずに済んだけれど、カッサンドラは躍起になってを私を探している。
それもそのはず。
ヘンリエッタはとても美人だと世界中でも有名で、その美貌に惑わされた者は数知れず。
噂によれば、カッサンドラの王も彼女の美貌を求めてウェザード王国に宣戦布告した…とも言われている、らしい。
真偽は定かでないにしろ、私が多くの国から狙われていることは事実だ。

せっかく両親が繋いでくれたこの命。
なんとか役に立たせたい!
そう、私は決意を胸に今ここにいる。


『絶対、誰かのために…生きるわ!』


私の決意は固い。
今は何もできなくてもいつか誰かの役に立ちたい、その思いが失われないかぎり、私の瞳から色を失うことはない。決して。

『泥水をすすってでも…生き延びるわ!』



帝国領内の辺境の地、アンスーン
多くの帝国軍人が暮らす町。

低俗層の軍人たちが多く住んでおり、さながらスラムのように荒廃した町だ。
ここなら帝国の目も欺きやすいと思い、今までずっと潜伏し、
文字通り泥水をすすり、残飯を漁りながら生きながらえていた。
しかし、その生活もそろそろ限界に近づいていた。

『お腹…空いたな…』

そう思ったとき、後ろから迫る男がいた。

「君は…誰?」

咄嗟に私は後ずさむ。
しまった!
油断していた。
栄養失調だったからだろうか、頭がボーっとしていて気が回っていなかったようだ。

「こんな路地裏で、人がいるなんて驚きだ」
「その服装… どこかのお姫様かい?」

まずい!
私の存在がバレてしまう…!?

『き、気にしないで』
『服がなくて…落ちていた服を着たのよ』

我ながら心苦しい言い訳だ。
でも空腹で思考も回らない状態にしては上手く言えたのではないか?とも自分を褒める。

「でも……ここにはそんな衣装を着る人間なんていないよ?」

迂闊だった。
ここはスラム街。
いくら泥まみれで汚れているとはいえ、こんな高貴な衣装を身に纏う人間なんていない。
私の存在がバレてしまう…
私は観念し、すべてをあきらめたときだった。

「よければ…ウチにくる?」

軍人らしき、彼が手を差し伸べてくれたのだ。
罠かもしれない。
私の存在に気づき、確保したいのかしら?
手柄にしたいの?
このまま拘束されちゃうのかな…?

いろいろな嫌な思考が頭をぐるぐると駆け巡る。

「ごめん…警戒させちゃったよね」
「でも誰か人が来る前に…とりあえずウチにきて?」

もしかして彼はいい人なの…?
怖い…けど、このまま別の人間に見つかるのもまた怖かった。
考えて考えて、優しそうな眼をしていたので、警戒は怠らず……
彼を信じてみることにした。

『乱暴…しないでね?』

なんとかふり絞って出した言葉が警戒心丸出しの一言で自分で自分のことを嫌悪する。
それでも、彼は気にすることなく、

「何もしないさ」
「安心して」

そう言ってまっすぐな目で私を見つめてきた。