神戸モンキーの国、蒸気の記憶

 私はその声の使い分けを聞くのが好きだった。

 大きな声は、あなたがこの過酷な職場で戦うための鎧であり、小さな声は、あなたが大切に守り抜いている自分自身の本質であるように思えたからだ。

 職場の男たちは、あなたのことを「明るくて、ノリがいい」と評していた。
 そして、その「ノリの良さ」につけ込むように、あなたの身体的な特徴をあげつらっては、下卑た冗談を浴びせていた。

 「あいつはああいうのを嫌がらないからいいんだ」

 上司たちはそう言って、あなたへのセクハラを正当化していた。
 あなたはいつも、困ったように眉を下げながらも、明るく笑って受け流していた。

 二十年経った今の私は、その光景を思い出すたびに、胸の奥を鋭利なナイフで掻き回されるような思いがする。

 あなたは本当に、嫌がっていなかったのだろうか。

 そんなはずはない。

 あなたはただ、あの場所で生き残るために、誰にも悟られないように、心の鍵を閉めていただけではなかったのか。

 そして、隣にいた私は、あなたのその孤独な戦いを、なぜただ黙って見ていることしかできなかったのか。

 「自分は、他の男たちのように彼女を侮辱していない」

 そんな消極的な自負だけで、自分を免罪していた当時の私の卑怯さを、今の私は心底軽蔑する。

 夏になり、制服が薄手のものに変わった。

 それは、女性社員にとってはあまりに負担の大きい、身体のラインを強調するようなデザインだった。

 もう一人の同期の女性は、その夏服への衣替えを機に、逃げるように会社を去っていった。

 けれど、あなたは残った。