「私は君たちとは違う。いつかここを出て、真っ当な世界へ戻る人間だ」
そう自分に言い聞かせ、周囲に高い壁を築いていた。
けれど、今の私にはわかる。あの時、一番傲慢だったのは私自身だった。
軽蔑することで、自分だけは汚れていないと思い込もうとしていた。けれど、実際には私もまた、その異常な空気を吸い、その給料で飯を食い、誰かが傷つけられているのを黙って見過ごしていたのだ。
私自身もまた、あの王国の「はだかの家来」の一人だったのだ。
そんなある日、会社が発行した「社内報」が、決定的な事件を引き起こした。
新入社員を紹介する紙面に並んだ、女性社員への卑劣で露骨な質問。それを面白がる男たちの下卑た笑い声。
一人の真面目な女性社員が、その記事によって心を壊し、静かに姿を消した。
私はその時、初めて、言葉というものがこれほどまでに残酷な凶器になり得ることを知った。文学を志した私が、最も軽蔑すべき言葉の使われ方を、私は最前線で目撃したのだ。
暗い、深い泥濘。
誰もが自分を見失い、あるいは見失ったふりをして生きるしかない場所。
そんな迷宮の奥底で、私はあなたと出会った。
二期生として入社してきたあなたは、その場所には似つかわしくない、どこか頼りなげで、けれど凛とした空気を纏っていた。
あなたは、まだ何も知らなかった。
この蒸気の向こう側で、どれほど多くの心が、形を失って消えていったのかを。
そして、私もまだ知らなかった。
あなたという存在が、二十年後の私をこれほどまでに苦しめ、そして救うことになるのだということを。
私たちは、あの蒸気の中で、お互いの輪郭を確かめるようにして、静かに近づいていったのだ。
そう自分に言い聞かせ、周囲に高い壁を築いていた。
けれど、今の私にはわかる。あの時、一番傲慢だったのは私自身だった。
軽蔑することで、自分だけは汚れていないと思い込もうとしていた。けれど、実際には私もまた、その異常な空気を吸い、その給料で飯を食い、誰かが傷つけられているのを黙って見過ごしていたのだ。
私自身もまた、あの王国の「はだかの家来」の一人だったのだ。
そんなある日、会社が発行した「社内報」が、決定的な事件を引き起こした。
新入社員を紹介する紙面に並んだ、女性社員への卑劣で露骨な質問。それを面白がる男たちの下卑た笑い声。
一人の真面目な女性社員が、その記事によって心を壊し、静かに姿を消した。
私はその時、初めて、言葉というものがこれほどまでに残酷な凶器になり得ることを知った。文学を志した私が、最も軽蔑すべき言葉の使われ方を、私は最前線で目撃したのだ。
暗い、深い泥濘。
誰もが自分を見失い、あるいは見失ったふりをして生きるしかない場所。
そんな迷宮の奥底で、私はあなたと出会った。
二期生として入社してきたあなたは、その場所には似つかわしくない、どこか頼りなげで、けれど凛とした空気を纏っていた。
あなたは、まだ何も知らなかった。
この蒸気の向こう側で、どれほど多くの心が、形を失って消えていったのかを。
そして、私もまだ知らなかった。
あなたという存在が、二十年後の私をこれほどまでに苦しめ、そして救うことになるのだということを。
私たちは、あの蒸気の中で、お互いの輪郭を確かめるようにして、静かに近づいていったのだ。

