神戸モンキーの国、蒸気の記憶

 客が去り、静まり返った館内。そこで私を待っていたのは、新人トレーナーたちの練習台になることだった。
 私は広いマッサージルームのベッドに、半裸で横たわる。私の周囲には、技術を習得しようとする女性スタッフたちが群がる。彼女たちの指先が私の肌に触れ、上司がその手つきを指導する。

 「もっと強く」
 「そこは急所だ」

 彼女たちの視線の中に、私という「人間」は存在していなかった。私はただの肉の塊であり、練習用の素材に過ぎなかった。
 二十年経った今、あの時の感触を思い出すと、肌が粟立つような不快感が蘇る。それは性的な高揚などではなく、自分の尊厳が、流れ作業のパーツのように扱われることへの、深い絶望だった。

 職場では、人が驚くほどの速さで使い潰されていった。
 昨日まで一緒に「いつかこの会社を良くしましょう」と青臭い理想を語り合っていた同期が、翌朝にはロッカーを空にして消えている。そんなことが、雨の日の水たまりのように、いたるところで起きていた。

 「あいつは根性がなかった」
 「所詮、うちには合わない人間だった」

 残された私たちは、そう嘯く上司の言葉を黙って聞き、消えた人間の穴を埋めるために、さらに過酷な労働へと身を投じる。
 朝、何時に仕事が終わるのかも分からず、カプセルホテルの一室で泥のように眠り、数時間後には再び蒸気の立ち込めるフロアへ戻る。そんな生活を続けるうちに、私は自分が、あの異常なシステムの一部として、滑らかに機能し始めていることに気づいた。

 さらに醜悪だったのは、社内を支配していた「性の乱れ」だ。
 狭い閉鎖空間、極限の疲労、そして麻痺していく道徳観。

 誰が誰とホテルへ行った、あの上司はあの女性社員に手を出した……。そんな噂話が、まるで昼飯の献立を報告するような軽さで、スタッフルームを飛び交っていた。

 そこには「愛」などという高尚なものは欠片もなく、ただ、互いの空虚を埋め合わせるための、刹那的で暴力的な消費行為があるだけだった。

 私は、そんな周囲を軽蔑していた。