神戸モンキーの国、蒸気の記憶

誰が何を言ったのか、正確な順序さえ危うい。あの時、私が抱いていた感情は、本当に正義感だったのだろうか。それとも、ただの若さゆえの傲慢だったのか。

今となっては、自分自身の記憶さえ、長い年月の中で私に都合よく書き換えられたフィクションのように思えてくる。

例えば、私はあなたを愛していたのだろうか。

それとも、あの地獄のような環境の中で、自分を「まともな人間」だと繋ぎ止めておくための、命綱としてあなたを利用していただけなのだろうか。

本当のことは、もう分からない。
あなたは、あの場所を去った後、どこへ向かったのか。

誰かと出会い、名前を変え、今はどこかで見知らぬ街の空気を吸っているのだろうか。

インターネットという大海原で、一度だけあなたの名前に似た文字列を見つけたことがあったが、それもいつの間にか消えてしまった。今のあなたに繋がる糸は、どこにも残っていない。

だから、私は書くことにした。

これは、告発の書ではない。ましてや、過去の刺激的な体験を切り売りするための読み物でもない。

二十年以上も前に、確かにそこに存在したあなたという光と、その光に照らされていたはずの、若くて未熟だった私自身の輪郭を、もう一度、言葉の力でなぞり直すための作業だ。

忘却という名の深い霧に飲み込まれてしまう前に。
あなたが歯につけた青のりの輝きさえ、単なる「古い情報の断片」として消え去ってしまう前に。

私は、あの蒸気の向こう側にあった、私たちの静かな闘いの日々を、今一度呼び戻そうと思う。

たとえ、そこに書かれた真実が、私の記憶が作り出した幻影に過ぎないとしても。