神戸モンキーの国、蒸気の記憶

 社員旅行という名の狂宴が終わった後、会社は急速に腐敗の度を増していった。

 上司Fの横領疑惑が表面化し、彼は言い訳ひとつ残さず闇へと消えた。指導者を失った組織は、残された者たちの猜疑心と権力欲によって、いっそう醜く歪んでいった。

 特に、私に向けられた直属の上司の嫌がらせは苛烈を極めた。

 他の社員の前で執拗に叱責され、私一人だけが、明らかに不条理なシフトに放り込まれる。二十代の私は、その理不尽さに全身を震わせて憤った。

 「なぜ自分だけが」「どうして誰も助けてくれないのか」

 けれど、二十年後の今の私は、あの時の上司の心境が、ほんの少しだけ分かるような気がする。彼は、私がこの場所に染まりきっていないことを見抜いていたのだ。いつかこの場所を捨て、外の世界へ戻っていく者への、それは醜い嫉妬だったのかもしれない。

 ついに、私の心の中の糸が切れた。

 支配人に退職を願い出たとき、彼が浮かべたのは、引き止めるための言葉ではなく、「繁忙期だから、あと数ヶ月は働け」という冷淡な命令だった。私は、魂を削り取られるような思いで、その「残業時間」を過ごした。

 その間、あなたと私の距離は、皮肉なほどに遠ざかっていった。

 あの日、ホテルの暗闇で重なったことさえ、幻だったのではないかと思えるほど、あなたは完璧な「同僚」として振る舞っていた。

 二人きりになる機会は二度となかった。スタッフルームですれ違うとき、あなたはいつものように「お疲れ様です」と明るく声をかけてくれたが、その瞳の奥には、決して私を踏み込ませないための、厚いガラスの壁が築かれているように見えた。

 私は、自分があなたを裏切ったのだと感じていた。

 「あなたがこの場所を無事に卒業するまで、自分もここにいる」

 かつて心の中で立てた誓いを、私は自ら破ろうとしていた。あなたをこの泥濘の中に残したまま、私だけが、一足先に逃げ出す準備を整えていたのだ。

 最後の日、劇的な別れの言葉などなかった。