神戸モンキーの国、蒸気の記憶

 三宮で四軒の店をハシゴしたあの夜の後、職場に戻った私たちは、以前よりもいっそう深い絶望を共有するようになった。

 外の世界の「まともさ」を味わってしまった分、サウナという閉鎖空間に漂う湿った淫靡さと、上司たちの横暴さが、耐えがたい悪臭となって鼻を突くようになったのだ。

 社内では、崩壊の兆しがあちこちに現れていた。

 更衣室での盗難、高級腕時計の紛失、そして、あの上司Fによる自動販売機の売上金流用疑惑。

 信じていたものが次々と裏切られ、同僚たちが疑心暗鬼に陥っていく。二十年後の今、私は確信を持って言える。あの場所は、最初から壊れていたのではない。壊れていくことそのものを燃料にして、無理やり稼働し続けていた巨大な装置だったのだと。

 そんな中、恒例の社員旅行の日がやってきた。

 給与から強制的に積み立てられた金で行われる、名ばかりの慰安旅行。

 私はカメラ係を志願した。レンズというフィルターを通すことで、自分がその醜悪な集団の一員であることを忘れ、単なる「記録者」として振る舞いたかったのだ。

 出発前の早朝。

 バスを待つ人混みから少し離れたところで、あなたは一人、冷たい空気の中に立っていた。

 私は、吸い寄せられるようにあなたにレンズを向けた。

 「あ、撮るんですか?」

 あなたは照れたように、けれどどこか寂しげに笑った。

 あの瞬間のあなたの顔を、私は二十年経った今でも鮮明に思い出せる。それは、これから始まる狂宴を予感しているような、諦めと、微かな期待が混ざり合った、複雑な表情だった。

 シャッターを切った瞬間、私は思った。――この人を、この場所から連れ出さなければならない、と。