大好きなツンデレ美少年に告白して振られたら急にモテ出した件について ※ただし、男に





 りんちゃんの横顔をチラチラ見ていたら、あっという間に午前の授業が終わった。
 席替えしたばかりのときはガン見していて、先生から注意された上、りんちゃん本人にも下敷きでガードされてしまったので、俺も学習したのである。おかげで、バレないようにチラ見する技術が上がった。今日もりんちゃんの横顔は、大変美しかったです。
「りんちゃん、今日お昼一緒に食わない?」
「断る、その呼び方やめろ」
「じゃあなんて――」
「赤星ー、なんか呼ばれてるぞ」
 りんちゃんが一体俺になんて呼ばれたいのか、それを聞くときにいつも邪魔が入る。
 教室の入り口の方で、クラスメイトが手を振って呼んでくれるのに「あーい」と返事をした。
 りんちゃんはその隙に、ちゃっかり弁当を持って立ち上がっている。俺は知っている。りんちゃんは、昼ご飯はいつも、取り巻きらしき双子兄弟と一緒に食べていることを。いつか俺もその中に入りたい。
「なにー?」
 そんなことを思いながら教室の入り口に行くと、「この人が用だって」と俺を呼んだ滝くんはそれだけ言って去ってしまった。
 この人、と示された先には、背が高いイケメンがいた。なんか見たことあるぞ、この人。
「よお、噂の伝説くん」
「はーい、伝説の赤星です」
 ああ、そういうことね。
 修二の言う通り、俺は一夜にして超有名人になってしまったようだ。
 この人も例に漏れず、わざわざ俺のことをいじりに来たのかもしれない。
「あれ、藍川じゃん。なんで二年のとこいんの、お昼食べない?」
 俺の教室は二年の端っこで、階段が近いから、三年の先輩たちもよく通る。
 三年らしきスカートが短い女子生徒が、イケメンに声を掛けた。藍川と呼ばれたイケメンは面倒そうに眉を寄せて片手をひらりと振る。
「悪ィな、今日の俺の興味はコッチ」
「えー、わかった。じゃあまたねー」
 つれない反応にも慣れたものなのか、女の先輩はあっさり手を振って去って行く。
 な、なんなんだ一体。そんなことより俺はりんちゃんの行く末を見たいのに。
「な、なんなんすか」
 そのまま口に出てしまった。
「おまえさ」
「はい?」
「俺のこと知らねえの」
「?」
 見たことはある。見たことはあるけど、名前までは知らないし、なんで見たことがあるのかもよく覚えてない。
 首を傾げて見せると、藍川さんらしき人は、目を細めた。
「へえ。面白ェ、おまえ、俺のもんになれよ」
「へあ?」
 すげー間の抜けた声が出た。
 どういうこと。
 この人はもしかしたら、新人類なのかもしれない……。
 俺がそれ以上何も言えずにいると、手を伸ばされて、顎に指が掛けられて顔を上げられそうになった。
「おい」「せーんぱい、」「大河、飯食うだろ」
 その時だ。
 同時に三人分の声が聞こえた。
 藍川さんの肩を掴んでいる黒岩先輩、横から笑顔で声を掛けてきた金子、割って入る形になっている修二の姿がある。
「おお、おー?」
 なんだか三人とも、すごい剣幕だ。
 黒岩先輩は藍川さんの肩を掴む指に力が入っている。
「おっと、邪魔が入ったな」
 藍川さんは、俺の顎に触れようとした手を、降参とばかりに宙に挙げている。
 何がしたかったのかよくわからなくて、俺は自分の顎を手で触る。なんかついてますか。
「藍川、こいつにちょっかい出すのはやめろ」
 黒岩先輩が低い声で藍川さんに言うと、藍川さんは肩を竦めた。
「んー? 傑ちゃんはコイツのなんなわけ?」
「あ、サッカー部の後輩っす」
 俺が挙手をして宣言すると黒岩先輩は小さく息を吐いて、藍川さんの肩から手を離した。
 その横で、金子が笑いかけてきた。
「先輩、今日は俺とお昼食べませんかー?」
「いや、俺と食う約束だろ」
 修二も後に続く。
 うーん、どういう状況だこれ。
「じゃあみんなで食う?」
 なんだか見つめ合っている黒岩先輩と藍川さんも含めて、金子と修二に提案したら、二人とも微妙な顔を見合わせていた。なんでだ。






 りんちゃんはいつも弁当を持って来ているけれど、俺はいつも購買でパンやおにぎりを買っている。りんちゃんと食べるようになったら、俺も弁当を持って来た方がいいのかもしれない。そうだな。いつそのときが来ても良いように準備しておこう。
 修二も購買派だ。藍川さんもそうらしい。弁当派の黒岩先輩と金子が俺たちのことを待ってくれて、そのまま、ぞろぞろと五人で中庭に行った。
 晴れた日は、中庭は昼飯を食べるのに丁度いい。テーブルと椅子のセットがいくつも用意してあって、その一つを選んでテーブルの上に買ってきた袋を置く。周りのテーブルはもう埋まっていて、「なにあのメンツ」「濃くね?」「藍川さんカッコイイ~」なんてこっちを見て男女問わず囁いているのが聞こえてくる。
「てか、藍川さんって何者なんすか」
 なんだか四人は座る場所を決めかねているみたいだった。
 俺が真ん中に座ると、藍川さんがすっとその向かい側に座り、黒岩先輩がその隣に座った。俺の両隣には、修二と金子が座る。
 さっき、藍川さんを知らないのは非国民みたいな態度を取られたのを思い出して尋ねると、微妙な沈黙が流れた。
「え、なに」
「先輩、知らないんですか。藍川小次郎さんって、あれですよ。学校一モテるっていう」
「常に女、侍らしてるよな」
 金子が俺の耳元に唇を寄せて小さな声で教えてくれて、修二が頷いている。
「えっ、うらやまし!」
 俺はビニール袋の中からカツサンドを取り出して素直に言った。
「軽薄だ」
 黒岩先輩が眉を顰めて弁当を開けている。
「そのモテ男さんが、なんで今日はここにいるんすかね」
 修二もビニール袋からおにぎりを取り出した。
「ていうか先輩らもですけどね。赤星先輩とふたりで食べたかったなー」
 金子がぼやきながら赤い弁当箱を開けている。
 藍川さんもビニール袋からサンドイッチを取り出した。そして、口角を上げて笑った。
「だって気になるだろ。噂の伝説くん」
 そう言って俺を見てくる。
 二重の垂れ目と、その下にある泣きぼくろがきっと女の子からしたら色っぽいんだろう。
 緩くパーマが掛かった黒髪も大人っぽい。修二とは違うタイプのイケメンだ。
「そんな気になる?」
 朝から、いや、昨日からその話題ばっかりで、飽きてきた。
 俺はもっとこう……りんちゃんの好きなものとかを知りたい。なかなかガードが硬くて、教えてもらえていないんだ。
 修二と金子に聞いてみたら、修二は肩を竦め、金子は頷いた。
「一年の教室でも話題になってますよ」
「だから言っただろ、やめとけって」
「ガマンできなかったんだもん」
 好きって言いたかったし、五十一年間、りんちゃんと幸せになりたかった。
 カツサンドを頬張り、もぐもぐと咀嚼して飲み込む。美味い。
「そんなに好きなわけ? あのー、誰だっけ、」
「白州」
「そうそれ。男の名前って覚えられなくてさ」
 名前を思い出そうとする藍川さんに、りんちゃんとは教えたくなくて黙っていると、横の黒岩先輩がナイスパスを出した。流石です。
「はっ」
「あ?」
「り、りんちゃんに興味持ったらダメですからね!」
 この新人類のことだ、すぐにりんちゃんのことを調べて、本人に会って、口説き落としちゃうかもしれない!!
 俺が慌てて言うと、何故か、四人が顔を見合わせた。
「その、りんちゃん、に振られたんじゃねえの?」
 藍川さんが片目を細めて、食べかけのサンドイッチを俺に向けてくる。行儀が悪い!
「それとこれとは別だから!!」
「どう別なんだよ」
「ダメなものはダメ!!!! ていうか、あんたがりんちゃんって呼ぶのもダメ!!!!」
「ぶはっ、」
 俺が必死に言うと、藍川さんが吹き出した。それにつられるように、他の三人も肩を震わせて顔を背けている。なんだ。
「やっぱ面白ェわ、おまえ。なあ、連休空いてる日ある? どっか行かねえ?」
「は?」
 何がどうなってそうなるんだ。急な遊びの誘いに、理解が追いつかない。やっぱりこの人、新人類だ。
「あっ、いいですねー俺も赤星先輩と遊びたーい」
「大河、俺とボウリング行く約束してたよな」
「藍川と二人で行くのはやめたほうがいい」
 金子が笑顔で言い、修二が続き、黒岩先輩が真顔で言った。
 俺は四人の顔を順番に見て、首を傾げる。
「じゃあ、みんなでボウリング行く?」
 そう提案すると、四人の顔が引きつった。なんでだ。


◇◇◇

「おや、大人気ですね」
 昼食を取り終えた白州燐は、不意に中庭から聞こえてくる賑やかな声に思わず足を止めた。同様に気付いた千鳥が口にする。
 隣に立つ千里が、面白そうに燐を覗き込んだ。
「あれあれ、燐さんも気になる系?」
「違う」
 糸目の沢千鳥と女顔の沢千里は、双子だ。
 親同士が会社の上司と部下で、小さい頃からの付き合いだ。高校でもこうして燐の傍にいて何かと世話を焼いてくることが多い。
 中心にいる人物を見て、燐は目を逸らした。
「素直じゃないにゃあ」
 ふざける千里の声にあからさまに舌打ちをすると、「お行儀が悪いですよ」と千鳥に窘められた。
 燐は大きく息を吐き出し、中庭を背にして歩き出した。何も気付かない振りをする。

◇◇◇




 ――そして俺たちは今、ボウリング場に来ている。
 連休初日はバイトがあったから、二日目だ。
 何故か五人で昼ご飯を食べたとき、微妙な雰囲気になったような気がしたけど、藍川さんが連絡先を聞いて来たから交換して、その流れで五人のグループを作ることになった。全員の予定が合う今日、約束通り、ボウリング場に集まった。
 駅前にあるビルの中に入っていて、ゲーセンもカラオケも映画館もある、高校生には楽しい場所だ。
 いつかりんちゃんと二人で来たい。映画を観てゲーセンで遊んでカラオケという密室なんかに二人きりになっちゃったりして。
 フードコートもあるから、クレープとかソフトクリームを二人でシェアして食べるのもいいな……。
「っしゃ、ストライク!」
 俺がついりんちゃんとのデートを妄想していると、修二が嬉しそうな声を上げてガッツポーズをしていた。
 きれいにボウリングのピンが全部倒れている。
「さっすが、おめっと!」
 拍手をして片手を挙げると、修二がハイタッチをしてきた。
 私服の修二は、カッコイイ。長い髪を一つに括って、白いタンクトップの上に黒いシャツを重ねてシルバーアクセを着けている。こりゃあモテますわ。
 俺はというと、派手な柄のオーバーサイズのTシャツとダメージジーンズだ。友達と遊ぶからであって、りんちゃんとデートをするならもっと本気で格好つけて決めたいと思っている。本当だ。
「先輩先輩、俺も決めましたよ!」
 金子もストライクだ。すごい。手を挙げて金子ともハイタッチをする。
 金子は茶髪のマッシュで、白いシャツの上にベージュのベストを着て、スキニーを履いている今風のおしゃれボーイだ。
 ドガン、と勢いのある音と同時に全てのピンを倒したのは、黒岩先輩だ。
 黒岩先輩はグレーの半袖Tシャツをさらっと着こなしている。普段のゴールキーパーの衣装とのギャップが大きい。
「先輩もすげー! ナイッストラーイク!」
 戻ってくる先輩に声を掛けて片手を出すと、先輩がふっと笑ってハイタッチをしてくれた。
「おい伝説、俺のことも見とけよ」
「さすがにあだ名が伝説は勘弁っすね」
 投げる前に声を掛けてきたのは藍川さんだ。
 学校一のモテ男は、私服も決まっている。白いTシャツの上に赤と黒のストライプの柄シャツを前開きで着て、スキニージーンズを履いている。アクセサリーもシンプルなものを身に付けていて、一体何人の女の子と付き合ってきたんだ、という感じだ。
 宣言するその自信の通りにフォームもきれいで、ボールの軌道も真っ直ぐだ。
 狙いすましたかのように、全てのピンが倒れていく。
「うおー、すげえ!」
「当然だ」
 ドヤ顔で戻ってくる藍川さんともハイタッチしてから、はっと気付く。
「待って、これさあ……ストライク以外は帰れません、みたいなヤツ?」
 一投目で四人連続ストライクってなに!!
 周りの客(特に若い女の子!!)の視線を集めているのも気のせいではないと思う。実際、「あそこレベル高くない?」「イケメンばっかり」「ねえちょっと声掛けてみようよ」なんて声も聞こえてくる。くっ、羨ましい……。
 そして、やりにくい!!
「ねえ俺やりたくないんだけど!」
「はあ?」と藍川さん。
「赤星ならできる」と黒岩先輩。
「先輩のストライク見たいなー」と金子。
「俺が代わりにやるか?」と修二の有り難い申し出には、「それはダメじゃね」「ダメだな」「ダメです!」と一斉に突っ込みが入った。ちぇー。
「えっ、ストライクじゃなかったら奢りとかない? ないよね?!」
 仕方なく立ち上がってボールを持ってレーンの前に行きながら、四人を振り返って尋ねる。
 四人は顔を見合わせた。
「最終的にスコアが一番低かったヤツが一番高かったヤツの言うこと聞くとかどうよ」
 藍川さんがニヤつきながら提案する。
「言うことってなに!? どの程度!!?」
「そりゃあ、なんでもだろ。なんでも」
 藍川さんが当然のように言うのに、他の三人は何か考えている様子だった。いやいやいや、突っ込んでよ! 否定して! 
 このメンツの中で、最下位になるのは俺の可能性が一番高いぞ。
「なんでもは無理ー! 拒否権あるヤツなら可!!」
 もう負ける前提の気持ちになりながら、俺は勢いよくボールを投げる。
 行け、行け、そのまま、まっすぐ……!!!
 俺の祈りも虚しく、ピンに当たる直前でボールは曲がり始め、脇道に逸れるのでした。おお、ガター……。
「うっ、うう」
「どんまい大河、次行こ次」
 戻ったと同時に慰めてくれる修二とハイタッチをする。
「大丈夫です先輩、俺は変なことお願いしませんから」
 金子は自分が優勝する気でいる。
「次は行ける」
 黒岩先輩が背中を叩いてくれた。シュートを外したときの慰め方だ。
「その調子でどんどん外してくれよ、伝説ちゃん」
「だからそのあだ名やめて!?」
 藍川さんは性格が悪い。






 「行け!! 赤星スーパーローリングサンダー!!!」
 ――ガコン!!
 たった今編み出した必殺技を叫ぶと同時にボールを勢いよく投げる。
 ボールはまっすぐとピンに向かって転がり、全てのピンを倒すことができた。
「っしゃあ!」
 ガッツポーズをする。
 椅子に座っている四人は、最初の勢いがない。
 そう。今はもう終盤で、これが最後のターンである。
 スタートはあれだけストライクをガンガン打っていたイケメンたちだけれども、藍川さんの最下位の罰ゲーム宣言から、何故か異様に真剣になっていた。そんなに最下位が嫌なのか……。いや、俺だって嫌だ。もしここにりんちゃんがいて、りんちゃんが優勝するなら敢えて最下位になってなんでも言うことを聞いていたところだけれど。
「そういや、伝説ちゃんよぉ」
「赤星ね赤星、赤星大河」
「大河」
「呼び捨て早くね!?」
「距離感ないっすね」
 金子が投げている間、藍川さんがしつこく伝説呼びをするから自己紹介してやったら早速下の名前で呼ばれた。
 隣の修二もそう突っ込んでくれるが、藍川さんは気にした様子がない。
「大河はその、りんちゃん、のどこがイイわけ」
 金子が戻ったときに、藍川さんがそう聞いてきた。
 一瞬、変な空気が流れる。
「りんちゃんって呼ぶのダメ!! 白州って呼んで!!」
 俺を呼び捨てするのは百歩譲っていいけれど、りんちゃんをりんちゃんって呼ぶのは俺の特権だ。
 藍川さんは肩を竦め、「白州の」と言い直した。
 りんちゃんの、いいところ。
 次は黒岩先輩の番だけれど、先輩はボールを持ってから動き出さない。あ、これ、待たれてますか。
 俺は腕を組んで、うーん、と考えた。
 四人からの視線を感じる。
「顔」
「は?」
 即答すると、藍川さんの怪訝な声が掛かる。
「いや、一目惚れだったんすよ。りんちゃんの顔がさー、初恋の女の子に似てて」
「それ、初耳」
「言ってなかったっけ!?」
 隣の修二の言葉に俺が驚いた。修二にはなんでも話している気になっていた。
「小さい頃、親の会社の懇親会? みたいなのに何回も連れてかれてさ。すげーつまんなかったんだけど、そこで会える女の子がめちゃくちゃかわいくて!! その子に会えるのだけが楽しみでさ」
 大人が中心の会食では、子どもの居場所はない。粗相がないように大人しくしてなさい、なんて言われたけど、家で留守番していた方がマシな時間だった。でも、同じように連れて来られた子どもたちが遊べる待機スペースみたいなところで出会った、黒髪がきれいなクールな女の子のことは、今でも忘れられない。
「りんちゃんがすげー似てて、キュンときちゃったんだよなー」
 弓道場で出会ってしまった衝撃は、今でも忘れられない。
「顔だけなんですか」
 金子が聞いてきた。
「うんにゃ?」
「は?」
 首を振ると、今度は金子が瞬いた。
「最初は顔だけだったけど、今はもうりんちゃんの全てが最高でさ! 立ち振る舞い! 声! 横顔! 睫毛! ずーっと見てたい」
 だから、今の隣の席は俺のボーナスステージだ。
 一生席替えなんかなければいいのに。
 連休が終わったら、きっと席替えがあるんだろう。今から憂鬱だ……。
「メロメロじゃん」
「メロメロなんですう」
 藍川さんが笑うのに、俺は大きく頷く。
 黒岩先輩はボールを持ったまま、真っ直ぐと俺を見つめてきた。
「振られても変わらないのか」
 短く問われて、俺は首を傾げる。
「? 付き合うのが断られただけで、好きでいるなとは言われてないんで?」
 好きな気持ちを伝えたかった。告白のセリフといえば、「好きです付き合ってください!」ぐらいしか思い浮かばなくて、そう叫んでみたけれど、気持ちが伝えられればなんでもよかったんだ。
 付き合うのは無理だと言われたけれど、いくらりんちゃんであっても、俺のこの気持ちを一瞬で消し去ることはできない。
 当然のように俺が言うと、四人はまた顔を見合わせた。この人たち、仲良しか!
「赤星は……すごいな」
 黒岩先輩はそう言って笑って、レーンの方へと向かった。
 その後はなんだかみんな静かになっちゃって、ボウリングの調子も悪くなっちゃった。どうしてだ。
 俺は俺でどんどん楽しくなって調子が上がって、必殺技も編み出して、ストライクを連発しちゃったってわけだ。
 最後は俺のストライクで全員のゲームが終わり、スコアの表を確認する。
 
「はい! 俺、優勝~~!!」

 まさか初手ガターの俺が優勝するとは誰も思っていなかっただろう。
 ダブルピースをして喜ぶけれど、みんなの反応は弱い。弱すぎる。
「おめでとう……」
 修二! 項垂れてないでもっと喜べ!
「はは、さすが先輩ですねー」
 金子もテンションが低い。どうした。
「赤星、おめでとう」
 黒岩先輩は真っ直ぐ俺を見てくれたから、ハイタッチしにいく。
「大河がドベじゃなきゃ意味ねえんだけどな」
 ため息を吐く藍川さんはやっぱり性格が悪い。
 ちなみに、スコアは、俺、藍川さん、黒岩先輩、修二、金子、という順だった。ほとんど変わらず、どんぐりの背比べだったけれども。
「あーあ、負けちゃったなー。せーんぱい、優しいお願いにしてくださいね」
 金子がさして悔しくもなさそうに言って、俺に首を傾けてきた。
 そうか、俺が優勝したから、金子になんでも言うことを聞かせることができる。
 うーん。
 金子の顔をじっと見て、考えた。
 金子に、お願い。
「あっ」
「はい! なんでも聞きますよ、膝枕でも腕枕でも添い寝でもなんでも」
 金子のやる気満々な例えに「それはアウトだろ」と修二の野次が入ってきた。
「次のシフトさー、代わってくれね? 俺部活あんの忘れててさ」
 連休最終日に部活が入っているのを忘れて、バイトを入れてしまった。
 無理して急げば間に合うが、急ぎたくない。
 俺の『お願い』を聞いた金子は、笑顔のまま一瞬固まった。
「そうですよね赤星先輩ってそういう人ですよね、わかってました。わかりました。シフト代わりまーす……」
 項垂れながら頷く金子に、「どーんまい」「どんまい」と藍川さんと修二が肩を叩き、黒岩先輩も無言で頷いている。何この空気、やっぱり仲良し!?





 ボウリング場を後にして、「次どうする?」という話をしているときだ。このビルの中には、ゲーセンもあるしカラオケもあるしフードコートもある。どこにでも行けるけれど、この五人でどこかに入るっていうのがウケる。ボウリング場の入り口の辺りで、可愛いお姉さんたち三人組に藍川さんと修二が「ボウリング超かっこよかったー」「このあと遊びに行かない?」と声を掛けられている。(逆ナンってやつ!?)
「あっ!」
 俺は思わず声を上げた。ゲーセンの入り口の近くで、りんちゃんの気配がしたからだ!
「ごめん、ちょっと俺行ってくる! すぐ戻るから!!」
 黒岩先輩と金子にそう声を掛けて、俺は走った。「赤星先輩!?」と金子の声が聞こえるが、ごめんな!! と心の中で謝る。
 ゲーセンに入ってきょろきょろと辺りを見渡す。
 休日のゲーセンは親子連れやカップルで賑わっているが、俺がりんちゃんを間違えるはずがない。
「りんちゃん!!」
「!」
 人気のゆるキャラのぬいぐるみが展示されているUFOキャッチャーの前に立つりんちゃんに声を掛けると、りんちゃんがびくっと肩を竦めた。
 休日のりんちゃんだ。
 白い学ランという変わった制服をバシッと着こなす姿ももちろん良いけれど、白いシャツにカーディガンを着ている姿も素敵だ。
 うっ、オフモードのりんちゃんが見られるなんて、生きててよかった……。
「な、なんだよ」
「なんでここにいんの!?」
「別に……悪いかよ」
「悪くない全然悪くない、むしろ運命!?」
 約束もしてないのに休日に会えるなんてすごくない!?
 俺のテンションは最高潮だ。
「りんちゃん今一人? 今さ、みんなで遊んでんだけど、りんちゃんも来ない?」
 テンションが高ぶるままにそう誘いかけると、りんちゃんがちらりと俺を見た。
 目が、合った!!!!
 隣の席でも、目が合うのは一日数えるほどだ。
 もうそれだけでうれしい。
 どうしよう、今日のしし座の運勢、一位かもしれない!!
「誰といんの」
「え」
「だから、誰がいんのか聞いてんだよ」
「え!! えーっと、修二と黒岩先輩と金子と藍川さん」
「知らねえ」
 はっ。
 りんちゃん、もしかして、人見知り……!?
 ていうか、そもそも、俺だってこの集まりは謎だ。
 いきなりりんちゃんを誘うのは良くなかったかな。
 でも俺はりんちゃんともっと一緒にいたい。
 どうしよう。
「大河!」
 俺が悩み始めたタイミングで、修二が俺を呼ぶ声がした。振り返ると、藍川さん、金子、黒岩先輩も一緒にいる。
 追いかけて来てくれたみたいだ。
「あ、ごめん」
「あれ? これ、りんちゃん?」
「だからりんちゃんって呼ぶなって!!」
 藍川さんが修二の肩を組んでこっちを覗き込んでくる。
 りんちゃんは思い切り迷惑そうに眉を顰めた。
「じゃあ、俺はこれで」
「待って待って待ってりんちゃん待って!」
「何だよ」
「りんちゃんも一緒に行こ!!」
「は?」「「「「は?????」」」」」
 りんちゃんと、他の四人の声も重なった。
「いいじゃん、ここで会ったのも運命だって!!」
「運命じゃねえ。無理。帰る」
「えー! じゃあさ、一個だけ教えて!」
 俺はりんちゃんが嫌がることは強制しない男だ。
 人見知りだってことがわかっただけでも収穫だし。
 それ以上はねだらないけれど、気になったことがある。
「これ、好きなの?」
 りんちゃんがいたUFOキャッチャーは、目つきの悪いうさぎのキャラクターだ。
 こそっと小さい声で聞いてみたら、りんちゃんは僅かに目を丸めた。
「は? そういうのじゃねえから、勘違いすんなよ」
「あっ、もしかしてイヤホンも」
「違う。――じゃあな」
 あのイヤホンに、このキャラクターが小さく書いてあったら可愛すぎると思ったのに、一刀両断されてしまった。
 そして、りんちゃんは俺を見てそう言ってくれた。うわ。じゃあなだって、じゃあな。
 その後、四人にも視線を遣ってから、りんちゃんは騒がしいゲームセンターを去って行った。
 私服でも姿勢が良い。今度は、りんちゃんが休日に何をして、どんなことに興味があるのか聞いてみよう。
「行っちゃいましたね、先輩どんまい」
「クールだねえ、大河脈無しじゃん」
「大河これ好きだったよな、取るか?」
「腹減ってないか」
 四人が一斉に声を掛けてくる。
 もしかして、藍川さん以外は慰めてくれてる……!?
 修二は近くにあった俺が好きなゆるキャラの恐竜のぬいぐるみを指さしていて、黒岩先輩は俺の腹の心配をしてくれた。
「大丈夫大丈夫、りんちゃんと会えただけでスーパーハッピーだから!!」
 俺が言うと、四人はまた顔を見合わせる。それ、今日多くない!?






 ゲーセンで、修二が宣言通りに俺が好きな目つきの悪い恐竜のぬいぐるみを取ってくれたのをきっかけに、みんな燃え上がっちゃって、どれだけ少ない回数で景品が取れるか競争し始めた。俺は俺で、りんちゃんが好きっぽい(例えりんちゃんが好きじゃなくても、俺とりんちゃんの今日の思い出だ)目つきの悪いうさぎのぬいぐるみを取ろうとしたが、全く掠りもしなかった。そんなところもりんちゃんっぽい。
 修二から大きいサイズのぬいぐるみ、藍川さんは小ぶりサイズのぬいぐるみ、金子はキーホルダー、黒岩先輩はクッション。
 何故かみんなから恐竜グッズをプレゼントされて、ゲーセンの袋に入れてもらいながら、俺たちはフードコートにやってきた。
「すげー嬉しいんだけど、なんでみんなこんなにくれたの? あ、俺がスコア最高だったから!?」
「もういいよそれで」
 誕生日でもないのにプレゼントをもらえて、嬉しい。部屋に飾っておこう。
 ボウリング頑張ってよかったなあって納得していたら、修二が遠くを見ながらぽんと頭を撫でてきた。
「赤星せんぱーい、俺のクレープ一口食べませんか」
 隣に座った金子がクレープまで差し出してくれる。
「えっ、なんで」
「美味いですよ、いちごカスタード」
「あざっす」
 口許まで来たからそのまま口を開けてぱくっと食べる。美味い。いちごの甘酸っぱさとカスタードの甘さが絶妙です。
「タピオカ好きだろ、大河」
「別に好きじゃないけど」
「飲めよ」
「なんでえ?」
 今度は藍川さんにタピオカミルクティーを差し出された。餌付け?
 とりあえずストローに口付けて飲む。
 もちもちしたタピオカを噛みながら、「あざす」と礼を言った。
「赤星、何食べるんだ」
「えーどうしよっかな、黒岩先輩は?」
「ラーメンかカレー」
「うわっ、いいな。俺オムライスにしよっかな、ラーメン一口くれます?」
「ああ」
 頷く黒岩先輩に「やったー」と喜んで、俺は席を立つ。修二も一緒にオムライスの店に並んだ。
 修二の横顔が、いつもより元気がないのに気付いた。
「え、修二疲れてる?」
「あ? ああ、少しな」
「つーかさ、先に二人で約束してたのにな。みんなで遊ぶことになっちゃってごめん!」
 そうだ。これ、言ってなかったっけ。
 オムライスの列に並ぶ間に手を合わせて頭を下げると、修二が目を丸めて、「ぷは、」と吹き出して笑った。
「はは、おまえってそういうヤツだよな」
「お、怒ってない?」
「いいよ。大河は楽しい?」
「う? うん、めっちゃ楽しい!」
 なんかみんな仲良くなったし、りんちゃんにも会えたし!
 大きく頷くと、修二がふっと柔らかく笑う。
 そして俺の髪をまた撫でてきた。今度は優しく。
「それならいいって。おまえが楽しいと俺も嬉しいしさ」
「修二、おまえって……めちゃくちゃいいヤツ!!」
 俺が飛びついて肩を組むと、修二が揺れた。
 こいつと親友で、ほんとによかった!






 席に戻って、黒岩先輩のラーメンも、修二が選んだトマトオムライスも一口ずつもらって(俺はチーズのオムライスにした)、お返しに俺がオムライスをあげようとしたら何故か藍川さんと金子に止められて、まあそんな感じでフードコートでの食事もわいわい楽しく終えられた。
「あ、俺、そろそろバイトの時間なんで」
 金子は今日、夕方からシフトに入っていた。スマホで時間を確かめると、いい時間になっていた。
「じゃあ、そろそろ解散しよっか」
 俺が言うとみんな頷いて、立ち上がる。
 俺は忘れずに恐竜グッズが入ったビニール袋を持って、ぞろぞろとフードコートから出ようと歩き出したときに、ふと思い出した。
「ってかさ、藍川さんなんで今日誘ったの?」
 そうだ。
 藍川さんの一言がなければ、この時間はなかった。
 藍川さんを見上げて言うと、藍川さんは口端を持ち上げた。
「ああ? 言ったろ、おまえに興味があったんだよ」
「なるほどねえ、どんだけ変なヤツか確かめたかったってことか」
 伝説のいじりはもう十分だっての。
 今日一日で、俺がフツーの男の子ってわかって、もう興味はなくしたんじゃないでしょうか。
「変じゃないのわかったでしょ」
 俺が言うと、藍川さんは目を丸める。
「変だよな?」
 そして何故か、他の三人に話を振った。
「はは、ノーコメントです」金子が笑う。
「変……というか」黒岩先輩が濁す。
「変ではないですよ」修二が庇ってくれる。
 えっ、何その反応!? 
 みんな即答で否定してくれると思ったのに!
 そして藍川さんが立ち止まって、俺の顎をくいっと指先で上げてきた。この人、慣れてる。
「あ」
「おい」
「ちょっと!」
 金子、黒岩先輩、修二がすぐに反応するから、藍川さんは笑いながら手を離した。
「はいはい、手は出さねえよ。――大河、おまえさ」
 顎に触れない代わりに、じっと俺の目を見てきた。距離が近い。
「もう一日過ごしたから十分でしょ、なんて思ってねえよな」
「? 違うの?」
 藍川さんは俺に興味がある、一日一緒に遊んだら興味がなくなる、んじゃないの?
 俺の中の方程式を見透かされて、首を捻ると、ふっと藍川さんが笑った。
「残念。ますます興味津々だわ。――覚悟してろよ」
 つん、と指先で額を押されて顔が揺れる。
 覚悟してろよ、って、何をだ、と思ったけど、その言葉は俺じゃなくて、三人を見て言ってた。だから、何を?
「赤星先輩」
 金子に声を掛けられる。
「あの人、気をつけてくださいね。絶対二人っきりになったらダメですよ」
「なんで?」
「その通りだ。何かあったらすぐ助けを呼べ」
「なんでえ?」
「大河、気をつけろよ」
 黒岩先輩と修二まで、真面目な声色で心配してくれる。
 藍川さんは片目を細めて笑って、肩を竦めた。
「信用ないねえ。大丈夫、本気になったら真面目だぜ、俺」
 それだけ言い残して、ひらりと手を振って藍川さんは先に歩き出した。
 残された三人は顔を見合わせる。
「あ、急がなきゃ。それじゃ、先輩。今日はありがとうございました!」
 金子は慌ててパタパタとバイトに向かって走り出した。
「赤星、部活忘れるなよ」
 黒岩先輩も軽く手を挙げて帰って行く。
「じゃあ、俺も練習あるから。またな」
「おー、またな」
 修二にも手を振って送り出す。
 俺も、夕暮れに染まり始めた道をのんびりと歩き出して家に帰った。
 楽しかったなあ。
 恐竜が詰まった袋をぎゅっと抱き締めてから、今度は目つきの悪いうさぎを頑張って取ろうと心に誓うのだった。